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WBC考察。侍ジャパンのアメリカ行きを決めた勝利する組織の原則

本郷陽一『RONSPO』編集長

WBC日本代表コーチの高代延博さんと侍ジャパンの宿舎で会ってきた。さすがに、歴戦の疲れからか、ぐったりとしていた。山本浩二監督も、大勝となった昨日のオランダ戦後に「今日が一番疲れが出た」と言っていたらしい。まず第一目標だったアメリカ行きが決まって張り詰めていたものから解き放たれ、それが一気に疲れに変わったのかもしれない。高代さんとコーヒーを啜った、近くの席では、べスト4進出を決めた立役者の一人、井端弘和が、中日スポーツの取材を受けていた。

ひと区切りを終えた安堵と静寂の時が流れていた。

「さすがベテラン。度胸が違う。彼の右打ち技術は世界一でしょう」

高代さんは、そう言って井端の奮闘を讃えた。

雑誌作りに関わっている人間からすると、2013年のWBC代表チームの誰を表紙にするかに迷う。プレビュー号ならば、マー君だったろうが、それでも弱い。4年前のイチローの時のような芯がない。しかし、前大会でも、コーチを経験してきた高代さん曰く、それこそが2013年型侍ジャパンの強味なのだという。

「前回はメジャー組がいてレギュラーのうち8人は、しっかりと決まっていた。だから調子が多少悪くとも、我慢しなければならなかったりして原監督は起用に苦労していた。しかし、今回は、国内組でまとまっているので固定されたレギュラーは阿部と内川くらい。調子のいいものから出ていく。そのチーム原則を選手も自覚してくれている。国際試合のような短期決戦では、調子の悪い選手が復調するのを待つ時間はない。鳥谷の1番にしても、井端の2番にしても、本来、彼らが持てる力の場所に収まったということ。『調子のいいものから出ていく』というチーム内にできた原則が、いい作用をもたらしていると思う。横を向いている選手は一人もいない」

一部、週刊誌にはチーム内に高代派と、戦略コーチである橋上派に分かれているということも書かれたいが、派閥があるんですか?と聞くと、高代さんは一笑した。

「そんなもんないない(笑)。首脳陣も、毎晩、試合後もホテルの監督の部屋に集まって、コミュニケーションを取ってまとまっているし、裏方さんとの連携もできている。選手も誰が浮いているなんて選手はいなくて雰囲気がいい」

『いいものから出ていく』という大原則は、なかなか実行できるようでできない。それぞれのチームからの看板選手が選ばれている。プライドがある。そこを無視して采配をすると不協和音に変わる。そして第一一番難しいのは、その「調子のいいもの」をどう選ぶのかという監督、コーチの目の確かさである。その原則をチームルールにするには、「調子がいいもの」の評価が、正当なものでなければならない。

企業という組織においても、人事に派閥が加われば弱体化するし、単純に営業の数字だけで判断すれば、まとまりも消える。人の評価は難しい。

侍ジャパンの場合、毎晩、山本監督の部屋で繰り広げられるアルコールを入れながらの本音の反省会で、おそらく誰の調子がいいのか、誰が、その対戦チームに相性がいいのかの議論が煮詰まっているのだろう。ここまでの戦いで疑問の付くような采配はほとんどない。ブラジル戦でのマー君の2イニング交代にしても、オランダ戦での鳥谷の1番起用にしても、決断はキレて迷いがない。個人的には、台湾戦の牧田からの杉内へのスイッチが疑問だったが、これも、牧田がダイビングキャッチの際、腰を打ったための続投断念だったと聞いて納得した。

侍ジャパンの中に、この原則が貫かれている限り、勝利の組織となりうる条件は整っている。2次ラウンドの1、2位決定戦の相手は、オランダになった。

『RONSPO』編集長

サンケイスポーツの記者としてスポーツの現場を歩きアマスポーツ、プロ野球、MLBなどを担当。その後、角川書店でスポーツ雑誌「スポーツ・ヤア!」の編集長を務めた。現在は不定期のスポーツ雑誌&WEBの「論スポ」の編集長、書籍のプロデュース&編集及び、自ら書籍も執筆。著書に「実現の条件―本田圭佑のルーツとは」(東邦出版)、「白球の約束―高校野球監督となった元プロ野球選手―」(角川書店)。

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