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研究成果演出の陰の立役者・研究支援人材…業界の先駆者・杉原忠さんに聞く

鈴木崇弘政策研究者、一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
優れた研究は多くの人材に支えられている 写真:OIST提供

 筆者は現在、沖縄科学技術大学院大学(OIST)にあるレジデンスに滞在しながら、研究活動をしている(注1)。

 OISTは、最近ノーベル賞受賞者が生まれたことに象徴されるような、その高水準の研究活動によって、国際的にも高く評価されてきている(注2)。

 それはもちろん優秀な研究者や専門家が参集しているからこそ生まれたものだ。だが、その成果が生まれた要因として、彼らや彼女らの研究を支える技術者や科学者の存在も重要だ(注3)。

 さらにOISTには、研究そのものだけでなく、資金なども含めた研究の環境を支援する人材も存在している。近年では、文部科学省も、高い水準の研究が行われるには、そのような人材の重要性や必要性に気づき、「リサーチ・アドミニストレーター(URA)を育成・確保するシステムの整備」を行うようになってきている(注4)。そして、京都大学などの大学ではそのような人材を活用して、研究の質および量の向上に向けて動いてきている。

 筆者は、東京財団政策研究所(当時は、国際研究奨学財団という名称だった)の設立(1997年)およびその後の運営にかかわった。特に深くかかわった研究部門では、優秀な研究者を選び、資金を提供し、自由度や柔軟度の高い研究をしてもらう仕組み(正にOISTの提唱している「ハイトラストファンディング」)での資金提供や給与提供、および研究者には研究支援やアドミ的な業務から解放された環境(これも現在のOISTの提供している仕組みに非常に似ていた)を提供し、レベルの高い研究に専念できる環境をつくるようにしていた。

 同部門は、公共政策研究がメインだったので研究費の規模なども大きく違い一概に比較できないが、現在のOISTが研究者に提供している研究環境にかなり近い環境を当時提供していたといえる。

 その経験からもよくわかるのだが、このような研究支援の人材や仕組みは、より多くの研究を効率的にかつ高い水準で推進し、成果をだしていく上では非常に重要かつ有効なのだ。

 そこで、本記事では、OISTの中で、そのような研究支援、特にアドミ寄りの研究支援で活躍されている、外部資金セクションマネジャーの杉原忠さん(注5)に、研究におけるそのような人材の役割および重要性そしてその可能性等について伺った。

研究活動の推進には資金確保も重要だ
研究活動の推進には資金確保も重要だ提供:イメージマート

外部研究資金セクションマネジャーとしての業務について

鈴木(以下、S):本日はよろしくお願いします。杉原忠さんは、現在OISTで、外部研究資金セクションマネジャーとして、活躍されていますが、具体的にどんな業務や活動をされているのですか。

杉原忠さん(以下、杉原さん):はい、外部研究資金セクションは国の予算で運営されている競争的研究費の応募に係る支援及び採択課題に対する研究費受け入れ業務を担当しています。

バックグラウンドやキャリアパスについて

S:ご説明ありがとうございます。研究において資金獲得は、ますます重要になっています。その意味からも、杉原さんの役割はますます重要になってきていると思います。ところで、杉原さんは、博士号も取得されています。研究者の道に進んでもおかしくなかったと思うのですが、現在は、研究支援の役割をされている。杉原さんのこれまでから現在におけるバックグラウンドというか、キャリアパスをお教えいただけませんか。

杉原さん:おそらく中学校時代から研究者、科学者というものに強く憧れていたように思います。それほど頭脳明晰でないことは薄々感じてはいましたが(笑)、研究者として人生を終えたいという情熱がありました。しかしながら、自分の能力が論文数で測られる面もあり、そういう意味では決して秀でてはいないという現実がありました。私の専門分野を行うことができる大学や研究所は極めて少なかったため、残念ながら独立して研究するポストに就くことができませんでした。また2011年3月に起きた東日本大震災により、研究者としての最後の仕事を十分に行うことができない期間があったものの、かなり主体的に研究をさせていただけたので、ある意味やり切った感を持ったのだと思います。その震災の起きる約4ヶ月前に娘が生まれたこともあり、きっとようやく人間的に成長できたのでしょう(笑)。研究者以外の道も探さねばとモードを変えたところ、幸いにも京都大学学術研究支援室(URA室)が立ち上がったところで、そのURA人材募集に応募し、採用されました。

