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「忍者トライ」の山田章仁がバドミントン「フクヒロペア」会見で司会。テンポよく進行。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
2018年秋のイングランド代表戦(写真:アフロ)

 ラグビーの日本代表として活躍してきた山田章仁が6月4日、東京オリンピック東京大会での活躍が期待されるバドミントンの福島由紀、廣田彩花ペアの記者会見で司会をおこなった。

 質疑のさなか、現役アスリートにあって珍しい試みの経緯や感想を聞かれる。山田は即答する。

「僕の方がもともとお二方のファンでして、素晴らしい門出を私にやらせてくれと言った流れです。アスリートが作り上げると、独特な空間が生まれる。そんな新しい世界もあっていいかなというところでございます!」

 2015年のワールドカップイングランド大会のサモア代表戦では、相手をくるりと回転してかわす「忍者トライ」を披露した楕円球界のファンタジスタ。新型コロナウイルス感染拡大で国内トップリーグが中断する現在は、「オンラインを味方につける」をモットーに多面的な活動に時間を割く。

 インターネット上の会議アプリを活用し、就職セミナーや選手とのトークイベントを実施。かねて運用するYouTubeチャンネルやSNSと連動させ、持ち前の軽快な話しぶりで相手の魅力を引き出している。

 一方、「フクヒロペア」の愛称でおなじみの福島、廣田ペアは、女子バドミントンダブルス界の注目株。世界ランク2位に入るなど活躍も、昨今のコロナ禍にあって前所属先のアメリカンベイプ岐阜が経営破綻とピンチに陥っていた。

 今度の会見では、同ペアらアメリカンベイプ岐阜所属の選手、コーチ、スタッフの新天地が発表された。「バドミントン日本代表 福島由紀・廣田彩花ペア 丸杉Bluvic入団 オンライン記者会見」には、岐阜県バドミントン協会会長でもある株式会社丸杉の杉山忠国社長も出席。同社が国内のS/Jリーグ2部に加盟させるチームとは別に、同リーグ1部に「ブルビック」という新たな組織を作ると説明した。

 画面の向こう側では、司会役の山田が「もちろんお二方は立てたい。でも、丸々黒子役になるのも違うかなと思って」。自身のエピソードを適度に挟み込みながら、2人の談話を引き出していた。

 慶應義塾大学ラグビー部時代から多くのメディアに露出しているとあって、取材する側とされる側の「何を聞いて欲しい、何を言いたくない…みたいなところ」は心得ている。

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山田「例えば、オリンピックに懸ける思いは。出たい思いは強いと思いますが、そこでどんなプレーをしたいとか」

福島「本当に開催されて、コートに立った時は、2人で楽しんで力を発揮したいなというのが凄くあります。わくわくする気持ちの方が大きいので、楽しんでやっていければと思います」

山田「廣田さん、気持ちが先走っちゃいますけど、メダルの色は何色を…とかあるんですか?」

廣田「2人の目標は金メダルという夢があるので…。プレーしているイメージはまだわかないですけど、2人で楽しんでいるプレーを見てもらいたいです」

山田「それ、大事ですよね。観ている人に楽しんでいるところを見てもらうのがオリンピック、スポーツの良さだと思うんですけど、いまお二方の話を聞いたら、メダルの色も金と出て。これで新聞各紙、金メダルという見出しが出ると思いますし、その辺のプレッシャーにもお二方にはばっちり耐えて欲しいんですけど、私の似たようなところで行くと、日本代表に入れなくてくすぶっている時、(当時のヘッドコーチで世界的名将の)エディー・ジョーンズさんとのミーティングがありまして、『山田、お前は何が目標だ』と(聞いてきた)。エディーさん曰く、数多くの選手にとってはワールドカップに出ることが目標のひとつになっちゃいがちなようなんですが、私は『ワールドカップでいいプレーをすることだ』と答え、エディーさんは『それでいい』と言うんです。ワールドカップではメダルがないので『いいプレーを』と話したんですけど、おふたりがメダルを狙うと聞いて、私も安心しております! …メダル、がっつり狙っちゃってる感じでいいですか?」

福島「ふふふ、はい!」

 先輩の福島が先に話し始めやすいのを察知して廣田から先に話題を振ったり、オリンピックに出た場合の欲しいメダルの色を聞いたり。2人の出身地である熊本県のメディアから意気込みを問われた際は、「これは、僕からのリクエストなんですけど、熊本弁でお願いします」と補足した。

山田「技術的なことも聞きたいんですけど。(バドミントンの)ペアだと、後衛が相手の力を跳ね返したりして、前衛がネット際の細かなところ…というイメージがあるんですけど、お二方はどっちも入れ替わって、後ろも前もないようなイメージがある。プレー中はどのようなコミュニケーションを取ってやっているんですか?」

福島「私たちはどちらも後ろと前ができるのがいいところだとは思います。そこがペアの強みなのかなと」

山田「ウォームアップの時、割と廣田さんはネット周りのテクニックをチェックしていると聞いているんですけど…。そこで自分の良さを出したい! みたいなところがあるんですね」

廣田「ネット前は(シャトルが)ギリギリに来るので、狙うにも練習が必要で。その確認はしています」

 この会見は自身のYouTubeチャンネルで同時配信を予定も、「運よくと言うか、運悪くというか」未遂に終わる。会が進むなかで接続し直すことができそうだったが、山田は「楽しみにしていたファンの方には申し訳なかったんですけど、メディアをフクヒロペアの味方につけたい」と頭を切り替え、会見動画のアップをやや遅らせると決めた。

 報道陣の質疑に対応する会見の後半では、福島、廣田ペアらに質問するためアプリの挙手ボタンを押す記者に順に指名しながら、チャット欄に出てくる記者の問い合わせに短文で返答する。

グラウンド上での長所でもある視野の広さと即応性を、グラウンド外でも発揮した格好だ。

 2人の所属チームを支える株式会社丸杉の杉山忠国社長は、「司会の山田さんの絶妙な進行と福島、廣田両選手の言葉(を聞き)、笑顔を見ていて、ますます大きな責任を感じているところです。2人のメダル獲得への道は大きな感動を与えると思います」と総括。2018年11月以来の代表戦出場も目指す34歳の山田にとっては、改めて生来の持ち味を示す1日となった。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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