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NYのファッションテック事情。買い物がスムーズにできる「魔法の鏡&近未来試着室」

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
魔法の鏡&近未来試着室を導入している、レベッカ・ミンコフNY店

アメリカでは大都市圏を中心に、ファッションとテクノロジーを掛け合わせた造語「ファッションテック」が近年話題になっており、世界のファッション業界はここ数年で激変していくと予想されている。

ニューヨークには、ファッションテックがすでに導入され、普段使いされている店がいくつかある。今回はその一つ、ファッションテックから生まれた面白い試着室を覗いてきた。

魔法の鏡: その1

向かった先は、高級ブランドが集まるマンハッタンはソーホー地区にある、セレブ御用達の店「レベッカ・ミンコフ(Rebecca Minkoff)」。この店に、全面タッチパネルの大きな鏡ーーサイズや色の在庫確認から支払いまで必要なことがすべてできる(しかも日本語で)、魔法の鏡&近未来の試着室があるらしい。

お店に入るとまず気になったのが、壁に取り付けられたこの巨大な鏡…。

試着室は奥。これは何の鏡?と思ったら…
試着室は奥。これは何の鏡?と思ったら…

「タッチスクリーンになっているのよ」と、スタッフのメルセデス・ヤスミーンさんが説明してくれた。

この鏡に触ると最新のルックブックが見れたり、サービスで出してくれる無料ドリンク(お茶、コーヒー、エスプレッソetc …そしてシャンパンも!)を選べたりできる(希望により携帯番号を入力すれば、ドリンクが用意された際にテキストで知らせてくれる)。まさにレセプション的魔法の鏡だった。

魔法の鏡: その2

店内をぐるっと回っていると、スタッフが熱々のおいしいエスプレッソを持って来てくれた。ありがたくいただきながらお店をひとしきり見たら、気に入った洋服を持っていざ試着室へ。

見た目は普通の試着室のようだが…
見た目は普通の試着室のようだが…

試着室に入ると、何もしなくても商品情報が“魔法の鏡”に写し出された。これにより、ほかのサイズや色など、在庫確認やリクエストが瞬時にでき、店員を呼んでリクエストして「少々お待ちください」の時間が省けた(鏡は店員が各自で持っているiPadと繋がっているため、タッチスクリーンでリクエストすれば、瞬時に在庫を持って来てくれる)。

ほかに言語(日本語を含む)や、その洋服を着るであろうシーン(照明)の選択メニューもある。「試着室内では好きな色だったけど、日中や薄暗いレストランではいまいちだった」なんていう失敗を防ぐための優しい心遣いのようだ。

店員のメルセデスさんによると、これら一連のプロセスを可能にしているのは、RFIDと呼ばれるセンサー技術なのだとか(洋服には、ID情報が埋め込まれたRFタグが付いている。Suicaのような非接触ICカードをイメージするとわかりやすいか?)

このRFタグにより、試着室に入ると何もしなくてもRFIDが察知し、商品情報が鏡に写し出されるというわけだ。

この値札にRFタグが取り付けられている
この値札にRFタグが取り付けられている

魔法の鏡1&2の正体は「オークミラー」

これらの魔法の鏡の正体は「The Oak Mirror(オークミラー)」というらしい。開発したのは、米「Oak Labs, Inc (オーク・ラボズ社)」。同社のジェニー・サムエルズさんによると、オークミラーは、元eBayの小売イノベーションチームにいたテック専門家らにより開発され、2015年に誕生したものだそうだ。

オークミラーは、レベッカ・ミンコフ以外にもラルフローレン、ゲリーヴェーバーなどですでに導入されている。試着室内で、店員に煩わされることなく、ほぼ自分で、ほぼすべてのプロセスを、スピーディー&スムーズにできるとあり、レベッカ・ミンコフではオークミラー設置以降評判は上々のようだ。

新決済システムでの支払いも

またオークミラーではこの2月より、近距離無線通信と言われる「NFC技術*」も導入し、オークミラー内でApple PayやAndroid Payの利用が可能になったばかり。これにより、すべての買い物のプロセスを、このオークミラーで完了させることができるようになった。

(*注釈) ほとんどのスマホやクレジットカードに備えつけられている機能。NFCタグにより、ウェブページやソーシャルメディアなどの情報をリンクさせたり、電子支払いが可能になる。

ノーキャッシュレジスターも導入

ちなみにレベッカ・ミンコフでは、テックパートナーとして「QueueHop, Inc.(キュー・ホップ社)」とも提携しており、顧客がレジに並ぶことなく自分でチェックアウトができる「ノーキャッシュレジスター」も導入している。

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これらは、セルフチェックアウトができるキュー・ホップステーション(こちらもRFID技術によるもの)。

お店の人に「これ買います」と言う必要がなく、現金がなくてもオッケー。レジに並ぶ必要もなく、自分が買いたいときにさっとクレジットカードで買って帰れる。

オークミラーとの相性もバッチリとかで、試着室で支払いを済ませたあとは、キュー・ホップステーションで、盗難防止用のセキュリティタグを自分で外すことも可能だ。

自分で支払いを済ませたら、盗難防止用のセキュリティタグも自分で外すことができる
自分で支払いを済ませたら、盗難防止用のセキュリティタグも自分で外すことができる

今後導入が広がる近未来試着室

「たかが数分の待ち時間かもしれませんが、待っている間はまるで永遠のように感じるもの。オークミラーは試着室内でのプロセスを40%早くしてくれるだけでなく、消費者に『ここなら時間がなくても大丈夫』『さっと購入できる店』というイメージを潜在的に与えてくれるものなのです」と、オーク・ラボズ社のジェニーさんは胸を張る。

今後、全米中で世界中で、夢のミラー導入店やセルフチェックアウトのできる店が増えていくことだろう。

(All photos and text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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