研究推進において研究支援は重要。まさに研究はチームワーク
研究推進において研究支援は重要。まさに研究はチームワーク写真:イメージマート

「URA」の役割や重要性について

S:そうなんですね。杉原さんは、正に研究支援人材である大学におけるリサーチ(研究)アドミニストレーター(URA)の先駆者というか、パイオニアのお一人なんだと思います。その意味からも、杉原さんから、「URA」の役割、重要性そして、今後の可能性について教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。

杉原さん:URAを大学に導入する目的で文部科学省の補助事業が始まった頃は、簡単に言うと研究者の研究時間の確保のための支援を行うことがURAへの期待でした。その後、大学の研究力強化のための補助事業が始まり、そこでは研究環境改革につながるよう大学の経営・企画に対して、より直接的に貢献できる人材としてURAが位置付けられたと、私は理解しています。このようにURAの役割は、その時々の科学技術政策や各大学のニーズによって変化しうるものだと思います。そのような変化に柔軟に対応することが、URA側には求められるでしょう。

 京都大学では教員でもなく、事務職員でもない、第三の職種としてURA職を位置付けていました。大学によっては、どちらでもないから使えない人材と批判されることがあるかもしれませんが、教員と事務職員をうまくつなぐ役割はURAでないとできないとも言えます。

 他方で、URA職の者は、教員職に就けなかったからなったのではないかという誤解もあり、いわば「落ちこぼれ」で「三流研究者」と揶揄されるようなことも初期にはあったと思います。しかし、研究の魅力がわかっている、研究者がいかに研究好きかを知りながら、彼らを支援することができる立場にいることが、URA職の価値だと思います。

 そして、URA職は、こうなってほしいという研究者目線の「あらまほしき(理想的な)」姿を描きながら、種々の規定に鑑みてどのようにその理想を実現できるかということについて知恵を絞る、そんな役割でありたいと私自身いつも思っています。

 URA職のスキル認定制度もようやく始まり、URA職定着への道筋が整いつつあると思います。

「URA」人材の育成やキャリア形成の要素も大切
「URA」人材の育成やキャリア形成の要素も大切写真:イメージマート

「URA」の人材育成や役割の確立について

S:なるほど。杉原さんからURAについてのお話を伺って、その今後のさらなる重要性や可能性が理解できましたし、私自身のこれまでの経験や認識が間違っていなかったことを再認識しました。ありがとうございます。それでは、次の今後URAという人材を、日本社会の中でより育成し、その役割を確立していくにはどうしたらいいでしょうか。

杉原さん:まず始まったスキル認定制度が適切に機能し確立するといいのではないかと思います。つまり、きちんとした評価がなされれば、ハイ・パフォーマーとロー・パフォーマーが明確になるかもしれないと思うわけです。

 一方で現実的問題として、URAの雇用財源はいまだに不安定で、補助金事業の財源で綱渡りしていることが多いのです。優秀なURA人材でも5年程度の任期で大学は雇用せざるを得ないし、URAからするとハイ・パフォーマーであっても、それほど恵まれた雇用条件がオファーされることはないという状況が目に浮かびます。

 そのようなことから、スキル認定制度が適切に機能し、それに基づいて優秀と認定されたURAになれば、相当な厚遇が期待できるような将来が早く来てくれると、それを夢見る若いURA人材が育つのではないかと思います。

「URA」のキャリア形成について

:わかりました。では、今後URAになりたいと考えた方は、どのようにキャリア形成をしていけばいいか教えてください。

杉原さん:多くの大学のURA公募では、研究経験があることや博士号を有することが応募資格に含まれています。個人的にはこれらは必須ではないと思うのです。つまりポイントは、これらの要件によって、「研究者の視点で物事を考えることができるかどうか」ということが問われていると理解すべきでしょう。

 それは、別のいい方をすると、実際に学位を取得する苦労や研究に専念した経験があれば、研究者の視点に立てるであろうという期待です。もう少し一般化すると、広く「顧客(ここでは主に研究者)」目線を持つ訓練が必要です。研究経験があっても、そのような思考ができなければ、研究者の支援はできないでしょう。

 いま、ひとつの流れは博士研究員を経て、URAになるという道筋です。これについても、もっと多様な経路があっても良いと考えています。いわゆるビジネススキルなしにURAとして活躍することは難しいので、自分の専門性が活かせる企業に就職した経験があるとか、コンサルティング会社に就職していたことがあることは、URA職をする上でプラスだと思います。

 日本のURAはどちらかというと、競争的研究費獲得の業務に重きが置かれているように見えますが、長くURA的な業務に携わりたいと考えるなら、プロジェクト管理、経理・財務業務、契約、知財などの多面的な経験なども有用です。これらの経験は将来、例えばスタートアップ企業で働いてみたいと思ったときにもかなり強みになると思います。URA職を行う上で使えない無駄な経験はないでしょう。

