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イ・ボミ専属キャディに聞いた、本来の姿を取り戻すためにチームが至った結論とは?

金明昱スポーツライター
サントリーレディス2日目にノーボギーの67で回ったイ・ボミ。会心のプレーだった

5月のほけんの窓口レディースが終わったあと、イ・ボミは少しすねた顔をしてこう言ってきた。

「調子が悪いってあまり言わないでください。私にだって悪いときがあるんですから」

2015年と2016年の賞金女王だけに、当時と今の成績を比較されるのは仕方のないことだが、周囲の喧騒から離れたい気持ちもわからなくはない。

いまイ・ボミはかつて経験したことのないゾーンに突入している。

というのも、今季は開幕戦から10試合に出場して、トップ10入りは2回、予選落ちは2回で2015年、16年に賞金女王のタイトルを手にしたかつての強さは鳴りを潜めている。

調子を取り戻すきっかけをつかむにはまだ時間がかかりそうだが、今の状態をよく理解しているのはイ・ボミ本人でもある。

常に「調子はどうなのか」と聞かれるのは正直、耳の痛い話かもしれない。ただ、無類の強さを誇ったイ・ボミの状態が気になる人が多いからこそ、聞いておかねばならなかった。

そのことについて聞くと、いつものように目を見ながら話してくれた。

「今は確かにいい状態ではありません。でも、ゴルフっていいときも悪いときもあります。みんな忘れていると思うのですが、去年もしんどくて、まったくダメなときもあったんですから」

確かに去年、イ・ボミは日本女子オープンで初日に6オーバーを叩き、体調不良を理由に棄権している。当時は7連戦目で疲れがたまりすぎての棄権だった。ただ、翌週のスタンレーレディスでは2位に入っており、調子が悪くても、すぐに修正してくるところがイ・ボミの凄さだった。

ファンの期待に応えられない悔しさ

それが今はできずにいる。「ショットの感覚が戻ってこない」というのが、口癖になっていた。

「以前は悪いところを修正すれば、すぐに良くなっていたのです。でも今は修正しながらも、そこに迷いが生じているんです。だから、時間がかかると思うんです」(イ・ボミ)

専属コーチのチョ・ボムス氏も「私がこれまで見てきた中で、ここまで調子が戻ってこないボミを見るのは初めて」と言っていたほど。

イ・ボミはツアー屈指のショットメーカーで、彼女もまたショットの精度には絶対的な自信を持っていた。だが、今はイメージしているスイングとショットが出ないため、徐々に自信をなくしているように見える。

それでも、常に前向きで笑顔を絶やさないのが、イ・ボミの良さだ。

「もう、良くない、良くないと考えすぎないようにしています。今は目の前のことに全力を尽くしていくしかありません。気がかりなのは、周囲の人やファンがとても心配してくれていること。それに応えられないのが悔しい。いい時が来るまで一生懸命がんばるしかありません。一気に良くなることはないので、試合を通して修正していかないといけないですね」

ボミへのアドバイスをやめる!?

こうしたイ・ボミの状態をもっとも近くで見ているのが、専属キャディの清水重憲氏だ。2年連続賞金女王を支えた陰の立役者である清水氏はこう語る。

「シーズン開幕以降、戻ってくると思われた調子はまだ上がってきていません。メンタルもあまりいい状態ではなく、ボミは“うまくいかないことが多い”というのが気になっています。どうしてもいい時のイメージと比べてしまっている部分はあると思います。一番得意としているショット力が落ちてしまっていて、それがメンタルに影響しているのでしょう。いつものイメージがわいてこないと話しています」

イ・ボミの悩みを共有する立場だからこそ、その解決策を見出すためにアドバイスしているものの、調子が上がらない要因が何なのかがハッキリと見えてこない。

清水氏はその答えを探し始めれば、キリがないことを知っている。そこで“チームボミ”は一つの結論に至った。

「近くにいる人たちが、あれこれアドバイスすることはやめようと話し合いました」

これはどういう意味なのか。

「以前はよくスマートフォンでスイングの動画を撮って、悪いところがあれば一緒にチェックしたりしていたのです。でも、そうすると悪いところばかりが気になってしまうんです。プロから『どこが悪いか』と聞かれたら、良くしてあげたい気持ちがあるので、アドバイスはします。でも、これで迷いが生じるのであれば、これからプロに対しては言わないようにしようという結論になったのです。キャディ、トレーナー、マネージャーは“コーチ”ではありませんから」

この先はボミ自身の問題

かつて男子ツアーで谷口徹や田中秀道のキャディを務めたこともある清水氏。

そこでの経験も踏まえて、イ・ボミに対するスタンスを少し変えたようだ。

「私は選手がダメなときは黒子に徹します。余計なことは言わず、必要とされる部分はしっかりサポートする。私の経験上、この先はもうボミ自身の問題。できるかぎりのサポートを続けながら、良くなるのを待つしかないと思っています」

ただ、調子が悪いとはいっても、賞金ランキングは23位(6月4日時点)で決して悪いわけではない。

そんななか清水氏は「アプローチのレベルが格段に上がっている」と話す。

「ショットの精度が落ちる分、グリーンを外すのでアプローチする機会が増えました。その結果、アプローチの技術が上がりましたね。そこは収穫と言っていいでしょう」(清水氏)

確かに今季のリカバリー率は68.1818%の2位(6月4日時点)と高い数字を記録している。まだ巻き返しの余地はある。

「ボミが実力のある選手なのに間違いはありません。だから、何かのきっかけで変われると思っています。シーズンもまだ3分の1しか終わっていないと思うのか、3分の1がもう終わったと思うのか。考え方ひとつで成績は変わってきます。まだきっかけをつかめる試合はある。このまま諦めるわけにはいかないので、(ボミが)勝つために全力でサポートをするしかありません」

今週、サントリーレディスに出場しているイ・ボミが2日目に5バーディ、ノーボギーの「67」でホールアウトした。今季、ノーボギーでのプレーは3月のTポイントレディスの2日目以来だ。

「今は優勝を考えるよりもショットの精度を上げることに集中したい」というイ・ボミ。

会心のプレーを積み重ね、再浮上のきっかけをつかめるか、期待したいところだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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