Yahoo!ニュース

あの時計をスズ子がずっと持っていたことに驚き。そして亀は香川に残った「ブギウギ」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

スズ子とキヌの新たな出発とも思えるようないいシーンに

朝ドラこと連続テレビ小説「ブギウギ」(NHK)の第23週、第110回で、ドラマのムードメーカーだった梅吉(柳葉敏郎)が亡くなった。

第111回では、哀しみの葬儀に、キヌ(中越典子)が現れる。長いことわだかまりを抱えていたスズ子(趣里)が、愛子(小野美音)にキヌを「マミーのマミーや」と紹介する場面は、第110回の「父ちゃんブギ」に続いて涙なくしては見られない。さらに、ドラマの前半に描かれた、亀や懐中時計が良きところに着地したのも印象的だった。

盛りだくさんの第111回を制作統括・福岡利武チーフプロデューサーが振り返る。

「亀を通して、花田家の家族が繋がっていることを感じてもらえたらうれしいです。香川で亀と愛子が梅吉に写真を撮ってもらう場面では、僕は亀に六郎(黒崎煌代)を重ねて見ました。六郎が大切にしていた亀が梅吉に引き取られ、愛子と出会って……。そこで僕は、おじさんと姪っ子みたいに見えて泣けたのですが、愛子自身はそんなことはわかってなくて、亀がただ可愛いっていうだけなんですけどね(笑)」

「ブギウギ」より 写真提供:NHK
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

亀は第1週から印象的だった。「ブギウギ」取材会の最初に演出の泉並敬眞さんに質問したら「キャストのひとりのようなつもりで助監督が育てていて、成長していきます」という回答だった。今後も長く出てくるとのことだったが、まさかこんなに長く、しかも重要な役回りになるとは驚いた。

第1週の記事はこちら

「子供時代の亀は小さい亀で、黒崎さんのときは大きい亀に変わっていまして。小さい亀と大きい亀の2種類の大きさの亀で撮影していました。小さい亀は、足立紳さんが六郎と名付けていました」

亀を愛子が東京に連れて帰るだろうかとも思ったが、そうはならず、代わりに愛子が手にいれたものは、かつてキヌからスズ子がもらった時計だった。

「時計をスズ子が愛子に渡す場面を描きたかったというのはあります。時計については、どうするか、これまでずっと議論してきて。足立さんとしては時計をどこか、いいところで出したいという強い思いがあって、ここがいいタイミングではないかということで満を持して出しました」

さて、スズ子に「マミー」と認めてもらったキヌ。中越典子の演技から、苦労して、いまはふたりの息子と落ち着いた生活を過ごしていて、でもスズ子のことも忘れていなかった、長い歳月を感じさせる雰囲気がよく出ていた。

「撮影は香川でした。本当に長い時間が空いてのキヌの登場でしたが、中越さんがしっかり準備して来てくださったことと、香川の空気も相まって、スズ子とキヌの新たな出発とも思えるようないいシーンになりました。ゆるす、ゆるさないとかそういうことはセリフでいっさい語りませんが、ふたりの気持ちがよく出ていました。趣里さんと中越さんは撮影の合間、温かいものを飲みながら、仲良くしゃべっていらっしゃって、それによってリラックスしてお芝居ができたのではないでしょうか」

ロケ地の松林は、第5週でスズ子が出生の秘密を知ってショックのあまり走っていた場所と同じ。趣里は「私、ここで走った」と懐かしがっていたそうだ。

「ブギウギ」より 写真提供:NHK
「ブギウギ」より 写真提供:NHK

残り3週の脚本は足立紳。W脚本家体制はどうだったか。

「マミーのマミーや」とキヌ本人に直接言うのではなく間接的にキヌが聞く、足立紳の脚本がいいと福岡CP。このあと最終週までは足立がすべて担当するという。

櫻井剛も担当話数が多く、9週分――3分の1ほど担当したことになる。戦争中の重要なエピソードを櫻井が担当したこともあり、個性と技術が拮抗したW脚本家体制という新しいトライだったようにも思うが。

「ステージシーンの準備に時間がかかるため、台本をとにかく早く開発しないとならなかったという理由もありますが、二人体制でやってみて、とてもよかったと思います。話し合いながら作っていって、ふたりの作風の境目もあんまり感じなかったと思いますし、それでいてそれぞれの個性もありました。今回の経験から、半年という長いドラマなので、脚本家が複数入るのはいいのではないかなと僕は思いました」


連続テレビ小説「ブギウギ」
総合【毎週月曜~土曜】午前8時~8時15分 *土曜は一週間の振り返り
NHKBS【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
NHKBSプレミアム4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
【作】足立紳 櫻井剛 <オリジナル作品>
【音楽】服部隆之
【主題歌】「ハッピー☆ブギ」中納良恵 さかいゆう 趣里
【語り】高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
【出演】趣里 水上恒司 / 草彅剛  菊地凛子 小雪 生瀬勝久 水川あさみ 柳葉敏郎 ほか
【概要】大阪の下町の小さな銭湯の看板娘・福来スズ子(趣里)は歌や踊りが大好きで、道頓堀に新しくできた歌劇団に入団し活躍後、上京。そこで、人気作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会い、歌手の道を歩みだす。“ブギの女王”と呼ばれた人気歌手・笠置シヅ子をモデルにした、大スター歌手への階段を駆け上がる物語。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

木俣冬の最近の記事