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引退から復帰した声優・櫻井智が8年ぶりのライブ。タイムスリップしたような躍動感で再スタート

斉藤貴志芸能ライター/編集者
8年ぶりのライブを行ったレジェンド声優・櫻井智(撮影/楠山幸英)

アイドル声優の先駆者として一時代を築き、今年、引退宣言から3年ぶりに復帰した櫻井智が、8年ぶりとなるワンマンライブを開催した。『おかえり・ただいまLIVE「またあえたね」』と銘打った新宿ルイードK4でのステージは、パフォーマンスも詰めかけたファンのノリも往年と変わらず、タイムスリップしたかのようだった。

ミニの衣装でキュートな曲も10代の頃のまま

「お休みしていた期間は、ほとんど歌うことはなくて。ライブが決まってから家でひたすら練習して、11月はほぼ毎日カラオケに行ってました。『こんなにキーが高かったっけ?』という曲ばかりで、時が流れた実感はあります(笑)」

 開演前にそう語っていた櫻井智。観客の手拍子に乗り、カラフルな多くの花をあしらった膝丈ミニの衣装でステージに登場して、「また、あえたね」を歌い始める。3人組アイドル、レモンエンジェルで1987年にデビューしたときから歌唱力に定評があったが、久々のライブでも軽く体を揺らしながら安定の歌声を聴かせる。

 会場ではピンクのサイリウムが振られ、「智ちゃーん!」と歓声も飛ぶ中、2曲目はレモンエンジェル時代から歌い続けてきた「GT夏少年」。軽快なファンファーレに「GT!GT!」とコールがかかり、横向きで両手を前に突き出す振りも10代の頃のまま。続く「恋のレシピは大胆不敵」はキュートに歌い、ターンして大胆なノースリーブの背中も見せた。そんな衣装が似合う見た目も、昔と変わらない。

撮影/楠山幸英
撮影/楠山幸英

 MCでは「ただいまー」「おかえりー」と観客とやり取りしたあと、「引退は自分勝手で、たくさんご心配とご迷惑をお掛けしてしまいました。復活宣言を快く受け入れてくださり、感謝申し上げます」と神妙に語ると、「待ってたよ!」と声が掛かった。

 『怪盗セイント・テール』のイメージソング「「恋」みたいな感じ」では“あなたが好き”と客席を指差して歌い、『スーパードール★リカちゃん』の「Destiny」、『マクロス7』の「MY FRIENDS」と、ヒロインを演じたアニメの曲の3連発で沸かせた。

 衣装に関しては開演前、「年齢はさておき、ライブでは昔から膝丈が定番で一番安心します。抵抗は全然ないです(笑)」と語っていた。MCで改めて「ちゃんと見て」と自ら露わな背中を向けつつ、この衣装を着るまでを「孤独な戦いでした(笑)」と話し始める。

 伸びない素材の衣装を体重が落ちていた夏に買い、食欲の秋に1ポンド=約450グラムのジャンボハンバーグを平らげたりしていたら、その後が大変なことに。毎日走っても、ジムで汗をかいても全然痩せず、「2日前にやっと夏の体重に戻しました(笑)」とのことで、背中のファスナーはしっかり閉まっていた。

撮影/楠山幸英
撮影/楠山幸英

懐かしい名曲を歌い上げて胸を震わせる

 ライブ前半を「あなたへのLOVE SONG」をしっとり歌って締めると、白いロングドレスに着替えて再登場。櫻井に数多くの楽曲を提供している神津裕之のキーボード、彼女が17歳の頃から演奏を手掛けてきた大堀薫のベースをバックに、歌ったのは「愛・おぼえていますか」。

 『超時空要塞マクロス』でヒロインのリン・ミンメイを演じた飯島真理の大ヒット曲だが、時を経て、同シリーズの『マクロス7』のヒロイン、ミレーヌ・ジーナス役の櫻井が企画アルバムでカバー。胸に手を当てて歌い、伸びやかなハイトーンを駆使してグッと聴き入らせる。“もうひとりぼっちじゃない”のオチサビは圧巻だった。

