Yahoo!ニュース

“2017年最高のマッチアップ” ゴロフキン対カネロ戦が、メイウェザー対マクレガー戦から受ける影響

杉浦大介スポーツライター
Photo/Golden Boy Promotions

9月16日 ラスベガス T−モバイルアリーナ

WBC、WBA、IBF世界ミドル級タイトルマッチ

王者

ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/35歳/37戦全勝(33KO))

2階級制覇王者

サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ/27歳/49勝(34KO)1敗1分)

ニューヨークで催された大イベント

2017年最大のファイトのプロモーションが始まっている。

6月19日にはロンドンでキックオフ会見が行われたのに続き、20日にはニューヨークのマディソン・スクウェア・ガーデン・シアターでも盛大なイベントが開催された。夕方にレッドカーペットを歩いて主役のボクサーたちが会場入りし、8時から「I am Boxing」と銘打たれたドキュメンタリー映画を上映。その後にカネロ、ゴロフキンが壇上に登場し、Q&Aセッションが催された。

一般開放されたシアターには多くのファンが陣取り、その大半がカネロのサポーター。本番までまだ約3ヶ月あるとは思えないほどの熱気は、「ビッグファイトの盛り上がりはメキシカン次第」という業界の定石を証明するものだった。

「今回の試合はファンに喜んでもらうためのものなんだ」

オスカー・デラホーヤはそう語っていたが、実際にエンターテイメント性を重視した会見だった。

会見に出席したメディアには記念カップも無料配布された
会見に出席したメディアには記念カップも無料配布された

珍しい夜のスタート、映画上映、レッドカーペットなど、様々な意味でショウアップ。メディアにはヘネシーのドリンクまでが振る舞われた。

その旺盛なサービスからは、ゴロフキン対カネロ戦をボクシングの枠を超えたイベントに仕上げたいというゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)の心意気が伝わってくる。

ビジネス面の成功に巨大なライバル出現

ついに実現したミドル級の頂上決戦は、クオリティ的に2017年最高級のカードであることは言うまでもない。そして、興行面でも“今年最大のイベント”となるはずだった。人気抜群のカネロが前戦のフリオ・セサール・チャベス・ジュニア(メキシコ)戦でペイパービュー(PPV)を100万件以上も売ったことを考えれば、ゴロフキン戦では150万件以上が期待されるのは当然だろう。

しかし・・・・・・この興行を主宰するGBP にとって、8月26日に同じラスベガスでフロイド・メイウェザー(アメリカ)対コナー・マクレガー(アイルランド)戦が行われることが決まったのは、まさに大誤算だった。 結果的に2つの特大PPV興行が中3週間という短い間隔で開催されることになったのである。

PPV興行を大成功させようと思えば、ボクシングマニアだけでなく、一般のスポーツファンも巻き込まなければならない。しかし、ボクシング視聴のために3週間で2度も70〜80ドルを費やすスポーツファンがどれだけいるか。どちらかを選択となったとき、メキシコ人とカザフスタン人がアメリカで対戦するファイトはやはり分が悪い。

無敗の5階級制覇王者がUFCのスターと対戦する異色イベントは、一般的にPPV購買数は300万件突破も可能とみなされている。あくまでビジネス面で、カネロ対ゴロフキンがその影響を少なからず受けるのは止むを得ない。特にメイウェザー対マクレガー戦が、(大方の予想通りに)凡庸な内容になった場合・・・・・・

2015年5月2日に行われたメイウェザー対マニー・パッキャオ(フィリピン)の“世紀の一戦”。この試合がスポーツファンを喜ばせる展開、結末ではなかったことが、以降のPPV興行の数字に影響したというのは定説になっている。それと似たことが8、9月に起こってももちろん不思議はないのだろう。

GBPの腕前が問われる

なかなか決まらなかったゴロフキン対カネロ戦の開催地は、最終的にはラスベガスとダラスが候補として残ったと言われる。約10万人の観衆が期待できるダラスAt&Tスタジアムを望む声も少なくなかったが、結局はベガスに落ち着いた。

GBPの決断の理由の1つが、“9月のベガス開催”を希望するメイウェザーの試合をカジノタウンから弾き出すことにあったのは容易に想像出来る。

例年、ビッグイベントが行われるメキシコ独立記念日の週末さえブロックしてしまえば、 準備期間も必要なメイウェザー対マクレガー戦は11、12月にずれこむはず。そんな読みがGBP側にはあったはずだ。8月のベガスは灼熱の暑さで、人通りも少なくなることを考えればなおさらだ。

しかし、それでもメイウェザーは復帰戦を8月に持ってきた。もともと犬猿の仲であるデラホーヤへの対抗意識がゆえか。いずれにしても、この日程のおかげで、9月16日の興行に社運をかけるGBPがより厳しい立場に追いやられたことは間違いない。

ゴロフキン対カネロ戦は素晴らしい内容になることが濃厚で、ドラマチックな結末が待ち受けている可能性も十分にある。熱心なボクシングファンに対しては、その魅力を説明する必要すらない。しかし、せっかくの垂涎のカードなのだから、より多くの人にこの試合を見てもらい、興行的な大成功も期待したいところだ。

今後の盛り上がりはプロモーション活動次第
今後の盛り上がりはプロモーション活動次第

それを成し得るべく、GBP(と提携するK2プロモーションズ)の手腕に改めて注目が集まる。

サービスに溢れたキックオフ会見の盛り上がりは第一歩。メキシカン・コネクションも上手に活かし、ボクシングマニアだけでなく、それ以外の層の人間にも魅力をアピールできるかどうか。

メイウェザー対マクレガーの話題性の陰に隠れずにいるのは難しいが、プロモーションに全力を傾ければ、ゴロフキンとカネロの素晴らしさは多くのスポーツファンに理解してもらえるはずだ。

ファン、他の関係者にとっても他人事ではない。年間最大のカードがビジネス面でも成功することには、業界全体にとって重要な意味があるのだ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

杉浦大介の最近の記事