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【宝塚市】生涯の友となる一冊に八百屋で出合うかも? 本と人をつなぐ新しい試みがはじまりました

ぶらっと地域情報発信ライター(宝塚市)
つむぐ舎にて

つくり手の思いと叡智(えいち)がつまった書物は、こころを耕す喜びと胸躍る楽しみを与えてくれるもの。けれど、SNSや電子書籍等の普及で、とくに紙の本を読む機会が減ってきています。今回は、そんな状況を憂う本屋の新たな試みをご紹介します。

うつわの店で本に出合う
うつわの店で本に出合う

心を守る、健全な知性を育くんでもらいたい

小学校の授業でタブレット端末が取り入れられるなど、現代社会とデジタルは切りはなせないものになっています。大量の情報にさらされ、常に誰とでも繋がれるデジタルの世界は、便利である反面、ときに暮らしの余白が削られて、自分を見失うような感覚に襲われる人もいるのではないでしょうか。

外の世界を遮断して、言葉を辿りながら本の世界に入り込むことは、「わたし」を回復する時間になる、とYUKTA(ユクタ)の店主・森田さんは言います。

YUKTAの店舗
YUKTAの店舗

YUKTAさんは、阪急山本駅から徒歩5分ほどのキャンドルと本のお店。自然の美を活かした自作のキャンドルと、店主厳選の滋味あふれる書籍を販売しています。

「言葉の世界に浸り、書かれた世界を読み解く力や集中力を養いつつ、そこで得た知識と希望は、ときに厳しい試練にさらされる未来において、自分自身を守る鎧(よろい)になってくれると思うんです」と森田さん。

静謐な空間をつくるキャンドルで読書がさらに楽しく
静謐な空間をつくるキャンドルで読書がさらに楽しく

本と人との距離を近づけたい

残念ながら、ここ十数年で市町村の書店の数は激減しています。また、鮮やかな映像など刺激の強い娯楽に慣れた人には、文字を追って想像の翼を広げるという能動的な行動が求められる「読書」は敬遠されがち。

離れてしまった本と人との距離を近づけたい。そんな思いから森田さんは、山本界隈のお店に書籍を置いてもらうことで、本との出合いの場を増やせるのではと考えました。

2024年4月現在、うつわの店「つむぐ舎」さん、めぐる八百屋「オガクロ」さん、雑貨とコーヒーのお店「The WorktuRe」さんの3店舗で、森田さんセレクトの「めぶく本棚」が設置されています。

図書館とは違う、生活の延長にある開かれた空間のさまざまなお店に、未知なるものにふれて、新しい世界を深める場をつくりたい。そして書物によってお客さまの好奇心が芽吹いてくれたら、との思いが込められています。

写真提供:The WorktuRe
写真提供:The WorktuRe

1人1冊の貸し出しもOK

興味を持ってもらうべく心掛けたのは、各店舗の特徴を活かすセレクション。たとえばオガクロさんでは、いちごの一生を描いた絵本が、本物のいちごの隣に置かれました。思わず手にとりたくなるナイスアイデアですね。

オガクロ
オガクロ

つむぐ舎さんに置かれた本は、染色の大家・芹沢銈介の文様やハンドメイド絵本で知られるインドのタラ・ブックスなど、民藝やうつわに興味がある方なら、きっと読みたくなるものばかり。

カフェが併設されているThe WorktuReさんでは、静かにコーヒーを飲みながら、宇宙や自然を味わい、思索の逍遥(しょうよう)ができる本が揃っています。

たましいのお散歩を楽しむ
たましいのお散歩を楽しむ

めぶく本棚の書籍は、ふつうの本屋さんと同じように、気に入ればその場で購入ができます。また、希望者には1人1冊・1ヵ月間の貸し出しもしてくれるそう。その後、返却時に購入も可能です。もちろんその場で読むだけ、借りるだけもOK。形にとらわれず、本との自由なかかわりを楽しんでもらいたいとのこと。蔵書は季節ごとに変わり、現在は春をテーマにしたセレクションが展開中。気になる本があったら、お早目に訪ねてみてください。

生涯の友となる一冊を

取材にあたって、森田さんセレクトの本を手に取りました。小説、詩、アートや自然科学にドキュメントとその内容は多岐にわたり、暮らしの美を見つめる感性が光ります。

さらに、つくづくと感じるのは日本語の美しさです。繊細で多彩な言葉は四季に恵まれた日本の風土と長い歴史を写す鏡。書物の世界に飛び込むことは、自らを取り巻く環境の豊かさに触れることなのだと気付かされます。

電子書籍でも小説は読めますが、目や肩への負担が大きいせいか、うわっつらだけを読み飛ばしてしまいがち。まして写真や絵が多いものは、紙の本でこそ、その魅力をすみずみまで十分に味わえるのは間違いありません。

美しい装丁にうっとり
美しい装丁にうっとり

読書は個人的な体験で、その感覚を伝えることは難しいですが、じっくりと読み込みつつ自分と向き合い、思索を深めることでしか得られない思いがあります。さらに実体験を経てその思いが揺り動かされることで、知性が醸成されていくのです。

自身の内側に構築された知性は、生きるための健やかな力となってくれるはず。だからこそ、読む素晴らしさをもっと知ってほしいと森田さんは言います。

そして、さまざまな本にふれることで、生涯の友となる一冊を見つけてくれたら。

街の中に本の居場所をつくり続ける、森田さんの願いです。

森田セレクションは、上記の店舗とYUKTAさんで見られますが、足を運ぶのが難しい方は書籍紹介専用のインスタグラム・armadillo booksをチェック。大型書店では埋もれがちな、素敵な本が紹介されています。

ふりまわされなければ、SNSは便利なツール。上手に使って、ときめく本を探してみてはいかがですか。

店舗情報

YUKTA shamanic candle
■ 場所:〒665-0881 宝塚市山本東2-3-23
■ 営業日・営業時間:不定期(Instagramをご確認ください。)
公式 Instagram
公式ホームページ
armadillo books
(いずれも電話での問い合わせはお控えください。)

※ 「めぶく本棚」設置店舗の営業日・時間については各店舗にお問い合わせください。
The WorktuRe
めぐる八百屋 オガクロ
つむぐ舎

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地域情報発信ライター(宝塚市)

カフェ、庭園、美術館、ときどき神社。新しい出会いを求めて、カメラ片手に足の向くまま、気の向くまま。歴史のあるまち、宝塚の「いま」をお届けします。

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