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株価暴落、円高進行で思う「日本のメディアは個人投資家の味方ではない」

山田順作家、ジャーナリスト
日経平均1万5000円割れ(写真:アフロ)

■市場は経済の理屈と、実体経済とも関連しない

今年になってから、金融市場は大荒れになった。そのため、新聞、経済誌、週刊誌、エコノミスト、評論家などが言うことが、混乱を極めている。とくに、1月29日に日銀がマイナス金利導入を発表してからは、支離滅裂状態となった。マイナス金利は緩和強化だから理屈上は円安になる。ところが実際は逆に「円高・株安」が進んでしまったからだ。

要するに、いまの金融市場は、経済の理屈とも、実体経済とも関係なく動く。これまで、私はこのことをずっと指摘してきたが、これを受け入れてしまうと、評論家はコメントできなくなり、メディアは記事を書けなくなるので、「欧州銀行不安」「原油安」「中国経済の減速」「イエレンFRB議長発言」など一生懸命、犯人探しをしている。

しかし、本当の犯人(原因)は、日本経済が不況に陥り、金融政策をいくらいじくっても無駄なことだ。そこを、ヘッジファンドなどが突いて、円高・株安で収益を上げようとしている。

つまり、こういう市場で、短期的な株価や為替を予想してもまったく意味はない。しかし、そんな結論だと記事にならないので、たとえば、週刊誌の記事は見事に真っ二つに分かれた。

■悲観論『週刊現代』対楽観論『週刊ポスト』

今週の『週刊文春』(2月25日号)は、「ヘッジファンドが仕掛ける「株価1万円割れ」の修羅場」として、この先にあるもう一段の暴落を警告し、『週刊現代』(は「マイナス金利、大失敗 この株安と円高はもう止められない「 円は1ドル100円まで」「株価1万3000円」まで覚悟せよ」(2月27日号)と、超悲観的な記事を載せている。『週刊現代』はすでに、「日本株大暴落のXデーは3.16」(1月30日号)という記事もやっている。

ところが、『週刊ポスト』はまったく逆で、今年になってから毎号のように、超楽観的な記事を掲載し、「5週連続大特集「日本経済の復活」ブチ抜き10ページ 株も不動産も原油も金もみんな上がるぞ そして「日経平均2万5000円」も見えてきた」( 2月19日号)とやっている。

週刊誌読者はいまや60歳以上の高齢者が中心で、そのうちどれだけの人たちが個人投資家として株や為替に投資しているかはわからない。ただ、このように予測が分かれると、どうしていいかわからないのは確かだろう。別に、週刊誌でなくとも、経済誌だろうと、経済新聞だろうと同じで、いま日本の個人投資家は株価の下落で大火傷をしている状況だ。

そこで思うが、なぜメディアは個人投資家に株式投資や為替投資などを勧めるのだろうか? 勧めておいて、市場が大荒れになると、「気をつけたほうがいい」「素人は手を出さないほうがいい」などと言い出すのだろうか?

■なぜか合理的な結論を導かない

とくに、マイナス金利発表後の1週間は、個人投資家が約1900億円の買い越したのに対して、外国人投資家が約6000億円を売り越したので、円高は進み株価は暴落した。結局、個人は投げ売りを迫られて大損をしている。年金を株に投じているGPIFもヘッジファンド勢に完敗して、国民のお金を大幅に溶かしている。

ということは、個人投資家は、株価や為替に投資しても負けるので、勝っているほうに投資すべきとなるのが、合理的な結論ではないだろうか? 実際に、勝っているのはヘッジファンドである。

つまり、「気をつけたほうがいい」「素人は手を出さないほうがいい」という結論はおかしく、「投資するなら株や為替よりヘッジファンドに」というのが、個人投資家への最適なアドバイスではないだろうか?

■絶対リターンを追求するヘッジファンド

単純な話、この下落局面を仕掛けて空売りなどを駆使して高リターンを出しているヘッジファンドはいくつかある。『WSJ』紙などを読めば、そんなヘッジファンドの話がいくつも載っている。ヘッジファンドは、「市場動向に左右されず、上げ相場でも下げ相場でも一定のリターンを出し続ける」ことを使命としている。絶対リターンの追求だ。ならば、直接ヘッジファンドに投資したほうがマシだ。

もちろん、失敗しているファンドもあるが、長期的にリターンを叩き出しているファンドもある。それなのに、なぜか日本のメディアはヘッジファンドや外国勢を目の敵にする。「個人投資家の敵」として扱う。

逆ではないのか?

■日銀や政府より、ヘッジファンドのほうが強い

個人投資家は投資で収益を上げたいだけである。目的は、それだけだ。「円ドル相場115円、日経平均1万6000円がアベノミクスの抵抗ライン」などいうことは個人投資家にとっては、本当はどうでもいいことだ。

ところが、メデイアや評論家などがこれを言うものだから、押し目買いをしてさらに負ける。日本の個人投資家は、メディアの被害者ではないだろうか?

日銀や政府より、ヘッジファンドのほうが相場には強い。

ただ、2015年の1年間でMSCI(世界株式)指数は−2.7%、HFR(ヘッジファンド)指数も−3.6%と下落しているので、この状況が続くかぎり、投資環境はいいとは言えない。

とはいえ、メディアが個人投資家の味方なら、現在の記事のつくり方は間違っているとしか思えない。なぜ、日本株と日本円と心中させねばならないのだろうか。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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