西川口の新中華街 ハラル料理と蘭州ラーメン「ザムザムの泉」の食品ロスが少ない5つの理由
毎週金曜日の深夜0時20分から50分まで、テレビ朝日系列で放映されるテレビ番組「タモリ倶楽部」。2018年1月5日放送予定の回では、埼玉県川口市のJR西川口駅(京浜東北線)周辺にある新しい中華街が特集される。今回、番組には登場しないが、蘭州料理「ザムザムの泉」を取材したのでご紹介したい。
「ザムザムの泉」は、日本初、蘭州回族のハラル料理、蘭州牛肉麺(蘭州ラーメン)などの専門店(公式ツイッターアカウントによる)。国産野菜とハラル和牛を使っており、店の看板や店内にはハラル認証マークが掲げられている。
蘭州市とは、中国甘粛省の省都。中国内陸部にある、イスラム系の人が多い土地だ。蘭州ラーメンは、手延べ麺に牛肉・牛骨のスープ、具は牛肉や大根、葉にんにく、パクチー(香菜)などが入る。
ハラル(ハラール)とは、イスラムで「許されている」の意味(MHC株式会社 公式サイトより)。豚肉は禁じられている(ノンハラル=ハラム)。それ以外の牛肉などの肉も、一般的な屠畜(食肉用の家畜を殺す)のやり方ではなく、イスラム式で屠畜した肉のみが食べることを許される。また、アルコールで酩酊することは許されていない(ノンハラル=ハラム)。筆者は一年間、ハラル食の情報発信の業務に関わっていたことがある。日本は、ハラル対応の飲食店や宿泊施設が、まだまだ少ない。
JR西川口駅西口に出てまっすぐ歩き、環状線通り(埼玉県道110号川口蕨線)にぶち当たる。そこを左に折れてまっすぐ歩く。住宅街の中ほどに「ザムザムの泉」はある。環状線通り(埼玉県道110号川口蕨線)を歩いてきた人は、スーパーマーケットの「ザ・プライス」が目印だ。ザ・プライスの最も高くそびえている看板のところを右手に見て、信号があるところの道を左に曲がる。駅からは徒歩10分くらいだろうか。
火曜から日曜までは昼の時間帯も営業している(12-15時)。夜は17時から(金曜は夜のみ)ということで、17時過ぎに行ったところ、すでに先客がいた。
席はカウンターのみ。飲食店サイトには「7席」とあるが、6人座ると結構いっぱいである。
店の入り口の立て看板にはたくさんメニューがあるが、店内メニューは蘭州牛肉麺(蘭州ラーメン)の1種類(980円)。それに、牛肉のチャーシューと、ゆで卵のトッピングをのせたセット(1,250円)がある。麺の太さは細いものから幅広まで、次の6段階(6種類)から選ぶことができる。
- 大寛(ダイクワン)平麺、最も太い、2−3センチ
- 薄寛(パオクワン)大寛の半分くらいの太さ
- 韮葉(ジュイェ)韮(ニラ)の葉っぱくらいの太さ
- 麦れん(チアオマイレン)うどんくらい
- (アーシー)最も細いのの2倍くらい
- 細的(シーデ)最も細い
(注:日本語の漢字に、相当するものがないものもあったため、空白や文字違いをご寛容いただければ幸いです)
普通のラーメンと比べると値段が高めに感じるが、手延べの麺であることや、なかなか手に入りづらいハラル対応の国産牛肉を使っていることを考えると、納得の値段だ。
カウンター正面の銀色の台で麺のドウ(小麦粉と水を練ったもの)を手で伸ばしている。しばらくドウをねかせたあと、両手を広げて空中でのばしていく。客の注文に応じて麺の太さを変える。東京のJR日暮里(にっぽり)駅(山手線・京浜東北線)の南口に馬賊(ばぞく)という店があり、そこのドウの伸ばし方に似ている。
麺を茹でたら、牛肉や牛骨からとったダシのスープを入れて提供される。ザムザム特製のラー油と黒酢がテーブルに用意されており、お好みで味をつけられる。
一番太い麺を頼んでみた。手打ちの麺は、もちもちしていて、うどんに近いような感じ。スープは、ベトナムの牛肉のフォー(米麺)を彷彿させる。
左隣に座った人は、スープまできっちり飲み干していた。右側の人は、どうやら、遠方の県から、わざわざこの店をめがけてやって来たらしい。店の外には、中国の人が列をなして並んでおり、店主と中国語で会話を交わしていた。
ここは食べ残しが少ない。店の滞在時間中に見た限りでは、扱うのは麺とスープだけなので、厨房で発生するロスも少ないようだ。
