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どうなる日韓関係。航空会社的に将来を予測してみると・・・

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長
成田空港を発着する大韓航空。最近機材が小型化されてきている。

このところ急激に日韓関係が悪化しています。

日本が何をどうしても彼らには癪に障るようで、どうにもならない閉そく感があります。

なぜ韓国人がこれほどまでに日本を目の敵にするのかについてはここでは述べませんが、日本製品のボイコットや日本への旅行の取りやめなど、韓国国内の世論は自分たちの生活から日本を排除する方向に向かっていることは間違いないようで、おそらく相当長期化するだろうということがテレビなどのニュースで報じられています。

日本は国を挙げて観光立国を宣言し、訪日外国人観光客は年間3000万人を超え、4000万人も目前と言われている時に、年間700万人を占める韓国人旅行者が大幅減になるのは国の政策にとっても大きなマイナス要因です。

では、実際に韓国からの旅行者が大幅に減少するとどういうことが起きるのか。航空会社的観点から考えてみたいと思います。

日韓路線に占める割合

日本と韓国との間には航空協定がありました。

これは2国間で路線や便数などをお互いに取り決めるもので、航空会社は国の政策に従って路線を割り当てられ運航しています。

ところが日本と韓国との間は2013年にオープンスカイ化が行なわれ、航空会社がある程度自由に路線を選んで運航できる体制がとられています。

近年急速にLCC(格安航空会社)が発展し、韓国からも多くのLCCが日本に乗り入れてきているのはこのオープンスカイ政策のおかげでありますが、気になるのはLCC各社はもとより、韓国大手のアシアナ航空や最大手の大韓航空が、日本路線の運休、あるいは減便、機種の小型化などを次々と発表しているところです。

これに対して、日本の航空会社ではそのような発表はされていません。

不思議だと思って調べてみると、意外な事実が判明しました。

韓国航空会社の日本乗り入れ路線数

韓国の航空会社が就航するアジア路線の中で日韓路線が幾つあるかまとめてみました。

【大手2社】

・大韓航空:アジア路線81 うち日韓路線24

・アシアナ航空:アジア路線58 うち日韓路線12

【LCC各社】

・t'way:アジア路線45 うち日韓路線25

・チェジュ航空:アジア路線55 うち日韓路線23

・ジンエアー:アジア路線29 うち日韓路線10

・エアプサン:アジア路線29 うち日韓路線12

・エアソウル:アジア路線16 うち日韓路線11

・イースター航空:アジア路線30 うち日韓路線12

各社ともアジア路線に占める日韓路線の割合がとても大きくなっているのが分かります。

(上記数字には以遠権を行使している路線も含まれます。以遠権というのは日本を経由して第3国へ向かう権利のことで、大韓航空の成田―ホノルルや、チェジュ航空の関空・成田・中部―グアムなどの路線です。)

日本各地へ就航する韓国のLCC(t'way)
日本各地へ就航する韓国のLCC(t'way)

これに対して、日本の航空会社の路線に占める日韓路線はというと

【大手2社】

・日本航空:アジア路線33 うち日韓路線2(羽田-金浦、成田-釜山)

・全日空:アジア路線43 うち日韓路線1(羽田-金浦)

【LCC】

・ピーチ:アジア路線17 うち日韓路線5

・バニラ:日韓路線0

・エアアジア:日韓路線0

・スカイマーク:日韓路線0

・ジェットスター:日韓路線0

このように、自社の路線に占める日韓路線の割合が実に低くなっていることが分かります。

日本航空を例にとると、かつては成田―ソウル、大阪-ソウル・釜山ばかりでなく福岡―ソウル・釜山、小松-ソウルといった路線にも就航していましたが、オープンスカイ化以降すべての路線から撤退しています。

おそらく韓国側のLCC攻勢には運賃勝負ではかなわないと見て早々に戦略を変更した結果であると理解できますが、そのすきを突いた形で、ある意味、競争相手がいない中で好き勝手に日本国内に進出しているのが現在の韓国の航空会社ということになります。

このまま運休減便が続くとどうなるか

航空会社というのはその営業戦略の基本となるのは自国民をどうやって海外へ連れて行くかということです。

日本航空や全日空が日本の経済発展に合わせて伸びてきたのは、日本人のビジネス出張や旅行ブームによるところが大きく、基本的には日本人向けのサービスを展開しています。

もちろん今の時代は世界中で航空券が買えますから、外国人でも日本の航空会社を第一チョイスにされる方もいらっしゃいますが、どちらかというと少数派です。同様に韓国のLCCも韓国人を外国へ連れて行くビジネスが基本であり、韓国経済の発展に合わせて急速に伸びているのが現状です。

そして、韓国のそれぞれの航空会社の路線比率の中で、日本路線が占める割合がこれだけ高いということは、韓国人にとっての旅行先として、日本の魅力が高いことを示しています。