「URA」である杉原さんからのメッセージについて

:杉原さんのお話を聞いて、今後ぜひURAを目指す優秀な人材が、プロ意識を持って育ってくれるといいですね。最後に、杉原さんの視点やこれまでのご経験から、日本社会や若い世代へのメッセージをいただければと思います。

杉原さん:日本の研究力強化を実現するために、URAはキーワードであり続けるでしょう。

 URAとして雇用される人たちだけでなく、機器管理や広報業務等広く研究支援人材のレベルアップと人材育成、確保が今後ますます必須になっていくと思います。

国も、そのような必要性や可能性について、さまざまな委員会等で検討し、施策を講じています。私たちURA職にある者は、研究力強化の重責を担っているという意識をもって、できる限りのことをしなくてはなりません。日本ではまだ十分にURAの立ち位置が安定したわけではありませんから、信頼を得るための努力も続けなくてはなりません。信頼は容易に失われてしまいますから、その構築・維持のために努力を惜しんではならないと思います。私自身も常に学ぶ姿勢を忘れず、レベルアップしていきたいと考えています。

 また私は、年齢的にシニア層に入ってきていますが、安定志向ではなくて、必要とされればどこへでも働きに行く、新しいことに取り組むという気概を持ち続けていくことが必要だと、自らに言い聞かせています。そうすることで、やる気に満ちあふれた優秀な次世代URA人材にポストを引き継ぎ、安定してURA職の環境や役割を提供することができると信じています。

 さらに、URA職に携わる者が、その「役立つ」領域をさらに開拓していくことで、URA人材の可能性を拡げていけますし、そうしていく必要があると思います。 

 私は、いわば「URA第一世代」の一員として、今申し上げたような形で、今後とも貢献していきたいと希望しています。

:本日は、お忙しいところ、ありがとうございました。

杉原忠(すぎはら・ただし)さんの略歴:

杉原忠さん 写真:本人提供
杉原忠さん 写真:本人提供

東北大学理学部物理第二学科卒業。九州工業大学大学院情報科学専攻 博士(情報工学)

理化学研究所脳科学総合研究センター、米国ジョンズ・ホプキンス大学、ロチェスター大学などでシステム神経科学、認知脳科学研究に従事

2012年より京都大学学術研究支援室URA。2014年よりシニアURA、副室長

2017年よりOIST外部研究資金セクションマネジャー

2020年アジア初のNCURA Chair of Region VIII (International Region)

NCURA MagazineではAsia Pacific RegionのContributing Editorを務めた(2015-2018)

RA協議会代議員・運営委員(2015-2020)

 なお、上記の「NCURA」は、National Council of University Research Administratorsの略称(本部ワシントンDC)。世界の研究機関に所属するリサーチ・アドミニストレーター(URA)の会員組織。NCURAは、大学等の研究機関の研究活動を牽引するために1959年に設立された団体で、研究支援活動のスキルアップや情報交換などを実施している。

(注1)今回このような機会を提供していただいた、ピーター・グルース学長をはじめとしてOISTおよびその教職員の皆さん方には感謝申し上げたい。

(注2)この点については、次の記事等を参照のこと。

「OISTのスバンテ・ペーボ教授がノーベル賞を受賞」OISTのHP、2022年10月3日

「沖縄の大学院『東大超え』論文実績のなぜ――領域の垣根を崩す研究環境」yahooニュース、2020年3月3日

(注3)日本の大学にもこれらの人材はいるのだが、基本的には各研究室等が、外部資金を獲得して、雇用していることがほとんどで、大学自体が雇用していることは少ない。

(注4)この点に関して、文部科学省のHPには、次のように書かれている。

 「我が国の大学等では、研究開発内容について一定の理解を有しつつ、研究資金の調達・管理、知財の管理・活用等をマネジメントする人材が十分ではないため、研究者に研究活動以外の業務で過度の負担が生じている状況にあります。このような状況を改善するため、文部科学省は、研究者の研究活動活性化のための環境整備及び大学等の研究開発マネジメント強化等に向け、大学等における研究マネジメント人材(リサーチ・アドミニストレーター:URA)の育成・定着に向けたシステム整備等を行っています。(URA:University Research Administrator の略)」

(注5)

「外部研究資金セクションマネジャーインタビュー」

・「ADMINISTRATION CELEBRATION」Sara Reardonm、Nature(Vol 595)、 2021年7月8日

政策研究者、一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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