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「夫のダイエット」で「妻が痩せる」のは本当か

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 人間は誘惑に弱い。禁煙も大変だし、ダイエットにも苦労する。だが、禁煙もダイエットも一緒にチャレンジする仲間や応援してくれる家族、パートナーがいると続けることができそうだ。流行のパーソナル・トレーニング・サービスやエステなども、誘惑に弱い自分を「監視」してくれるトレーナーやエステティシャンがいるから心強かったりもする。

パートナーの行動が影響する

 米国で喫煙者と禁煙者の配偶者を調べた研究(※1)によれば、喫煙者と暮らしていれば禁煙は難しく、禁煙経験者が配偶者の場合、禁煙の可能性が高いことがわかっている。また、英国の同居している50歳以上のカップルを調べた研究(※2)によれば、相手が健康的な行動を起こした場合、そのパートナーも同じような健康的な行動を起こす可能性が高いようだ。

 夫がダイエットに挑戦している際、妻も減量チャレンジを始める、ということはありがちだ。一緒に散歩やジョギングなどをしている夫婦も多いだろう。

 最近、夫や妻がダイエットや減量に挑めば、パートナーの体重が何もしないのに減る、という研究が出た。これは米国のコネチカット大学の研究者によるもので、半年以上かけて130組(脱落2組)のカップルを追跡調査した研究だ(※3)。

 130組(25〜70歳の異性愛・同性愛の同居カップル2名、婚姻関係93.1%)を、相手の体重を監視する群(63組、Weight Watcheres、WW群、2組脱落)と相手に関知しない群(65組、Self-guided、SG群、コントロール群)の2群にランダムに振り分けた。

 2群とも一方のパートナーに減量チャレンジしてもらう。そして、スタート時、3ヶ月後、6ヶ月後に全員の体重を調べた。BMI値は減量チャレンジするパートナーは27〜40、カップルの減量しないほうは25以上とした。

 減量している相手を監視するWW群は期間中、食事や運動、体重管理のカウンセリングによる介入治療を受け、相手と連絡したりネットでやり取りすることは自由で、パートナーが治療プログラムを履行しているか「監視」する。

 相手の減量に関知しないSG群は、同じような減量のノウハウが書かれた資料を受け取り介入治療を受けるが、パートナーとは何の情報交換もしない。

いい「波及効果」を与え合う

 その結果、両群で減量にチャレンジした人たちは、体重を減らすことができた。これは当然だろう。

 だが、減量をしていなかったパートナーの体重を比べたところ、相手の減量の様子を監視するだけで自分は何もしない人たちの約1/3(32%)が、半年後にスタート時よりも3%体重を減らしていたことがわかったという。

 また、これは性別に関係なかった。さらに、相手の減量チャレンジを関知せず、監視していなかった群のパートナーの体重も減っていた。

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ダイエットに参加しなかったほうのパートナー(男女)の体重の減り方。スタート時の体重は、相手のダイエットを監視したパートナーの平均100.2kg、相手のダイエットに関知しなかったパートナーの平均93.4kgと重量級。開始から3ヶ月後、6ヶ月後の減量を比べた。ダイエット監視パートナー全体の減量した平均の割合は-2.09%だったが、そのうち32%が-3%だったという。Via:Amy A. Gorin, et al., "Randomized Controlled Trial Examining the Ripple Effect of a Nationally Available Weight Management Program on Untreated Spouses." Obesity, 2018の数値から筆者がグラフ化

 この研究をした研究者は、パートナーがダイエットに挑戦することで、もう一人にもその「波及効果(Ripple Effect)」が及び、体重が減るのではないかという。自分は特に減量を意識しなくても、パートナーの健康的な食事や運動などが影響していることになる。一緒に同じような食事を摂ることもあるだろうし、行動パターンが似通ってくることもありそうだ。

 これを逆に考えると、パートナーが不健康な生活をしていれば、配偶者や同居人もその影響を受けるだろう。似たもの夫婦などという言葉もある。せっかくのパートナーだ。お互いにより良い波及効果を及ぼし合いたいものだ。

※1:Laura K. Cobb, et al., "The Association of Spousal Smoking Status With the Ability to Quit Smoking: The Atherosclerosis Risk in Communities Study." American Journal of Epidemiology, Vol.179, Issue10, 1182-1187, 2014

※2:Sarah E. Jackson, et al., "The Influence of Partner’s Behavior on Health Behavior Change- The English Longitudinal Study of Ageing." JAMA International Medicine, Vol.175(3), 385-392, 2015

※3:Amy A. Gorin, et al., "Randomized Controlled Trial Examining the Ripple Effect of a Nationally Available Weight Management Program on Untreated Spouses." Obesity, DOI:10.1002/oby.22098, 2018

2018/02/02:11:28:「さらに、相手の減量チャレンジを関知せず、監視していなかった群のパートナーの体重も減っていた。」のパラグラフを追加。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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