その、最も行きたい旅行先である日本に対して、感情に任せて旅行をボイコットするようなことが起きるとどうなると思いますか。

おそらく長引けば長引くほど、LCCをはじめ韓国の航空会社の業績が急激に悪化して、中には経営危機に陥って倒産するような会社も出てくるでしょう。

これが、航空会社的視点に立ってみた場合の日韓関係悪化が航空会社を直撃する事象です。

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▲成田空港を発着するエアソウルとチェジュエアー

カラフルな機体をたくさん目にすることができますが、これらの機体がいつまで見られるか心配なところです。

飛行機をどこへ持って行くかという問題

日本路線を運休したり減便したりするということは、当然ですが飛行機と乗務員が余ります。

LCCのような低運賃で勝負する会社は飛行機の回転率をできるだけ上げるのが利益を出すポイントですから、飛行機や乗務員が余剰となって地上に留め置かれているという事態は避けなければなりません。

では、その余剰となった飛行機と乗務員をどこへ持って行くか。

自国内の国内線であれば、路線開設や増便が容易にできますが、韓国の狭い国土の中でこれ以上国内線の需要を開拓するのは容易ではありません。

では国際線はどうかというと、オープンスカイになっているところは既に就航している都市が多く、二国間協定が必要な国では協定を結ぶのに長い時間を要します。

LCCの飛行機は短距離向けの小型機が多く、アメリカやヨーロッパといった長距離路線にも進出することはできません。

つまり、日本路線を切るということは、彼らにとっては八方ふさがりの状況を招くことになり、命とりになりかねないということなのです。

これに対し、日本の航空会社は日韓路線に占める割合が小さく、また、LCCの場合、日本国内でもまだまだ就航する余地がありますから、韓国路線が運休しても減便しても取るべきビジネス戦略はまだまだ多く残されているということになります。

大韓航空・アシアナ航空の場合

LCCだけではありません。

大手2社の場合はもっと深刻です。

大韓航空、アシアナ航空も多くの日本の地方都市に就航していますが、LCCと違うところは韓国へ向かうだけではなく、海外旅行へ行く日本人も多く利用するということです。

大韓航空やアシアナ航空はソウルを起点としてアメリカやヨーロッパ、東南アジアなどへ多数の路線が出ています。

日本国内の就航地の方々にしてみたら、アメリカやヨーロッパなどに出かける時に、わざわざ羽田や成田、関空に出向いて乗り継いで行くことを考えたら、自分の住んでいる都市からソウルを経由してアメリカやヨーロッパへ行く方がはるかに便利です。まして航空運賃も日本の会社に比べると割安ですから、そういう需要があるのです。

韓国人の全人口は日本の約半分、5100万人です。

大韓航空やアシアナ航空という航空会社は自国民だけで成り立っているわけではなくて、ずっと以前からお隣の国である日本人1億人のマーケットを取り込むことで会社を大きくしてきたのです。

日本の課題

民族間の友好という話は置いておきます。

日本が国を挙げて観光産業を推進するという方針を打ち出していますが、観光産業というのは不要不急の消費行動ですから、何かあったらすぐにお客様は来なくなります。

今回の政治的ギクシャクはもちろんですが、自然災害やテロなど、何かあるとその翌日からすべての予約がキャンセルになるなんてことが宿命なのが観光産業です。

そういう状況を踏まえた上で、その何かあったら次の日から来なくなるという観光産業の弱点を、国を挙げてきちんと克服できるような方策が必要ではないでしょうか。

筆者は昨年BCP(Business Continuity Planing)について提案しましたが、企業として、業界として、あるいは国として、観光を産業だというのであれば、何かあった時のためのBCPをきちんと整備しておくことが喫緊の課題であると提案したいと考えます。

それとともに、いかに政府がコントロールしやすく感情に左右されやすい国民だと言っても、自国の経済規模や日本への依存度を考えたら、日本を加害者呼ばわりして日本をボイコットするということは、ある意味「天に向けて唾を吐く」行為に等しいということぐらい彼らだって理解しているはずです。つまり、それでもやるんだ!というある種捨て身の覚悟がありますから、私たち日本人はあまり韓国人を追い込まないようにしなければならないと、筆者は考えるのであります。

日本人の皆さんは韓国人はもちろんのこと、外国人旅行者に対してできるだけ親切に対応していただきたいと切にお願い申し上げます。

なお、筆者のブログに 「なぜ韓国人はこれほどまでに日本を嫌うのか」 を記していますのでご興味のある方はどうぞご一読ください。

BCPについてはこちらをご参照ください。

JRの一斉運休に見る日本のお寒いBCP事情

※本文中の数字は筆者調べ

掲載の写真はすべて川田光浩氏の撮影です。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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