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新型コロナ:外出自粛でも「太陽光線」を浴びなさい

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:imagenavi/イメージマート)

 緊急事態宣言が首都圏の1都3県に出た。近畿圏も緊急事態宣言の発出を政府に要請するようだ。政府は飲食店への時短営業と夜間(20時以降)の外出自粛、テレワーク推進などを要請し、宣言発出前から各都県知事は外出自粛を呼びかけている。寒さが厳しい今の季節は、とかく運動不足になりがちだ。適度な運動とともに、太陽光線を浴びることも健康を守るためには重要になる。

ビタミンDの多い食事と日光浴

 緊急事態宣言を受け、外出の自粛が要請されているが、外出を避けて太陽光線を浴びる時間が少なくなるとビタミンDが不足する。ビタミンDが不足すると細菌やウイルスを食べるマクロファージという白血球の一種の機能が下がることなどが知られている(※1)。

 ビタミンDの補給が新型コロナの感染と死亡リスクを減らすのではないかという論文も出ている(※2)。実際、イスラエルの集団調査によれば、血中のビタミンD濃度が高いほど感染リスクが低く、入院する割合が少ないことがわかっている(※3)。

 新型コロナでは重度の肺炎、合併症では心筋障害や血栓症が注目され、それは新型コロナが血管の炎症を引き起こすからとも言われている(※4)。ビタミンDには抗炎症作用があることが知られ(※5)、ビタミンDの血中濃度の高い人はそのおかげで感染しにくかったり、入院するほど重症化しなかったりすると考えられる(※6)。

 このように新型コロナでは、体内におけるビタミンDの量が感染リスクや症状に関わっていることがわかってきた。では、ビタミンDはどのように摂取すればいいのだろうか。

 食べ物からビタミンDを得るためには、魚介類、キノコ類、肉、卵、牛乳などを食べたり飲んだりするといいとされる。カルシウムはビタミンDの欠乏を防ぎ、ビタミンDは脂肪組織に溶けるので、特にカルシウムの豊富な魚、脂肪を多く含んだ魚を食べるのが効果的だ(※7)。

 重要なのは、ほかのビタミン類と違ってビタミンDは皮膚でも作られることだ。太陽光線などの紫外線を含んだ光を浴びると皮膚でビタミンDが作られ、この機能は高齢者の皮膚でも働き続ける(※8)。

 ビタミンDを含んだ食物を取り入れるだけでは量が不足するので、必要な量のビタミンDを得るためには日光浴が重要とされている。我々が必要な量のビタミンDを皮膚で作るためには、昼間の太陽光線(紫外線B波)を、週に2回程度、午前10時から午後3時までの間、5分から30分浴びればいい(※9)。

 ビタミンDが欠乏すると、カルシウムやリンなどを吸収できず、骨軟化症や骨粗しょう症といった骨の異常の病気を引き起こす場合がある。また、ビタミンDが欠乏すると急性心筋梗塞のリスクも上がるようだ(※10)。

 ビタミンDを欠乏させず、免疫機能を落とさないためには、適度に日光にあたることが重要だ。外出自粛で寒いからと外へ出て太陽光線を浴びないようなことが続けばビタミンDが欠乏する危険がある。体内のビタミンDの量が少なくなると、新型コロナの感染リスクが上がるかもしれない。

 もちろん、太陽光の紫外線にさらされ過ぎると皮膚が赤くなる紅斑(日焼け)が生じる。これが繰り返されることで皮膚がんや悪性黒色腫(メラノーマ)などを引き起こすこともある。

 太陽光線に含まれる紫外線は、大気中を通過するうちに波長の長短によって減衰される。波長が短い紫外線C波はほとんど地上へ届かず、我々はB波(UV-B、波長280~315nm)、A波(UV-A、波長315~400nm)を受ける。

 この中で、ビタミンDを作るのはB波、殺菌作用が確認されているのは波長200~280nmの紫外線Cで、紫外線Cは人体にも有害だ。地上で紫外線Cがあまり含まれない太陽光線にそれほど強い殺菌効果はなく、新型コロナウイルスに対しても紫外線Cを含まない太陽光線による有効性は確認されていない(※11)。

規則正しい生活と適度な運動

 ところで、日中に太陽を浴びることと同じくらい大事なのが朝日を浴びることだ。我々の身体には体内時計といわれるセンサーが備わっていて、それはサーカディアン・リズム(概日リズム)と呼ばれている。

 サーカディアン・リズムは太陽光線に強く関係していることがわかっているが、それを感知する身体のセンサーはまず目だ。サーカディアン・リズムは太陽光線と関係し、脳の視床下部にある視交叉上核が太陽光線を感受して1日のサイクルと同調させている。

