レノファ山口:総力戦で相模原制し3連勝。島屋、背番号に並ぶ8ゴール目
レノファ山口FCが底力を見せつけた。5月6日の第10節・SC相模原戦。FW岸田和人を出場停止で欠いた中、小塚和季と島屋八徳が連動してゴールを奪い、苦しい中でも勝ち点3を手にした。「今日勝ったのはでかい。(連戦を)勝って締めくくれるよう、次も総力戦と思って全員でいい準備をして頑張りたい」。自身通算8ゴール目を奪った背番号8・島屋八徳が笑顔をいっそう輝かせ、そう力を込めた。
ホーム開幕戦に次ぐ5212人が集まった維新百年記念公園陸上競技場。ゲームが動いたのは、背景がオレンジに染まったゴールへと突き進む後半だった。
上野展裕監督は後半で決めたゲームを「向こう(=山口サポーター席)に向かっていくほうがエネルギーになるんだと思います」と振り返った。その言葉はサポーターに向けたリップサービスではなく、2得点の島屋自身も「ゴールデンウィークの中で家族連れやサポーターがたくさん来てくれていたので、そういう中で勝ち試合を見せられたのは嬉しかった。応援の歓声がしっかり選手の耳にも届いていた」と話した。ピッチを取り囲む5千人のパワーが確かに選手をバックアップ。山口カラーに向けて振り抜いたシュートで、2度もそのオレンジがどよめいた。
流れを変えたハーフタイム
もっとも前半は連戦疲れも暑さも重なり、思うようなゲーム展開にはならなかった。相模原はチーム内トップのゴール数を誇る井上平が欠場したとはいえ、高原直泰、曽我部慶太らタレントが揃う。カウンターも効き、個の打開力も高い。その攻撃力を真に受けるような形になり山口はリズムを作り出せなかった。それでも庄司悦大が競り合いを制したり、GK一森純が好セーブでピンチを救うなど善戦。押し込まれながらも前半を無失点で折り返した。
流れを変えたのはインターバルの15分。「監督からもっと前のほうでサッカーをしようと。その指示通りにできたのは良かった」(福満隆貴)。ハーフタイムに上野監督は後ろでのボール回しではなくより高い位置でプレーするよう指示。サポーターひしめくオレンジエリアを正面に見る後半、縦パスが効果的に入るようになり立ち上がりから相手陣内に入り込むことに成功する。そして後半6分、小塚のスルーパスに島屋が抜け出してGKと1対1となると、「小塚からいいボール来た。1点目は無心で振り抜いた」(島屋)と躊躇うことなくシュートを放ち、山口が先制する。
なおも後半13分には小塚のドリブルからチャンスを作り、こぼれ球を福満隆貴が狙うなど山口が流れを呼び込む。そのリズムは守備にも波及。1点を追う相模原が前半以上に前掛かりになって攻めて来るも、同16分のフリーキックは一森がヒスティングで枠外にはじき出し、ミドルレンジからのシュートにもブロックを効かせてコースを限定した。流れを渡さないまま同40分、再び小塚のスルーパスに島屋が抜け出すと、今度は「ちょっと時間があったので、冷静にGKを見ながらコースを狙った」と落ち着いてGKの脇へと流し決勝点。山口は上位決戦の難しいゲームを制して3連勝を飾り、首位をキープした。
空港の喝
岸田を欠いた山口。福満と島屋を前線に置くシステムが機能したが、前日の練習でもいくつものパターンを試すなど、すんなりとそれが決まったわけではなかった。だが、福満は「カズくん(岸田)がいないところはカズくんとは違うプレースタイルで自分の持ち味を出せればいいなと。カズくんは得点感覚に優れるが、僕はちょっと引いてボールを受けてテンポを作ることを意識した」と話し、代役に徹するのではなく、自分にやれるプレーでの貢献を誓ってゲームに入った。福満と島屋はJFLヴェルスパ大分でともにプレーし、互いを良く知る関係だったことも前向きに作用。島屋が「視野が広いし、ボール持ったらスルーパスは狙ってくれている」と称えた小塚や、指揮官が「高原に自由な動きをさせないようにしてくれていた」と評した庄司もゲームを的確にコントロールした。中2日の準備期間がない中でチームはひとつにまとまっていた。
とはいえ岸田が喫したようなラフプレーでの出場停止はなるべく避けたいところ。前節・YS横浜戦の直後、上野監督は「空港の職員さんにここですみませんと言って、空港で説教しました」と喝を入れた。「本人は反省しているしチームはピリっとしたと思う」。イレブンを引き締め、緊張感を走らせた。疲れから集中が切れてくると後追いのチャージも増えてくる。不必要なファールはチームのバランスを崩すこともあるほか、累積警告はボディーブローのように効き後半戦に影を落とす危険もはらむ。集中力を保ちタイトな日程でのゲームを戦い抜けるか、夏前の連戦は先発平均年齢23歳のチームにとって成長のためステップになっていることだろう。
レノファ山口FC、首位快走中。上野監督は「一番にたくさんの山口のみなさんが応援してくださるからだと思う」と好調のバックグラウンドを分析した上で、「みんなでハードワークして攻撃も守備もしているが、もっともっと欲張っていきたい。攻撃の精度も組み立ても、もっともっと良くなると思う」と話した。飽くなき向上心はいまだ燃えさかる。
未来に繋がる「もっと」精神
ところで蛇足となるが、私は現在、J2・ギラヴァンツ北九州の試合をメーンに追いつつ、地域としての山口と縁深いこともあってレノファ山口の試合も時に取材者、時に観客として観戦するべくスタジアムに足を運んでいる。レノファ山口の試合を最初に観たのは2009年。そこからのサポーターの増え方というのは目を見張るものがある。相模原戦の前半はピッチサイドで写真を撮っていたが、ファインダーの向こうに見えるサポーターの厚さ(熱さ)は確かに選手にエネルギーを与えるだろうなと感じるものだった。
山口市の人口は約19万人。1市4町合併前の旧山口市域に限ってみれば15万人前後で、大都市と言うほどの人口規模ではない。それでも入場者数は5千人が限界ではないと思う。監督はサッカーの内容について「もっともっと欲張っていきたい」と語った。そうならばピッチの周りも「もっともっと」欲張ってピッチ上の貪欲さに応えたい。地域のシンボルクラブは縁ある人々のこころを束ね、シビックプライドも養っていく。欲張っていこう。山口のポテンシャルはまだまだ開花の瞬間を待っている。