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学校の働き方改革の実施状況調査、教育委員会の本気度がわかる

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(文科省資料より抜粋)

 学校の先生たちは、とても忙しい。そのせいもあってか、教師を目指さない学生、若者も増えつつあることが最近報道されている。

 もちろん、学校や教育委員会も、これまでの間、なにもせずに過ごしてきたわけではない。では、何がどの程度、進んでいるのだろうか。

 そんな疑問の一部にこたえてくれる調査結果を、きょう、文部科学省が発表した。「教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査結果」だ。

 きょうは、この調査からわかってきた、最近の状況(調査は今年の7月時点の状況)と課題等を解説する。たいへんなボリュームの資料で、ぼくもすべてを細かく分析できているわけでないが、大事なところを紹介しよう。

■タイムカード等で勤務時間を把握している市区町村は増えつつあるが、まだ半数に届かない。

 まず、次の図をご覧いただきたい。在校等時間(※)の把握方法について。

(※)在校等時間は、おおよそ、残業を含む勤務時間。もっと厳密な定義はあるが、ここでは省く。

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出所)文部科学省「教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査結果」(以下、同じ)

 タイムカードやICカード等により勤務時間を客観的に把握しているのは、都道府県は66.0%(前年度38.3%)、政令市は75%(前年度45%)、市区町村は47.4%(前年度40.5%)だ。逆にいうと、それ以外の自治体では、きちんと把握、管理できていない。

※それ以外には、自己申告が多いので、まったくやっていないわけではないが。

 まあ、これでも実施率は上がってはきた。数年前の文科省調査では、市区町村について、タイムカード等を導入しているのは、平成28年度は5.9%、29年度は10.5%だったのだから。

 だが、おそらく企業等にお勤めの方にとっては、「えっ、学校ってまだ勤務時間の把握すら、やってないところがあるの?あんなに忙しいと言われ続けてきたのに。ヤバくない?」という反応だろう。

 しかも、労働安全衛生法がこの4月に改正施行されて、客観的な方法による把握は義務となった(労働安全衛生法第66条の8の3)。文科省もここ2、3年のあいだ、再三、自治体に必要ですよ、と言ってきたのだが・・・。

■学校閉庁日や部活動休養日など、カネのかからない施策は進んでいる。

 続いては、学校閉庁日(お盆前後などに学校を基本休みにして、有給休暇取得奨励日などにする)などの取組について。

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 部活動ガイドライン関係は、どこまで指しているかは明確ではないが、たとえば、休養日を設けること、また、活動予定の計画を校長が把握することなど。図で緑色となっているように、閉庁日や部活動ガイドライン関係は、実施率が高い。

 これらの施策は、予算措置が必要ないので、比較的取り組みやすいものと言える。また、おそらく、保護者の多くもそう強くは反対はしない。(部活動については過熱の度合いにもよって様相は異なるが。)

 一方で、タイムカード等や留守番電話について、市区町村での実施率がそれほど高くないのは、「予算がかかるから」ということが影響している可能性がある。それほど高い買い物ではないのだが。洋式トイレの整備が遅れている学校がかなりあるように、学校関連の予算は少ないという地域もある。

■働き方改革に不熱心な自治体がわかる!?

 自治体の財政力によっても、学校の働き方改革にも、かなり格差、開きが出てきている可能性はある。とりわけ、校務支援システムというICTの整備・活用や、給食費の公会計化(各学校で徴収・督促はせず、自治体でやるようにする)などについては、多額の財政負担がかかるから、なおさらだ。

 ただし、そう単純にも言えない実態もわかってきた。今回の調査では、都道府県別の結果も掲載している。まずは具体例をご覧いただいたほうがよいと思う。

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 これは、一例として、東京都の市区町村での留守番電話等を設置している状況だ。必ずしも、財政力の高いところが先行しているわけではないようだ。