 さらに懐かしい名曲が続く。3拍子の旋律が切ない「忘れかけたセレナーデ」。櫻井が看板女優を務めていた朝倉薫演劇団の舞台『ガラス工場にセレナーデ』の劇中歌だった。上演されたのは21年前で「すごく好きな曲でずっと歌いたかった」と言い、温かみがかえって泣けるような歌声で胸を震わせた。

 MCではまた体重ネタとなり、「コロコロしていた」高3の頃、「どうせなら1日でどれだけ太るか実験しよう」と、事務所の目を盗んで食べまくったら、3キロ増えたとの秘話を披露。

 この日のセットリストはアイドルグループ時代、声優アイドル時代、アニメソング、舞台の劇中歌と、彼女の長い足跡より万遍なくチョイスされたが、漏れた曲から会場でリクエストを募ってアカペラで歌うコーナーでは、「17才」、「サファイアの夜」、「第一級恋愛罪」、「東京ローズ’88」と続けた。

撮影/楠山幸英
撮影/楠山幸英

エネルギッシュに高まり「また会おうね」

 生演奏の2人がハケると、ライブは佳境に。「櫻井智といったら、この曲がなければ存在しません」と、またレモンエンジェル時代から歌っていた「たそがれロンリー」で盛り上がる。“危ないロリータ”の歌にPPPH(パン・パ・パン・ヒュー)の手拍子。まさに昔と変わらないノリでヒートアップしていく。

 さらに「Baby,Baby」から「笑っちゃうけどスキ!」と、アイドル声優としてノリにノッていた時代の人気曲をたたみ込む。両手を広げてターンも。沸き立つ会場から「僕らはいつでも智が好き!」のコールが入り、櫻井も「最高です! 何と気持ちいい皆さんの応援!」と高揚していた。

撮影/楠山幸英
撮影/楠山幸英

 いよいよ残り2曲。自ら手掛けたストレートな歌詞の「ひたすら前向きに」は笑顔を浮かべて、明るくもしっとりと歌い上げる。そしてラストはサンバチューンの「太陽をあげたい」。手をヒラヒラさせて、片足を後ろに跳ね上げるお馴染みの振りでロングドレスの裾が翻る。会場の熱気は最高潮に達した。

 アンコールにはミニのワンピースにブーツで登場して、2度目の「笑っちゃうけどスキ!」。より軽快に歌って踊り、会場のファンもジャンプする。お互いに時を重ねてきたが、若々しい櫻井を前に、あの頃に戻ったような感覚になっていた。

 最後はフロアからスモークが噴き上がる中でキメ。櫻井がステージからハケて終演のナレーションが流れるのを、止まないアンコールがかき消す。再び姿を現した櫻井に大きな拍手と歓声が浴びせられた。

「皆さんからエネルギーをたくさんいただき、チャージできました。もう二度と“櫻井智”を手離すことはありません!」

 そう力強く告げて、復活ライブは幕を閉じた。バックステージの楽屋でも、戻ってきた櫻井は「アドレナリンが出ているので元気です」と疲れた様子は見せない。

「昔と違う感覚は多少ありました。3曲ハードな歌が続くと『昔はもうちょっと元気だったな』と思ったり(笑)。でも、まだ全然行けます!」

 復帰後は「またゼロからスタート」とたびたび口にしている櫻井。この日のステージも「また会おうね」と呼び掛けて後にした。ブランクをものともしない躍動感あるライブに、ここから新たな物語が始まることを予感させた。

レジェンド声優・櫻井智が語る、引退宣言から3年ぶりの復帰まで

櫻井智 おかえり・ただいまLIVE「またあえたね」

2019年11月16日 新宿ルイードK4

Set List

M1 また、あえたね

M2 GT夏少年

M3 恋のレシピは大胆不敵

M4 「恋」みたいな感じ

M5 Destiny

M6 MY FRIENDS

M7 あなたへのLOVE SONG

M8 愛・おぼえていますか

M9 忘れかけたセレナーデ

M10 たそがれロンリー

M11 Baby,Baby

M12 笑っちゃうけどスキ!

M13 ひたすら前向きに

M14 太陽をあげたい

EN1 笑っちゃうけどスキ!

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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