ノルウェーと日本を民族楽器でつなぐ、珍しい2人の日本人
北欧のとある楽器が、日本とノルウェーの文化交流の懸け橋となっている。
ヴァイオリンのように見えるノルウェー発祥の民族楽器「ハーディングフェーレ」は、豪華な装飾が特徴的だ。ノルウェーの大自然やロマン主義の絵を連想させるような、不思議な音を響かせる。
珍しさ1「ノルウェーの民族楽器を製作する初の日本人職人」
この楽器製作を現地で学ぶ初の日本人が、原圭佑さん。唯一のプロのハーディングフェーレ日本人製作者だ。
ノルウェーの民族楽器製作をする「珍しい外国人」として、現地のメディアでもすでに何度も紹介されている。
原さんは、すでに3本のハーディングフェーレを完成させた。その貴重な2本目を、今、日本で奏でているのが酒井絵美さんだ。
珍しさ2「ノルウェーの民族楽器を演奏するプロの日本人奏者」
ノルウェーの人からすると、日本人がノルウェーの民族楽器を好んで弾いていること自体が珍しく、同時に嬉しいことでもある。
酒井さんは、原さんの存在を以前から耳にしていた。2本目を見た時に、「買いたい!」と即決したという。
「初めて弾いた時の感想としては、反応が良くて響きが豊かで、驚きました」と酒井さんは語る。
日本で弾いていると、「きれいですね~」という反応が多い。珍しいノルウェーの楽器なので、おそるおそる触る人が多いそうだ。
今回はコンサート出演のほかに、西部に2週間ほど滞在し、4人の現地のプロの奏者たちから師事を受けていた。
足でリズムを刻みながら、先生であるクヌート・ハムレさんと練習していた酒井さん。音を体で覚えていく彼女を見て、「よほど記憶力がよいのかな」と、筆者は驚いた。
口頭伝承で受け継がれてきたハーディングフェーレには本来「楽譜」が存在しないため、耳と体で音を覚えていくしかない。
「ハムレさんとのレッスンでは、ひたすら演奏をして真似して、という方法でレッスンが進んでいくんです」と話す酒井さん。
「まるで地元に住んでいるノルウェー人と演奏しているかのよう。彼女はどんどんと吸収していくよ」と、ハムレさんは酒井さんのことを褒めていた。
珍しさ3「フィヨルド地帯の田舎に業界の大物が大集合+日本人」
9月末、グランヴィン市ではハーディングフェーレを祝うコンサートが開催された。原さんや酒井さんのほかに、業界の巨匠たちや有名な製作者が大集合。日本人の2人は重要な主役として歓迎された。
日本の音楽家をきっかけに、ノルウェーでこれほどのレベルの人が集まる民族楽器のコンサートが、ゼロの段階から企画され実行されることは珍しい。
在ノルウェー日本国大使館からは、ノルウェー人であるLiv Landeさんが、琴を披露する。
いろいろと「珍しい」が混合したのが今回の催しだ。
ノルウェーの奏者として最も権威のある一人とされるハムレさんは、原さんが製作した3本目に大きく興味を抱いており、「弾いてみていい?」と原さんに聞いて試していた。「これはいいものを作った。プロのノルウェー人が作ったものと変わらないよ」と、筆者に話す。
現地メディアでも大きく報道される
日本人2人の活動実績とコンサートの実現は、地元の新聞社やテレビ局からも大きな注目を浴びる。
ハルダンゲル・フォルケブラ紙やホルダラン紙は、開催前から「日本とノルウェーの音楽を介しての文化交流」と報道していた。
原さんの3本目を、「日本人製作のハーディングフェーレから流れる、良い音」と大きなタイトルで報道したホルダラン紙。
地元紙の記事は、通常は有料購読をしないと読むことができない。今回はホルダラン紙から許可をいただき、Yahoo!JAPAN NEWSに全ページの掲載許可をいただいた。
巨匠であるハムレさんが、原さんの作品を褒めて、「合格」と評価したことは、ホルダラン紙でも大きく伝えられる。
この日のコンサートは、「地元の音楽界にとって、両国の音が協奏した、実りのある夜だった」と記事では記された。
原さんと酒井さんの活動は、国営放送局NRKのラジオやニュース番組でも紹介された。
ノルウェーでの経験を日本へ
原さんは日本への帰国が2か月後に迫る。ハーディングフェーレの職人であり、奏者としても有名なオッタール・コーサさんのもとで製作を学んだ約2年間。
同僚としての相性は抜群で、原さんはコーサさんのご家族と共に長い時間を過ごした。
原さんとの出会いは、「まさに運命的だった」と記者会見でノルウェーの報道陣に話したコーサさん。
「圭佑は僕の2番目の妻みたいな存在だから、いなくなると寂しい」とつぶやく。
「楽器が生まれた地ハルダンゲルで、多くの方に楽器を手に取ってもらい、その音色を聞いてもらい、職人冥利に尽きます」と原さんは語る。
巨匠ハムレさんにイベントで楽器を使用してもらったことについては、「当初はその予定はなかっただけに、大変驚きました。光栄です」と話した。
原さんは、日本に帰国後、製作や作業ができる環境を整える予定だ。同時に、日本でのノルウェー音楽の現状を把握し、ハーディングフェーレがどのように弾かれているのか、北欧音楽も含めて、見て聞いて国内を回るつもりだそうだ。
ノルウェーと日本の音楽交流はこれからも続く。
Photo&Text:Asaki Abumi
Special thanks toAvisa Hordalandfor permission to publish their article