大韓サッカー協会トップがまさかの‘’自爆‘’ 大事件巻き起こし辞任者続出か...
それは試合開始1時間6分前の出来事だった。
さらに言うならその日の対戦相手、ウルグアイのメンバー発表6分前。3月28日、韓国代表ユルゲン・クリンスマン監督による就任第2戦の試合直前のことだ。
ただでさえ忙しい時間帯にスタジアム内の会議室では大韓サッカー協会による重大な決定がなされた。メディアに向けてリリースもされた。
「大韓サッカー協会は、懲戒処分下の100人についてその処分を解除する」
いわば「恩赦」だった。対象者として韓国で主たる話題となったのが、2011年の八百長事件で永久追放された元Kリーガー53人の処遇だ。元柏レイソルのチェ・ソング氏ら人材が指導者として復活できる処置として韓国ではみなされた。
これが韓国で大批判の嵐を巻き起こしている。
当然のことだ。八百長を許すということはつまり、反社会的勢力とのつながりを許すということだからだ。
さらに発表のタイミング、その内容、そして3日後にあっさりと撤回した点もお粗末。話はそこで終わらない。協会副会長が次々と辞任し、「誰もいなくなる」危機に。驚くべき事態になっている。
チョン・モンギュ氏の横顔 過去には「不思議発言」も
韓国メディアでは今回の件を「奇襲恩赦」と報じている。それは、チョン・モンギュ大韓サッカー協会会長の「思いつき」と指摘されても仕方のないものだ。
恩赦を施そうとした理由を大韓サッカー協会側はこう説明している。
「大韓サッカー協会創立90周年、2022年ワールドカップ(W杯)でのベスト16と10大会連続本大会出場を記念して」
これで2011年に明らかになった暴力団絡みの一大八百長事件を許そうというのだ。元柏のチェ氏は軍隊チームの光州尚武(現・金泉尚武)時代に試合時の宿泊ホテルなどに出入りしていた暴力団員と知り合い、八百長に関わった。
リーグ全体に疑惑が広まった当時、Kリーグ側は「自ら名乗り出れば懲罰を軽くする」としたものの、本人はメディアの前で「自分に恥ずべきことはない」と断言。しかし、捜査の結果「クロ」だったことから、最も厳しい永久追放処置となり、その後は病院の食堂で働く姿などが報じられていた。
これらを“許そうとした”、チョン会長は「お坊ちゃま」として知られる。
HYUNDAIグループ創設者の甥。高麗大学を卒業後、1996年に34歳にして現代自動車社長に就任。その後権力闘争に巻き込まれ、HYUNDAI産業開発へと移る。2022年1月まで同社会長を務めた。
その前後からサッカーとの関わりが強く、1994年からHYUNDAI系のKリーグ3クラブの会長職を務めた。2011年にKリーグ連盟会長、2013年にサッカー協会会長に就任している。
韓国メディア内の評価は真っ二つに分かれる。「会長としていい仕事をしている」と絶対支持する記者もいれば、筆者がインタビューを申し込もうとした際には「会長は話が上手くないから副会長にしたほうがいい」と勧められたことも。
2013年の東アジアカップ(現E-1)大会期間中には「日韓定期戦の復活」をメディアの前で宣言。その会見に筆者も出向いたが、現場で「両国リーグのオールスター戦を日韓対決にしたらいい」というアイデアを口にし、周囲をキョトンとさせた。それは01年や08年、09年に様々な形態で実施され、すでに失敗したものなのだ。人はとても良さそうなのだが、ちょっと不思議なキャラクター。しかし「かなり偉い人」ゆえ周囲もツッコめない。そういった雰囲気を感じる。
当の本人も近年は失策が目立つ。2022年1月には会長職にあったHYUNDAI産業開発のマンション外壁崩落事故が発生。死者も出た事故とあって、会長職を辞任した。また同年には誘致が確実視されていた2023年アジアカップの開催権をカタールに奪われてしまう失態も演じた。これは任期中に大型スポーツイベントのない尹錫悦政権も困惑させたという。
各方面から総スカン スタジアムでは家系をイジられ…
反対運動の伝播はまさに“速攻”だった。
まずは大韓サッカー協会側がこれを実行するには上位組織である大韓体育協会の承認(有権解釈)が必要だったが、あっさり拒否された。
「恩赦に関する規定がない」
「懲罰の権限がチョン会長にあるんだから、解除も会長がお決めになれば?」
Kリーグもこの承認について「まったく検討に値しない」と一蹴した。根回しが全くなかった決定だということが明らかになった。
韓国代表サポーターの「レッドデビル」も即座に強い反応を示した。「代表チームおよびKリーグ現場での応援拒否」を表明した。さらに韓国プロサッカー選手協会は「現役選手の意見を伝える機会が欲しい」と協会側に要請する声明文を発表。メディアも黙っていなかった。
「サッカー協会理事の皆様。今日も挙手だけしに行くんですか?」(スポーツ韓国)
これはチョン会長が内部では強権を発動していた点を示唆している。
「答えは出た。八百長事件に関わってもW杯でベスト16に行けば恩赦になる」(毎日経済)
「協会の恩赦は希代のショートコメディー」(MBC)
「“協会の戯言” サッカーファンの怒り爆発」(ノーカットニュース)
その通り、Kリーグ大邸のサポーターは現場でこんな横断幕を掲げた。
「モンギュ! 信頼を失ったら終わりだ 父より」
父、とはHYUNDAI系の大御所のことを指す。
「撤回」で話は終わらず…
猛反発が起きるや、あっさり3日後(31日)に恩赦を撤回。チョン会長自らメディアの前でこれを発表したが……この際に記者との質疑応答には応じず。火に油を注ぐ結果となった。
この3日後の4月4日、大韓サッカー協会の「看板」が自らその役職を降りることを発表したのだ。副会長職にあったイ・ヨンピョ氏(02年W杯メンバー/PSVなどで活躍)とイ・ドング氏(Kリーグのレジェンド、歴代ゴール数1位)が相次いで辞任。
恩赦が決定した理事会にて反対票を投じられなかったことを反省してのことだった。02年世代がなかなか指導者や協会のリーダー職として育ってこない状況にあって、これはかなりの痛手だ。「週刊朝鮮」は今後、大韓サッカー協会側の退職者が28人に及ぶ可能性もあり、と報じている。
事態はこれにとどまらない。4月5日、与党の国会議員ハ・テギョン氏が「サッカー協会の恩赦対象者のリストを入手した」としてこれを公開。当初はその対象は「軽微な八百長犯罪者」とされていたのだが……審判買収や、不正な金銭のやりとり、暴力、選手の進学や入団でのねつ造行為などを犯した者も多く含まれていたのだ。
「週刊朝鮮」は一連の出来事を「いったい誰のためのもの?」と報じた。まさに「誰得」の状態。チョン会長本人も周囲に苦しい心情を吐露しているというが、「思いつき」が61歳のキャリアにどういった影響を与えるだろうか。何より大韓サッカー協会が「そして誰もいなくなった」という状況になるのだろうか。