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拙著『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』を書いた理由

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
沖縄の海を臨む革新性を感じさせるOISTのキャンパス 写真:OIST提供

 筆者は、最近『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたかー日本を「明治維新の呪縛」から解放し、新しい可能性を探求するー』という、やや過激なタイトルの本を出版した。

 同書を書いたのは、筆者の日本に対する心配と可能性の理由を提示し、日本社会や日本で生活する多くの方々に、日本の現状と今後および可能性について考えてほしかったからだ。

 筆者は、日本は、良い社会であると考えている一方で、特にこの30年の閉塞感や低迷状態をひしひしと感じ、今後の可能性に危機感を感じている。

 他方、「日本は素晴らしく、世界に誇れる」「日本は、今も凄い国だ」という主張する方々もいる。その主張には、正しい面もあるが、グローバル化が進展する国際社会では、すべての国や地域の力や潜在性が相対化される。日本は、そのコンテクストにおいてその存在をみていかないと、偏見や誤解をできるだけ抑えて、起きつつある実態をより的確に理解できないと考えている。その意味で、より適正な視点から、今の状況を理解、認識し、そこからわかった問題や課題を確定・検証し、それらの解決策や提言をしていくという作業が必要だと考えている。

 同書は、そのような考え方に基づいて、書いたものである。

 筆者は、同書の第1章「日本の現状 その国力とイノベーションの可能性」では、上述のような意識や認識から、複数かつできるだけ多くのデータを集めて、日本の現状を知ることに努めた。そして、日本は、可能性はあるだろうが、この30年において、その力やポテンシャルを、国際社会のなかで明らかに低下させてきていると強くかつ深く感じると共に、日本の将来に向けて大いなる危機感をもった。

 次に同書の第2章「東京大学 日本の近代化における発展のエンジン」では、日本の現在に至るまでの発展の仕方やモデルについて、歴史的な史実を踏まえて論考している。そのプロセスにおいて、筆者は、日本は、現在も明治維新期に構築された発展モデルで社会運営をしており、そのことが、日本の現在の閉塞・低迷状況を生んできており、今は「明治時代の令和期」にあると考えるようになった。日本は、そのような状況にあるが、その明治維新モデルとは異なる試みも生まれている。それが、沖縄科学技術大学院大学(OIST)である。

 第3章「沖縄科学技術大学院大学(OIST) 21世紀における日本再起動のエンジン」は、筆者が研究滞在した経験を踏まえて、そのOISTを描いたものである。

 動画 「OIST - University of the Future 新時代の教育研究を切り拓く」(OIST提供) 

 同章は、OISTは、独自のビジョンやミッションを有し、現在の日本の社会や組織にはない、あるいは必ずしも十分でない、国際性、多様性、学際性、新規性・革新性、実験性などがあり、日本における「特区」であり「出島」であり、従来の日本ではないあるいはそれを超えた試みが、単に研究や教育だけでなく、組織運営や活動でも行われていることを描いている。その理想は高く、問題や課題も多々あるが、それらを乗り越えるべく活動が日々行われていることを論じている。その意味で、OISTは、日本の一般的な予定調和的な組織や仕組みではなく、試行錯誤を続け、更新し続けている「実験場」なのだ。そのため、外観や内部は非常にインプレシブでアピーリングだが、何をしているかが、ある意味わかりにくい組織であることも事実なのである。

 結果として、筆者は、OISTが行っている動きや成果が日本で理解され、日本でもって活かされる知見や情報の宝庫なのにもかかわらず、活かされていないと強く感じる。筆者は、その状況は、日本社会にとっても、OISTにとっても、とてももったいないことであり、望ましくないことであると考えた。それこそが、同書を書いた一つの大きな理由なのである。

 第4章は、「沖縄科学技術大学院大学(OIST)と東大 その比較と教訓」と題して、OISTと東大の比較検証を行い、OISTから得られる知見や課題を検討した。

 そして、最後の第5章は「日本の新しい可能性を生み出すための提言」を題して、それまでの考察や検討を基にして、OISTの知見を梃にして、日本社会において今後新しい可能性を生み出していくためのいくつかの方策を提示している。

 筆者は、同書を通じて、現在の日本は、国際社会において存在感を低下させ、厳しい状況にあるが、国内にもOISTのような既に新しい可能性を生み出す組織や仕組みがあることを知っていただきたいと考えている。また筆者の指摘や提言の正否がどうであるかということを超えて、それらを一つの材料として、日本の今後の可能性や希望について、日本の社会やそこで生活する方々が、同書を読んでいただき、それに基づいてさまざまに議論し、その成果を是非とも実現していただきたいと考えている。

 筆者は、日本は、良く可能性のある社会・国であり、これからに向かってまだやれるし、国際社会に貢献できると確信している。

 ぜひご一読をお願いすると共に、ご意見やご感想もいただきたいと考えている。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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