 これにかぎらず、この調査では、学校の働き方改革に比較的熱心に取り組んでいる都道府県、市区町村と、そうではないところが、読む人によってはかなりハッキリわかるように公表されている。進んでいない自治体は、自覚してほしいが、議会等でも追及されるかもしれない。

※もっとも、この調査項目にあるものを満たすことが、イコール望ましいこと、必要なこととは限らない。たとえば、夜間にほとんど電話をかけてくるような保護者等はいないという地域なら、留守番電話など不要かもしれない。

■教育活動には、外部人材はあまり入っていない。

 次の図は、文字が多いが・・・、従来は教師(教員)が担ってきたものについて、外部人材等が入ってきているかどうかの状況。

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 部活動の指導者やスクールカウンセラーについては、比較的実施率は高い。だが、掃除の時間や休み時間の見守り、給食の時間の支援などは、実施率が低く、市区町村では2割にも満たない。

 これは、第一に、難易度がかなり高いからだ。掃除や休み時間には、いじめや嫌がらせが発生することもある。給食も、小学校低学年等では時間がかかったり、やけどの注意も必要だ、食物アレルギーへの注意ももちろん。

 第二に、教員自身が、掃除や休み時間等の指導・支援に教育的意義を見出しており、だれかに任せる気になっていないことも多いからだろう。

 だが、通常の授業とちがって、教員でなければできない、というものでもない。今後は掃除、休み時間、給食なども、できることなら、もう少し分業と協業をしていけるようにしていくべきだろうと思う。小学校や中学校は、これら3つで1日1時間半くらいの時間が変わってくる、大きなものだ(皮算用だが、1カ月で約30時間)。

※もちろん、教員の役割がゼロにはならないが、見守りの一部は地域人材等の協力を得て、教員の配置や負担を少なくするなどの工夫はできる。

■実施率が高くても、安心はできない。頻度や中身は、千差万別。

 以上紹介したデータ以外も、たくさんあるので、興味のある方や教育委員会の方は、ぜひ元の資料をご覧いただきたい。また、調査結果の概要という資料では、主だった事例の紹介もあり、とても役立つと思う。

※文科省資料で紹介されている事例の一例
※文科省資料で紹介されている事例の一例

 とはいえ、たとえ、実施率が高い自治体や事例紹介で登場する自治体であっても、安心は「しないで」ほしい。

 というのは、この調査、あくまでも教育委員会が回答した、実施したかどうかという、外形的な状況に過ぎないからだ。頻度や中身は、ほとんどわからない。

 たとえば、部活動指導員が来ている、カウンセラーが来ているといっても、学校現場にとっては、「20の部があるうちの1つの部だけなので、まだまだ部活動の負担は重い」とか「部活動の外部指導者は週3来てくれるが、顧問の教員と指導方法のちがいなどから衝突してしまい、かえって調整等が大変になっている」、「カウンセラーは2週に1度しか訪問してくれない(その程度しか予算がついていない)ので、重い案件はとても対応してもらえない」といったことのほうが実情だからだ。

 また、出退勤時間の把握についても、タイムカード等を使っているかどうかだけが大事なのではない。たいして業務量を減らすことなく、単に「残業時間、減らせ、早く帰れ」とプレッシャーだけ強くするのでは、あまり意味はない。学校現場にはやらされ感が漂うことになるだろう。学校によっては、残業時間が長いと校長や教育委員会から怒られるからといって、過少申告している例もある(一部報道もされている)。

 タイムカード等があるといっても、たとえるなら、ダイエットしたい人が体重計にのり始めたというだけであって、何も自慢できる話ではないのだ。運動したり、食事を気を付けたりできるかどうかが大事なのだから。(ついでに申し上げると、過少申告や虚偽の記録は、壊れた体重計にのっているようなもので、百害あって一利なし。)

 というわけで・・・、今回の調査は、とても参考になるのだが、この調査項目だけで判断、満足せず、働き方改革や業務改善の具体的な中身、実態がうまくいっているかどうかも、文科省や教育委員会、学校は(そして社会のみなさんもなるべく)注目してほしい。

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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