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最終回直前の『ボス恋』が、スポンサーにケンカを売った!?

碓井広義メディア文化評論家
(提供:shiori/イメージマート)

「なんだ、もう次で終わりかあ」と嘆くファンは多いかもしれません。『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』(TBS系)は、来週が最終回になります。

波乱の「ラス前」

連ドラの最終回直前、いわゆる「ラス前」っていうのは、結構波乱があるものです。9日に放送された『ボス恋』第9話も例外ではありませんでした。

潤之介(玉森裕太)が奈未(上白石萌音)に婚約指輪をプレゼントしたかと思ったら、ラストで奈未がその指輪を返してしまった。「おいおい、まさかのお別れなのか?」という展開だったのです。

奈未にしてみれば、ようやく編集者という仕事の面白さ、奥深さが分かってきたところです。このまま潤之介と共に金沢に行き、結婚しちゃっていいのかと悩んだ末のことでした。

まあ、この決着のための最終回ですから、しばし待つしかありません。

実は、この第9話での「びっくり」が、もう1つあって・・・。

雑誌「MIYAVI」の編集長だった宝来麗子(菜々緒)が、なんと備品管理部に左遷され、会社の制服を着て仕事を始めました。

で、「MIYAVI」の新編集長としてやって来たのが、ライバル誌「ZEAL」の元編集長、高橋麻美(高橋メアリージュン)だったのです。

しかも、彼女はこう宣言しました。

「MIYAVIの路線を変えて、ハイブランドの付録企画を目玉に据える!」

それを聞いた、ドS先輩こと中沢涼太(間宮祥太朗)は、

「付録(かよ)……」

と吐き捨てるようにつぶやきました。

隣りにいた和田和美(秋山ゆずき)は、はっきり声に出して、

「そんなの、MIYAVIじゃない!」

それは、編集部員みんなの気持ちでもありました。

「付録付き雑誌」の功罪

いつの間にか、書店やコンビニに「付録付き雑誌」が大量に並ぶようになっています。

特に目につくのが女性誌で、ライフスタイル系はもちろん、ファッション雑誌も付録満載。ポーチ、バッグ、財布、アクセサリー、ハンカチなど多彩かつ豪華です。

この「付録路線」は2001年の規制緩和から始まったようですが、付録の御威光は圧倒的で、もはや付録付きの「雑誌」なのか、雑誌付きの「付録」なのか、判然としません。

いわば、雑誌の「食玩化」です。

しかも、この「付録付き雑誌」の売れ行きがいい。読者にとっては魅力的で、だから各社が参入するわけです。

一方、「付録付き雑誌」の隆盛は、雑誌そのものの「価値の低下」であり、もっと言えば「雑誌文化の衰退」だとする議論があるのも事実です。

『ボス恋』の編集会議でも、中沢が主張します。

「これまでMIYAVIは企画内容で勝負してきました!」

高橋の反論は、

「これはビジネスよ。売れない雑誌ばかり作ってる出版社がどうなるか、あなたたちも学んだでしょ?」

中沢の言い分にも、高橋の言葉にも、それぞれ一理あります。

とりあえず、付録の企画は、また次の会議で話し合うことになりました。

それにしても、ここで「付録付き雑誌」をネタにしてくるとは、脚本の田辺茂範さんと制作陣も思い切ったことをするものです。

何しろ、この番組のスポンサーには、「宝島社」が入っているんですから。

「付録付き雑誌」を代表する『GLOW』、『steady.』、『InRed』、『SPRiNG』などは、どれも宝島社が出している雑誌です。今や「付録付き雑誌」の総本山と言っていい。

凄かったのは、中沢が「付録(かよ)・・」と苦笑いした直後のCMが、宝島社の『InRed』だったことです。

付録は、エコバッグに大変身しちゃう「くまのプーさん ミニポシェット」。いや、ちょっと欲しくなりました(笑)。

スポンサー叩きか、アシストか

これって、見方は2つ、あります。

1つは、「付録付き雑誌」の総本山がスポンサーでありながら、出版の王道を守るべく、果敢に「付録付き雑誌」批判に挑んだ。

2つ目の見方は、「付録付き雑誌」を邪道として叩くと見せかけて、現在の出版界における「付録付き雑誌」の存在をアピールし、ちゃっかりスポンサーを喜ばせた。

どちらにしても、「MIYAVI」的な世界が決して安泰なものではない現状を知らしめることで、出版文化や活字文化について考える、ちょっとした「きっかけ」をくれたのではないでしょうか。

やはり「ラス前」は波乱です。奈未たちの恋も含め、あれやこれやの決着は、来週の最終回で。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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