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大人のラブ・サスペンスで謎多き女性に。「年を重ねた私に価値を見出してくれたことがうれしかった」

水上賢治映画ライター
「ボディ・リメンバー」で主演を務めた田中夢  筆者撮影

 虚実入り混じり、真実が曖昧になる謎めいた大人のラブ・サスペンス・ストーリーが展開する映画「ボディ・リメンバー」

 現在公開中の本作は、これまで俳優として活躍してきた山科圭太が映画監督に初挑戦。

 彼が出会い大いに影響を受け、もっと映画界でも知られていいと思った演劇界の実力者、田中夢、奥田洋平、古屋隆太、鮎川桃果らを自らキャスティングし、脚本もまた山科が信頼を寄せる劇作家、三宅一平が書き上げている。

 いわば演劇界の才能が力をひとつに結集してできたといっていい本作については先日、監督を務めた山科圭太のインタビュー(前編後編)を届けたが、続いて出演した俳優たちの声を届ける。

 はじめにご登場いただくのは主演を務めた田中夢。

 いつもどこか遠くを見ているようなヒロイン・ヨウコ役で妖しい魅力を放つ彼女に訊く。(全2回)

 先で触れたように本作は監督を務めた山科圭太が演劇界で出会い、大きな影響を受け、もっと映画界で知られてほしいた俳優をキャスティングしている。

山科(圭太)さんとの出会いは2回?

 田中もそのひとり。山科との出会いをこう振り返る。

「実は、わたしの中では山科さんとの出会いは2回あるといいますか。

 劇団『マレビトの会』のある公演で、男性の俳優さんが足りなくて、出演者のひとりの推薦で山科さんがいらっしゃった。

 これが最初の出会いだとわたしは思っていました。

 それで初めてだと思っているのでご挨拶したら、『以前ご一緒してますよね』と言われて、わたしとしては『えっ』となった(苦笑)。

 実は2013年の久保田誠監督の短編映画『タートルハウス』で共演していたんです。

 共演シーンが少ししかなくて、当時、山科さんは坊主頭だったのに、髪型もまったくかわっていてわからなかったんです。

 『タートルハウス』のときは、山科さんはすごく役に入り込んでいたというか。役に打ち込んでいて、待ち時間に特に会話を交わすこともなかった。

 そういうこともあって『マレビトの会』で再会しても気づかなかったんです」

山科(圭太)さんは「俳優一筋」という役者さんだと考えていました

 山科が監督業に意欲を示していたことは知らなかったという。

「さきほども言ったように役作りにストイックに取り組む姿をみていたので、『俳優一筋』という役者さんだと考えていました。

 ですから、今回の出演オファーをいただいたときは、びっくりしましたね。想像もしていなかったので。

 オファーをいただいてから、実は映画学校に通われていたり、助監督経験もあったりすることなどをおききして、はじめて知りました」

「ボディ・リメンバー」で主演を務めた田中夢  筆者撮影
「ボディ・リメンバー」で主演を務めた田中夢  筆者撮影

山科圭太という信頼している俳優が、

年を重ねたわたしに価値を見出してくれたことがうれしかった

 山科からのオファーは、ある意味、役者としての希望をもう一度見出すものだったという。

「2003年から演劇を中心に俳優としての活動を本格化していたんですけど、オファーをいただいたときはちょっと岐路に入っていたといいますか。

 ちょうど30代後半に入ったころだったんですけど、いままでのように声がかからなくなった。

 20代はそれこそいろいろな役のオファーをいただいていたのに、ぱったりと声がかからない。

 これがよくいわれる俳優の年齢の壁なのかなと。特に女性の。それを自分事として痛感していた時期だったんですね。

 たぶん山科さんにもそういう話をちらっとしていた気がします。

 それから少しして声をかけてくださった。しかも、メインの役どころで『大人の俳優さんでないと演じ切れない役だ』とおっしゃってくれた。

 三角関係になるほかの二人の俳優さんも同様の大人の男性で大人の物語になるとの説明もしてくれました。

 なにより、山科圭太という信頼している俳優が、年を重ねたわたしに価値を見出してくれたことがうれしかった。

 わたし自身、そこで俳優の年齢の価値みたいなことの考えが改まったんですよね。

 どこか心の中で、俳優は若いほど価値があるみたいなことを思い込んでいたから、余計に勇気づけられた。

 ですからオファーを断る理由などなかったです。二つ返事で『ぜひ』とお願いしました」

とにかくほかのキャストのみなさんと早く本読みをしたいと思いました

 はじめて脚本を読んだときの感想をこう明かす。

「もともと短編から出発しているんですけど、その脚本の段階から、とにかくほかのキャストのみなさんと早く本読みをしたいと思いました。

 脚本の三宅さんの書かれたセリフが微妙なニュアンスを含んでいるというか。

 ちょっとした言葉の発し方の違いで、まったく違った意味になって、それによって物語がまったく違う景色がみえてくる。

 さらに、わたしが演じるヨウコと奥田(洋平)さんが演じられるアキラと、古屋(隆太)さんが演じられるジロウの前段となる関係性を、ちょっとした3人のやりとりの中から見せていかないといけないと思いました。

