アメリカが地上発射型トマホーク巡航ミサイルを試射、INF条約失効後初の実射試験
8月2日のINF条約失効を受けて、8月18日にカリフォルニア州サンニコラス島でアメリカ軍が地上発射型巡航ミサイルを試射したことを翌日にアメリカ国防総省が発表しました。射程500km超の地上発射型巡航ミサイルとだけ発表されていますが、ミサイルの大きさと形状を見る限り海軍のトマホーク巡航ミサイルを地上発射したものです。現行型トマホークblock4の最大射程は公式数値で1600km、推定では3000kmに達します。
試験設備はトレーラーの荷台に垂直発射筒を立てているだけの簡易なもので、正規配備用の発射車両ではありません。ただし垂直発射しているという点から、過去にINF条約の締結前に配備されていた地上発射型トマホーク巡航ミサイル「BGM-109Gグリフォン」とは異なる発射形式になる可能性があります。以前アメリカ海軍の提出していた特許 US8266999B1- Mobile vertical missile launcher に近いものになるかもしれません。
US8266999B1 - Mobile vertical missile launcher
なお国防総省報道官は「従来の構成の地上発射型巡航ミサイル」としており、従来の構成とは通常弾頭であることを示唆しています。核弾頭を搭載していたBGM-109Gとは役割が違うものとなります。
ただしINF条約が核弾頭の制限ではなく運搬手段のミサイルの制限を行っていたのは弾頭に何が積まれているか外からでは判断できない為であり、INF条約が失効してアメリカが新たに作る中距離ミサイルに核弾頭を積んでいないと説明しても、相手国が信用せず核弾頭が積まれているものと想定して核軍拡競争が始まってしまう可能性があります。とはいえ核攻撃型トマホークは既に全廃済みとなっています。
射程500~5500kmの地上発射型ミサイルを禁止する米露のINF条約が失効するに至った理由は、ロシアがINF条約に違反する地上発射型巡航ミサイル「SSC-8 (9M729)」を発射し配備したことが原因です。アメリカによるロシアのINF条約違反に対する告発はオバマ政権の時に行われており、ロシアは違反を認めずSSC-8を廃棄しなかったため、トランプ政権でINF条約の離脱が決まりました。ロシアが違反しているのにアメリカが守り続けることは意味が無いとしたのです。
新しいトマホーク地上発射型はロシアのSSC-8と同等の性能であるため、これを受けてもロシアは大きな反応を示さないかもしれません。しかしアメリカが今年11月に予定している地上発射型中距離弾道ミサイルの試射については、対抗上ロシアが同等のものを新開発する決断を行い、本格的な軍拡競争が始まってしまう可能性があります。