従業員のトウさんに、食べ残しについて取材したところ、客の99%は麺を食べきるそうで、麺を少し残すのは一日に1〜2名しかいないそうだ。さらに、客の50%以上は、スープもきれいに飲みきってしまうとのこと(2017年12月の一日の平均来店者数は約50名)。完食した、空の器の写真をツイッターに載せている人もいる。
なぜ「ザムザムの泉」は食べ残しが少ないのだろうか。考えられる理由を5つにまとめてみた。
1、注文を受けてから作る
17時に開店した時点で仕込みが終わっているのではなく、17時から麺作りが始まる。日本の感覚だと開店前に仕込みを済ませておくのでは・・とも思ったが、たまたまこの日がそうだったのかもしれない。麺のドウまでは作っておき、客の注文を受けてから、5段階のうちの希望する太さに伸ばして、すぐ茹でる。需要と供給がマッチしている。
2、客の目の前で調理風景を見させる
店は限られたスペースなので、厨房は、客が座るカウンターのすぐ目の前である。そこで、麺をペッタン・・と音を立てて伸ばしていく様子や、スープの味を見ながら調整する様子も見える。作ってくれている人との距離が近い。出来上がるまでに待たされるので、客のお腹がすくのもあるし、期待感が高まる。作ってくれた人の顔が見える。
3、適度なスペースと客数に抑える
いたずらに広いスペースではなく、マネジメントしやすい、適度な広さと客数に抑えている。というより、一言でいうと、小さな店である。
4、客は「食べるため」だけに来る
平成27年度の農林水産省の調査でもわかっていることだが、宴会や披露宴では食べ残しの割合が2桁(%)と多い。それは、宴会や披露宴の目的が「食べるため」だけではないからではないか。しゃべるため、交流するため、祝うため、慰労するため、など。
参考記事:飲食店でバイトする学生はどんな食べ物をどれくらい捨てているのか
この店は、評判を聞いて、わざわざ来る人が多く、客は、基本的に食べるためだけに来る。筆者が店を出たときに並んでいた家族連れの父親は、「なんでここなの?」と、子どもに店を選んだ理由を聞かれて「予想以上に美味しい味だ(と聞いた)から」と答えていた。
もちろん、評判のラーメン屋さんなら、この店と同じことは言えるかもしれない。
5、客とのマンツーマンのコミュニケーションを大切にしている
2017年8月に開店してから日が浅いこともあるが、この店では、味に改良を重ね続けている。食材を追加したり、牛肉の産地を他国から日本のものに変えたり、など。そして、その過程を公式ツイッターアカウントでも公開している。客側としては、店の成長を見守るような感じだ。
「ザムザムの泉」で投稿してくれた人のツイッターには、「いいね」やRT(リツイート)、引用RT(リツイート)をして、対話をする。その様子を、店に来る前から客は目にしている。開店当初は不慣れで客を待たせることもあったようだが、そんな客にも無料で卵などのトッピングをサービスするなど、良心的な対応をしている。
筆者が訪問した時には男性店員が3名おり、その中で、一番背の高い男性が、日本語で、にこやかに対応してくれた。中国に駐在経験のある人にとっては懐かしい味らしく、「現地のものより美味しい」と評価されている。
以上、主な点を5つまとめてみた。もちろん、「飲み干したくなるほどのスープ」と「もちもちした麺」という「美味しさ」がベースにある。
5点の中でも、「お客とのマンツーマンのコミュニケーション」は、とても大切な点だと考える。自分たちが提供する味に対して、真摯に、謙虚に考え、改善を重ねており、店に来てくれた方やツイートをしてくれた人に対して感謝の気持ちを忘れない。
広くて客数の多い飲食店では、ともすれば、残して捨てることも無感情なルーチンワークになってしまうこともあるかもしれないが、料理を作る人と食べる人の関係性が近くて互いによく見えるこの店は、食品ロスを減らすための理想形ではないかと感じた。
(店名の「ザムザムの泉」は、サウジアラビアの聖地メッカにある泉を指す)
Halal Lanzhou cuisine; Lanzhou Ramen etc.営業時間:火-日曜 12:00-15:00 17:00-20:30、金曜17:00より。月曜は定休日(祝日なら翌日)。048-299-4628