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【スピードスケート】母はオリンピアン 森野太陽が目指す場所

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
スピードスケート男子長距離陣のホープ・森野太陽(撮影:矢内由美子)

 このところ勢いづいているスピードスケート男子長距離界に、将来が楽しみなホープがまた現れた。5000mを得意とする森野太陽(日本体育大学1年)だ。

 山形中央高3年だった20年2月には、世界ジュニア選手権男子チームパシュートで日本の銀メダル獲得に貢献。今季は日本スケート連盟のジュニア強化Aに指定され、10月の全日本距離別選手権では10000m5位になった。

 12月28日に北海道・帯広で開幕する全日本スピードスケート選手権では5000mなどに出場する予定だ。

「今シーズンは2月の世界ジュニア選手権(八戸)で個人種目のメダルを獲ることと、チームパシュートで金メダルを獲ることを目指している」と話す森野にとって、同大会の選手選考も兼ねる全日本選手権は重要な大会。飛躍を期す新星を紹介する。

■母はリレハンメル五輪、長野五輪出場の楠瀬志保さん

 北海道別海町出身。母は、94年リレハンメル五輪と98年長野五輪の女子500m、1000m、1500mに出場し、リレハンメル五輪1000m6位入賞の実績を持つ楠瀬(旧姓)志保さんだ。

 母の教えで3歳からスケートを始めた森野は、中学生までは地元で育ち、夏はサッカー部、冬はスケート部で活動していた。スケートで長距離を選んだのは小学校の校内マラソン大会で飛びぬけて速かったから。別海中央中に進むと、1年生で早くも全国大会に出場するなど、順調な成長を見せていった。

 一方、サッカー部ではセンターバックやボランチで活躍し、地域トレセンにも選抜されるほどだった。高校進学にあたって、スケートを選ぶかサッカーを選ぶか迷ったという森野だが、中3の11月にあった帯広の森競技会に出た時に、山形中央高校の椿央監督(現在は日本スケート連盟アカデミーヘッドコーチ)に誘われて山形へのスケート留学を決意した。

日体大のワンピースを着てレースに出る森野太陽
日体大のワンピースを着てレースに出る森野太陽写真:松尾/アフロスポーツ

■あこがれは加藤条治

 山形中央高校に進んだ理由には、同校OBである加藤条治へのあこがれもあった。森野が最初に五輪を意識したのは10年バンクーバー五輪。男子500mで銅メダルを獲った加藤は森野にとって「スーパースター」だった。

 両親の理解もあって山形に越境入学した森野は、毎日こつこつと練習を積み重ね、少しずつ力を蓄えていった。躍進したのは高校最終学年の昨シーズン。ジュニアW杯に初めて参戦し、第2戦のマススタートで4位入賞を果たすと、世界ジュニア選手権(ポーランド)ではチームパシュートで2位となった。

 こうして20年4月には母の母校でもある日体大に進学した。現在、森野を指導する青柳徹監督は、日体大時代の母・志保さんの1学年先輩で、リレハンメル五輪と長野五輪にともに日本代表として出場している旧知の間柄だ。

 森野の同学年には蟻戸一永(専修大)をはじめ、粒ぞろいのライバルがひしめいており、森野はとりわけ目立つ存在というわけではない。しかし、青柳監督は「森野はどんな練習もしっかりとこなし、積み重ねていける選手。こういう選手が大成していくべきだ」と大きな期待を寄せている。

■「オリンピックは小さい頃からの夢」

 森野の実家には母のトロフィーやメダルが飾られている。母が五輪選手であることは小学校に入る前から自然と知っていたという。五輪が身近にある環境で育った森野はこのように語る。

「オリンピックは小さい頃からの夢だった。でも、自分はまだ足りないものがある。トップの人と比べるとできていないことを大学4年間でこつこつ積み上げていきたい。思い描いているのは、北京冬季五輪の次(26年ミラノ/コルティナ・ダンペッツォ大会)から五輪に出ていけるようになることです」

 札幌が開催を目指している30年冬季五輪も当然視野に入っている。目標がかなえば母子での五輪出場だ。

「上にいくには体幹とお尻周りをもう少し鍛えたいと思っています。それと、スプリント能力が課題。そこが早くなれば1500mでも通用する手ごたえがある」

 森野の長所は最後まであきらめない、粘り強い滑りだ。

「中学3年まで指導してくれていた母にはあまり注意されたことはないのですが、レースで一生懸命にやっていないとすごく怒られました。今、苦しい時にも手を抜かずに滑りきることができるのは、子供のころからそのように教わってきたからだと思います」

 楽しみなホープの成長に期待したい。

楠瀬志保さんの長野五輪シーズンの写真。当時は佐田建設スケート部所属
楠瀬志保さんの長野五輪シーズンの写真。当時は佐田建設スケート部所属写真:築田純/アフロスポーツ

◆森野太陽(もりの・たいよう) 2001年(平成13年)8月15日、北海道別海町生まれ。3歳でスケートを始める。別海中央中3年の時に出た全中の男子5000m2位、同3000m3位と頭角を現し、バンクーバー五輪男子500m銅メダルの加藤条治ら多くの五輪選手を輩出している名門・山形中央高校にスケート留学した。日体大1年の今季は全日本距離別選手権男子10000mを14分5秒88で滑り、5位と健闘。身長176センチ、体重72キロ。家族は父・俊昭さん、母・志保さん、妹・こころさん(高2)、弟・元気さん(中3)。靴はサンエス。ブレードはバイキングのアイコンを使用。

「好きなタレントはIZ*ONE」と話す森野太陽(撮影:矢内由美子)
「好きなタレントはIZ*ONE」と話す森野太陽(撮影:矢内由美子)

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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