学校の部活動改革 ガイドラインは守られているか? 「長時間労働なんて関係ない」という感覚
■教員は被害者か?
教員が集うある研修会において、年配の教員が参加者にこう語りかけた――「教員の長時間労働が問題になっていますが、はたして教員はただの被害者でしょうか? 子どものためと言いつつ、自分自身がそれを楽しんでいたり、子どもではなく親を喜ばせるためだったり、そういうふうにして、みずから仕事を増やしているのではないでしょうか?」
会場には緊張が走った。そもそも自分たちが、長時間労働にみずから荷担しているのではないか。「子どものため」というのは、その言い訳に過ぎないのではないか。個々の参加者に反省を促す、強烈なメッセージであった。
■「長時間労働なんて関係ない」
教員の長時間労働というのは、「奴隷のように働かされている」と単純に理解してはならない。もちろんそのような側面もあるけれども、むしろその長時間の労働に誇りをもって従事している側面も強い。
中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」(2017年6月~2019年1月)において、それを象徴する語りがあった。審議のなかで、委員の一人である公立中学校長が、部活動の改革が進まない理由を次のように指摘した。
部活動こそが自分の職業アイデンティティの核になっている教員は、たくさんいる。そうした教員にとっては、部活動に注力することが自分の使命である。そのような立場からすると、長時間にわたる活動の問題性を認識することは、容易ではない。
■部活動は「楽しい」
私は共同研究で2017年度に「中学校教職員の働き方に関する意識調査」と題する質問紙調査を、全国規模でおこなった[注]。
教員(主幹教諭、教諭、常勤講師の計3,182名)のなかで、顧問として部活動に関わることを「楽しい」と回答したのは、60.5%にのぼる。
さらにはその「楽しさ」の有無ならびに「ストレス」の強弱との組み合わせを調べてみると、「楽しい」×「ストレス弱」が32.8%、「楽しくない」×「ストレス強」が34.2%と拮抗している。部活動の過熱が問題視されるなかにあって、前者は純粋に部活動指導を楽しんでおり、後者は純粋に部活動指導を苦痛に感じている。
また「楽しい」×「ストレス強」が27.7%と多いことにも注目したい。この群は、しんどいと感じながらも部活動の魅力を享受している教員たちであり、部活動について語ることの難しさをよくあらわしている。
くり返しとなるが、教員は必ずしも「奴隷のように働かされている」わけではない。仮に長時間拘束されようとも、その活動に教育者として何らかの魅力を感じ、主体的に関わっていることが少なくない。
■部活動ガイドラインの軽視
3月に入ってから、昨年策定された部活動ガイドラインの運用状況が、2つの調査をとおして見えてきた。ここからは、部活動改革の難しさが浮かび上がってくる。
一つが、東京新聞が選抜高校野球大会(春の甲子園)の出場校を対象に実施した調査である。
スポーツ庁が策定した運動部活動ガイドライン(2018年3月)では、「1日の活動時間は、長くとも平日では2時間程度、学校の休業日(学期中の週末を含む)は3時間程度」と規定されている。だが調査対象校からの回答では、「規定を完全に順守している学校は一校もなかった」ことが明らかとなった。
自由記述からは「強化が遅れる」「学校により事情が異なる」など指針に後ろ向きな意見が多かったという(3/23、東京新聞)。勝つことが要請される高校野球の強豪校ともなると、もはやスポーツ庁のガイドラインはほとんど効力を発揮していないという現実が見えてくる。
■市区町村では指針未策定が多い
もう一つの調査が、スポーツ庁による「『運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン』のフォローアップ調査」である(3/20、スポーツ庁通知)。
スポーツ庁のガイドラインでは、都道府県、市区町村、学校法人等において、それぞれに部活動の指針を策定するよう求めている。ところが、中学校については19.7%の市区町村(都道府県では0%)で、高校については36.0%の市区町村(都道府県では2.1%)で、策定の目処が立っていない。
一日あたりの活動時間数や、休養日の設定についても、都道府県では整備が進んでいるものの、市区町村の単位にまで降りると、1~3割の自治体で具体的な基準が定められていない(図は省略)。
群馬県の高崎市では、県内で唯一独自路線をとり、市としてのガイドラインは策定していなかったことが、昨年10月に話題になった。従来どおりの運用がつづけられたが、12月に入ってようやくスポーツ庁のガイドラインにおおむね則したものを策定した(10/10、12/6、毎日新聞)。
■魅力を維持しながらの時短部活動へ
部活動改革は、数年前に比べれば、ずいぶんと前進したように見える。だが、学校のなかには、そこに乗り切れていない層も確実にいる。
部活動は、長時間労働なんて関係ないほどに魅力ある活動としての側面をもっている。教育活動全般がそうだ。子どもに時間をかけて向き合えば、子どもの成長となって返ってくる。だからこそ、職員室を舞台にした改革は容易ではないし、だからこそ、教育行政は今後もガイドラインの策定と遵守状況を継続的に確認していくべきである。
部活動を全面的にとりやめるということではない。部活動の魅力を短時間のなかで味わえるような発想で、部活動の未来を模索していく必要がある。
- 注:部活動指導を含む働き方について、中学校教職員の「意識」に主眼を置いたもので、全国計22都道府県の中学校を対象に、2017年11月~12月(一部、2018年1月)にかけて実施し、約4,000名から回答を得た。詳しくは、内田良・上地香杜・加藤一晃・野村駿・太田知彩『調査報告 学校の部活動と働き方改革――教師の意識と実態から考える』(2018年11月、岩波ブックレット)を参照してほしい。