 季節によって日の出の時間が変わるので、目で朝日を感じ、それを脳へ伝えて1日の始まりの準備をするというわけだが、サーカディアン・リズムは免疫機能を調整するシステムとして相互に密接に関係している。

 例えば、免疫細胞もサーカディアン・リズムによってコントロールされているという(※12)。逆に言えば、サーカディアン・リズムが乱れると免疫機能にも悪い影響をおよぼすことになる。

 新型コロナが収束をみせない中、首都圏や近畿圏は再び緊急事態宣言によって行動制限される状況になっている。外出自粛とステイホームには、感染拡大を防ぐと同時に、我々が、食べ過ぎ、運動不足、飲酒と喫煙の増加、睡眠障害といった不健康な状態になるリスクもある。

 屋外で周囲に人がいない場合、マスクをする必要はない。生活習慣を乱さず、バランスの取れた食事と適度な運動が重要になるが、生活習慣のリズムを整えるために朝日を浴び、運動のついでに太陽の下に出ていくことをおすすめする。

※1:Adrian F. Gombart, et al., "A Review of Micronutrients and the immune System-Working in Harmony to Reduce the Risk of Infection" nutrients, Vol.12(1), 236, doi.org/10.3390/nu12010236, 2020 

※2:William B. Grant, et al., "Evidence that Vitamin D Supplementation Could Reduce Risk of Influenza and COVID-19 Infection and Deaths" nutrients, Vol.12(4), 988, doi.org/10.3390/nu12040988, 2, April, 2020

※3:Eugene Merzon, et al., "Low plasma 25(OH) vitamin D level is associated with increased risk of COVID-19 infection: an Israelipopulation-based study" The FEBS Journal, Vol.287, No.17, 3693-3702, 23, July, 2020

※4-1:F A. Klok, et al., "Incidence of thrombotic complications in critically ill ICU patients with COVID-19" Thrombosis Research, Vol.191, 145-147, 10, April, 2020

※4-2:Evangelos Terpos, et al., "Hematological findings and complications of COVID-19" American Journal of Hematology, Vol.95, Issue7, 834-847, 13, April, 2020

※5:Emily K. Calton, et al., "The Impact of Vitamin D Levels on Inflammatory Status: A Systematic Review of Immune Cell Studies" PLOS ONE, DOI:10.1371/journal.pone.0141770, 2015

※6-1:Emma L. Bishop, et al., "Vitamin D and Immune Regulation: Antibacterial, Antiviral, Anti-Inflammatory" JBMR PLUS, DOI: 10.1002/jbm4.10405, 22, August, 2020

※6-2:Yi Xu, et al., "The importance of vitamin d metabolism as a potential prophylactic, immunoregulatory and neuroprotective treatment for COVID-19" Journal of Translational Medicine, Vol.18, 322, 26, August, 2020

※6-3:Eva Untersmayr, Eniko Kallay, "Insights in Immuno-Nutrition: Vitamin D as a Potent Immunomodulator" nutrients, Vol.12(11), 20, November, 2020

※6-4:Alice G. Vassiliou, et al., "Vitamin D deficiency correlates with a reduced number of natural killer cells in intensive care unit (ICU) and non-ICU patients with COVID-19 pneumonia" Hellenic Journal of Cardiology, doi.org/10.1016/j.hjc.2020.11.011, 26, November, 2020

※7:Paul Lips, et al., "Diet, sun, and lifestyle as determinants of vitamin D status" Annals of the New York academy of science, Vol.1317, 92-98, 2014

※8:I R. Reid, et al., "Prophylaxis against Vitamin D deficiency in the elderly by regular sunlight exposure" Age and Aging, Vol.15, Issue1, 35-40, 1986

※9:Michael F. Holick, "Vitamin D deficiency" The New England Journal of Medicine, Vol.357, 266-281, 2007

※10:Carlo Vittorio Cannistraci, et al., "“Summer Shift”: A Potential Effect of Sunshine on the Time Onset of ST-Elevation Acute Myocardial Infarction." Journal of the American Heart Association, DOI: 10.1161/JAHA.117.006878, 2018

※11:Ayse Seyer, Tamer Sanlidag, "Solar ultraviolet radiation sensitivity of SARS-CoV-2." THE LANCET Microbe, Vol.1, Issue1, E8-E9, May, 1, 2020

※12-1:Christoph Scheiermann, et al., "Circadian control of the immune system" nature reviews immunology, Vol.13, 190-198, 2013

※12-2:Anne M. Curtis, et al., "Circadian Clock Proteins and Immunity" Immunity, Vol.40, Issue2, 178-186, 2014

※12-3:Till Roenneberg, Martha Merrow, "The Circadian Clock and Human Health" Current Biology, Vol.26, Issue10, 2016

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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