商店街の不振と築地市場問題
■日本でも有数の汚染地への移転計画
商店街の衰退が問題になっているが、その原因の一つに卸売市場の「変化」があることを教えてもらった。
東京・杉並区で開かれた勉強会「築地移転問題・講演会」に参加してきた。築地市場の正式な名称は「東京都中央卸売市場築地市場」で、東京の台所としてだけでなく東京を代表する観光名所としてもたしかな地位を築いてる。その築地市場を豊洲に移転するという計画を東京都が発表したのは2001年のことだった。
そこから、豊洲への移転に反対する動きもはじまる。豊洲移転に反対があるのは、移転予定地が東京ガスの工場跡地であり、日本でも有数の汚染地だからである。卸売市場は魚介類や青果など生ものの流通の要であり、そこが日本有数の汚染地というのは、どう考えても、とんでもないことである。反対の声があがるのは当然のことだ。
勉強会の中心も、豊洲への移転が問題だらけだという話だった。その話は別の機会に書くとして、そこで興味を惹かれたのは商店街の衰退に市場の変化が関係しているという話を今回は書く。
■市場の機能が大手に都合よく変えられつつある
卸売市場での取引は、もともと「競り(せり)」が中心だった。1匹の魚に多くの人が値をつけ、いちばん高い値をつけた人が買える、というシステムである。
テレビなどで築地市場といえば、この競りの様子が紹介されるので、築地市場での取引は競りが中心だとおもっている人は多いにちがいない。わたしも、その一人だった。
ところが、現在の築地市場における競りの割合は全取引のうち2割もないのだそうだ。8割以上の取引が「相対」というかたちで行われているという。つまり、1対1の取引である。
かつては競りで「あまったもの」が相対取引で引き取られていた。しかしいまでは、競りにかけられる前のものまで相対で取引されているため、相対で「あまったもの」が競りで取引されているという、もともとの市場機能からすれば本末転倒の状況になってしまっているそうだ。
この相対取引が誰にとって有利かといえば、スーパーマーケットなどの量販店を中心とする大手である。競りでは欲しいだけの量が買えない場合もありうるが、相対なら交渉で確実に手にいれることができる。大量に買ってもらえるのだから、売るほうも確実に売りたいので傾いてしまうことになる。こうして、「大手のための市場」の色合いが強まっていったのだ。
どんどん築地でも相対取引が増えていったが、自然発生的に増えたわけではなく、競りの原則がどんどん規制緩和されていった結果である。つまり、量販店など大手の都合のいいように規制緩和されたからこそ、市場での相対取引が増えていった。
大手に品物が流れるシステムということは、中小・零細、かんたんに言えば「町の魚屋さんや八百屋さん」に流れてくる品物は量が減ることになる。相対取引の「あまりもの」が競りにまわされ、それが町の魚屋さんや八百屋さんにまわってくるわけだ。量が少ないのだから、当然、値段も高くなる。
高くて数の少ない品物を扱わなければならない町の魚屋さんや八百屋さんが、スーパーマーケットと競争するのは生やさしいことではない。だから閉店するところが増え、結果として商店街も廃れていってしまう、ということになる。
卸売市場でスーパーマーケットなど大手に都合のいいような規制緩和がすすめられて市場の機能が変わってきた結果、商店街も活気を失うということにつながっていたのだ。それで消費者が豊かになるなら文句もないのだろうが、画一的な品物しか手にはいらず、画一的な街並みを押しつけられる現状は、けっして豊かとはいえない。
築地市場の豊洲への移転には、この大手に有利な仕組みに拍車がかかるようになっている。商店街は、ますます衰退していく仕組みになっていくのだ。消費者が失うものも大きくなる可能性がある。