ラブストーリーが危機を救う?フジ大多亮氏にカンヌで聞いたドラマ計画
先月、フランス・カンヌで開催された国際テレビ見本市MIPCOMで最も話題になったのは、来春から始まるドラマの祭典だった。かつて「東京ラブストーリー」などのヒットドラマを手掛けたフジテレビ大多亮常務が早くもこれに参加の意欲を見せている。
英スカイとAmazon US共同制作ドラマが目玉のワールド上映
「春も絶対にカンヌに来ますよ。世界市場に挑戦できるドラマの祭典があるからね。」
世界中のドラマが売り買いされているMIPCOMの会場でフジテレビ常務の大多亮氏がこう話し始めた。
大多氏が話す「ドラマの祭典」とは、来春からカンヌで初企画される「カンヌシリーズ」のこと。勢いのあるNetflixやAmazonなどがオリジナルのドラマシリーズ(=連続ドラマ)を次々と新作を発表し、今や人材も予算もドラマに集中。有名どころのハリウッドスターがこぞって出演し、映画監督らも次々とドラマを撮影している。1話分だけで、ハリウッド映画1本の製作費と変わらないものも出てきた。「ドラマのゴールデンエイジ(=黄金時代)が来た」とドラマがこれまでになく、もてはやされている。
今年のMIPCOMでもイギリスのスカイ・アトランティックとAmazon USが共同制作したドラマシリーズ「Britannia」がワールドスクリーニング作品に並んだ。ジェズ・バターワース(「007/スペクターなど」)による脚本で、ケリー・ライリーやデビッド・モリシーらが出演。紀元後43年にローマが現在のイギリス(ブリタニア)を属州として支配した時代を描く歴史ドラマである。また集中して行われたロシア作品のスクリーニングではチャンネル・ワンとスレダプロダクションによる「Trotsky」とTV3チャンネル制作のミステリースリラー「Gogol」が共にNetflix配信作品として注目された。
そんなタイミングに、カンヌ映画祭をイメージしつつ、ドラマを対象にした新しい祭典が来年4月4日から11日まで8日間にわたって開催される。
MIPCOMではその概要を説明する記者発表が行われ、同席したカンヌのデビット・リスナール市長も積極的に協力する姿勢を示し、「テレビ見本市のMIPがカンヌシリーズを強化させ、カンヌシリーズもテレビ見本市のMIPを強化する。互いの相乗効果を狙いながら盛り上げていきたい」と発言していた。
発表されたスケジュールをみると、MIP開催直前から始まり、期間中に終えるような段取りで、朝から深夜までスクリーニングやコンペティションなどが行われる。スポンサーにはフランスの有料テレビ局Canal+や米エンターテイメント業界紙Varietyなどが並ぶ。カンヌシリーズを象徴するパトロンはデンマークの実力派女優、シセ・バベット・クヌッセンが務めることもわかった。
現地でカンヌシリーズ主催関係者に日本の参加についてコメントを求めると、「日本のドラマも期待しています。日本は内向きに制作される場合が多いと思いますが、インターナショナルで勝負したいと思うプロデューサーや監督、脚本家の方々とカンヌで是非お会いしたいです」と答えが返ってきた。
マーケットは世界中から参加者を集める場所だが、恐らく「カンヌシリーズ」も欧米中心の空気感は否めないだろう。それでも、新しく作られるコミュニティの場に日本も切り込んでいって欲しい。知名度から有利なNHKがまずは先陣を切るのか、そんなことを思いめぐらせているところに、冒頭の大多氏の言葉。どんな計画があるのだろうか。
複数の国にまたがったドラマ制作の座組みに変わりつつある
実はフジテレビはカンヌシリーズの流れを作ってきたMIPの会議に一昨年からアジアで唯一参加している。出席した同社の総合事業局コンテンツデザイン部部長職の早川敬之氏はAmazonスタジオやCanal+の幹部らと同じ分科会グループで「ドラマの共同制作の可能性について熱い議論を交わした」という。
「今、ドラマ制作の座組みは変わりつつあり、例えば企画はドイツ、スタジオはイギリス、キャストはスウェーデン、放送は英BBC、配信はNetflixといった複数の国にまたがった共同クリエイティブ、共同ファイナンスといった多様化したケースが目立つ。会議ではグローバル展開するために法体系を整理し、多言語対応を考慮するためのノウハウを共有しながら、コミュニティを蓄積しています。」(早川氏)
ということはやはり、フジテレビのカンヌシリーズの参加はAmazonやNetflixなどと国際ドラマ開発を行うことが目的になるのか。
「海外チームがいろいろとがんばってくれていますが、海外をもうちょっとちゃんとやらないといけないと思うこともあります。2回目のカンヌでよりその想いが強くなりました。だから、ここカンヌに持って来るべき日本のドラマは何なのか、よく考えてみたのですよ。でも、フジテレビだけでなく、世界マーケットに通用するようなドラマが今の日本には揃っていないんじゃないかと。でもそれだと、何のためにMIPに来ているのかわからない。」
では、ドラマの祭典に何を期待しているのか。
「アジアのドラマはなかなか世界に売りにくい現状があるなか、カンヌシリーズに期待していることはカンヌ映画祭のように、賞に価値が置かれること。評価されることで、アジアのドラマ、日本のドラマを見てもらえるきっかけが作れるのではないかと思うのです。世界に当たったら大きい。だから、やらないと。」
Netflix版テラハが全世界からオファー、「あいのり」新作も
最近ではフジテレビがNetflixと早々に組んだオリジナルドラマ「テラスハウス ALOHA STATE」は海外から評価も受けている。
「『テラスハウス』の評価は嬉しかった。Netflixで全世界からオファーをもらい、『あいのり』の新作も作りました。ドラマではなく、いわゆるリアリティショーですが、ニーズがあることがわかったことに価値は十分あると思っています。ラブをコンセプトに、こういう打ち出し方もあるのかなと。恋愛系ドラマを手掛けてきたこともあって余計に、自信を深めるきっかけにもなっています。“あの頃のフジテレビはどうなった?”と言われていますが、世界マーケットを視野に我々ができることはまだまだあると。」
今回のMIPCOMでキーノートを行ったFacebookは、多くのアーティストを選出したオーディション番組「アメリカン・アイドル」を仕掛けたプロデューサー、サイモン・フラー氏のサイモン・フラーXIXエンターテイメント社と協業し、ノルウェーで爆発的な人気となった国営放送NRKが制作した高校生の恋愛模様などを描いたリアリティショー「Skam」の英語版を目玉にすると話していた。市場のニーズから、有効的な戦略とも言える。
最後に、大多氏はドラマの世界展開に対する想いをこう語った。
「20年前にある海外のアーティストにこんなことを言われたことがありました。“日本の音楽は凄いと思うけれど、見た目とサウンドがダメ。洋楽からしたらあまりにも子供じみている。ロックを聞かせるサウンドじゃないよね”と。でも最後に、“歌詞を見るとそんな深い言葉は日本人にしか書けない”と評価してくれた言葉が今でも心に残っています。ドラマも同じようなことが言えて、日本は脚本に鍵があるんじゃないかと。カンヌシリーズに脚本家の坂元裕二と古沢良太を連れてくることができたら、話はさらに広がるかも。とにかく、日本のドラマを世界で成功させたい。ジュテームの国で、愛の作品をもって攻めたいね。」
かつての勢いを失っているフジテレビだが、これまで日本の番組の海外展開を先導してきた自負はあるだろう。来春のカンヌシリーズで具体的に何を実現しようとしているのか、確かめたいと思う。