 だから、早く読み合わせをして、奥田さんや古屋さんがどういうものを出してくるのかを知りたかった。

 また、それを受けてわたしからヨウコとしてどんなものが出てくるのか想像ができなくて、楽しみだったんです。

 そういうやりとりをすることで、ヨウコを早くつかみたいと思いました」

「ボディ・リメンバー」より
「ボディ・リメンバー」より

 実際、本編において、ヨウコとアキラとジロウのやりというのはポイント。何気ない会話やかすかな表情の変化から、三者三様のその瞬間抱いた感情が現れ、そこから三角関係の変化が浮かび上がる。

「もう、奥田さんと古屋さんが放つ引力のようなものがすごいんですよ。

 今回、おふたりと共演するのは初めてだったんですけど、正直なことを言うと、もうおふたりにわたしは身をゆだねるしかなかった。

 絶対に頭で考えてもダメで、奥田さんと古屋さんの作る流れにのっていったほうがいいのではないかと。

 役柄としても身をゆだねるのがいいのかなと思ったんです。

 それはなぜかというと、ヨウコとアキラとジロウは学生時代からの旧知の仲。

 ヨウコはアキラと結婚しているわけですけど、それでもアキラとジロウという男同士の関係の領域にはどうやっても入っていけない。

 もうそこは、ヨウコとしては流れに身を任せるしかないんですよね。

 だから、現場でも、奥田さんと古屋さんが作り上げる場を、わたしはつぶさにみつめて、それに素直に自然に反応したほうがいいのではないかなと。

 下手に先入観をもって演じると、ダメだと思ったんです」

三人の関係は、単純な浮気をしたとか、不倫をしたとかでは片付けられない

 作品は、ヨウコとアキラとジロウの三角関係を軸に、その愛の行方がヨウコの告白によって明かされていく。

 しかし、その告白の真偽のほどはわからない。この謎めいたラブ・サスペンスのストーリーを田中自身はどう紐解いたのだろう。

「まず、三人の関係は、単純な浮気をしたとか、不倫をしたとかでは片付けられない。もちろん浮気や不倫はいけないことですけど。

 微妙なんですよね。この物語の場合、男性同士の関係と、男女の関係が微妙に重なってしまう。

 無二の親友といっていいアキラとジロウ、その二人の関係にヨウコは入っているようにみえて、実は入れていない。いかなる年月を経ても超えられない男と女の壁のようなものがある。

 そういうことに直面したとき、いかんともしがたい疎外感や不安を感じることが誰しもあると思うんです。わたし自身、その感情を知っているなと思いました。

 でも、その感情はあまりに辛いから、あまりみたくないし、できれば見過ごしたい。そこを露わにしている物語だと思いました。

 そして、ヨウコは、その哀しい感情を引き出す役割を担っているなと。

 あと、この三角関係において、ヨウコからは、どうしてもポジティブな感情は出てこないですよね。

 ヨウコの目線から考えた場合、夫のアキラを愛しているからこその嫉妬や復讐心があるんだけど、男二人の間には絶対に入れないという諦めがそこに加わってやるせない。

 でも、三人にとって、それぞれが必要で大切で欠かせない。

 なにか自分とは縁遠い話にも感じるんですけど、このような愛憎は起きても不思議ではない物語だなと思いました」

(※第二回に続く)

「ボディ・リメンバー」 主演の田中夢  筆者撮影
「ボディ・リメンバー」 主演の田中夢  筆者撮影

「ボディ・リメンバー」

監督・脚本・編集:山科圭太

脚本:三宅一平、山科圭太

出演:田中夢、奥田洋平、古屋隆太、柴田貴哉、鮎川桃果、上村梓、神谷圭介、影山祐子

7月8日(木)までアップリンク吉祥寺にて公開中。

7月23日(金)よりアップリンク京都にて公開

場面写真はすべて(C)GBGG Production

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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