満員に見えたオリンピック開会式 実は身近な気象現象が関係していた
7月23日(金)夜、無観客の中、東京オリンピックの開会式が行われました。
コロナ禍で様々な制約があるなかでの式典は、関係者の方々も、たいへんなご苦労があっただろうと想像します。
また、その前日の7月22日(木)、調布の東京スタジアムで行われたサッカーの日本対南アフリカ戦は大熱戦でしたが、こちらも観客席があまりに寂しく、やはり観客の存在というのはスポーツにとって重要なのだと、改めて思いました。
そんななか、開会式を取材した海外メディアが観客席を見て「アンビリーバボー! 満員じゃないか・・・」と、驚愕したとのニュースが伝えられました。もちろん競技場に観客はいませんから、ライティングの技術によって、人が居るように見えたというのが真相です。
しかしこのニュースをさらに掘り下げると、日本の建築技術の水準の高さ、そして或る気象現象に行き着きます。
森林の多様性を取り入れた国立競技場
現在、東京オリンピックが行われている国立競技場は2019年11月30日に完成しました。当初のデザイン案が白紙になったことで、急遽、建築家の隈研吾氏が手掛けることになり、わずか3年ほどの工期で建築されたのです。
そのコンセプトは隈氏によると「杜(もり)のスタジアム」とのこと。近くには神宮の森があり、その森に溶け込むように競技場の高さは50メートル以下に抑えられています。
そして重要なことは、この競技場で使われている木材は日本全国47都道府県から集められ、その木材がふんだんに使われていることです。
この国立競技場は、まさに森林の多様性と、森林そのもののイメージを取り入れています。
その一つが、海外メディアをして「満員じゃないか・・・」と言わしめた観客席なのです。
観客席とチンダル現象
サッカーの行われた東京スタジアムもそうでしたが、競技場本来の観客席は白やグレーなど単一の色がほとんどです。ところが国立競技場のスタンドは、白・黄緑・グレー・深緑・濃茶の五色のアースカラーに彩られています。
さらにこの五色のアースカラーは「木漏れ日」を意識して配置されたとのことですが、実はこの「木漏れ日」というのは、気象の世界では「チンダル現象」として知られています。
チンダル現象とは、真っすぐ進んできた光が大気中の細かい粒子にあたって様々な方向に反射し、光の筋が見える現象です。19世紀、イギリスの物理学者ジョン・チンダルが、森を散歩中に木漏れ日を見て、「なぜ、光の筋が見えるのか?」と疑問に思い、大気中の粒子の大きさによって見え方が違うことを発見しました。
さらにこのチンダルは、なんと、のちに二酸化炭素に温室効果が有ることも発見します。
いずれ誰かが発見したとは思いますが、言い方を変えれば二酸化炭素の温室効果の発見が無かったら、現在の多様性やSDGsの価値観にも少なからず影響があったはずでしょう。
木漏れ日をイメージしたスタジアムとオリンピック。我々の想像が及ばないだけで、世界は身近なところでつながっていると思います。