これが有名なスズメのトイレ?その正体はイラガの繭=真冬の昆虫芸術②
スズメのトイレを見たことがあるだろうか。「そんなもの、あるわけない」と言われそうだが、実は冬の野山や公園ではスズメのトイレは結構多い。公衆トイレより多いくらいだ。
冬になると、木々の枝先に付いている「スズメの小便たご」が目立つようになる。「たご(担桶)」とは、天秤棒で運ぶ桶(おけ)のこと。もちろん、本当にスズメがそこで用を足すことはない(と思う)。
この小便たごの正体は、イラガという蛾の繭(まゆ)の残骸だ。夏に成虫が繭から脱出する際に、繭上部の丸い蓋が取り去られ、スズメが用を足したくなるような、小便たごが完成する。そして冬に木々の葉が落ちて見通しが良くなると、あちこちで小便たごが見つかるようになる。
繭と言うと、カイコの繭のようなフワフワの物体を想像しがちだが、卵型の小便たごは、陶器のようにカチカチで、白地に茶色の曲線模様が施されており、まさに陶製の小便器。それをスズメの小便たごと名付けた昔の人々の発想は、実に素晴らしい。
一般的な小便たごは、きれいな円形の穴が上部に開いているのだが、横にちょっと雑な感じの穴が開いた小便たごもよく見かける。
雑な穴の小便たごは、イラガセイボウという寄生蜂が羽化した後の残骸だ。イラガの成虫は地味だが、この寄生蜂は宝石のように美しい。なので、この蜂を見たくてイラガの繭を持ち帰る人もいる。
蛾が出るか、蜂が出るか、その確率は昆虫記者のこれまでの経験でほぼ五分五分。しかし、真の虫好きならば、羽化する前にどちらが出るか、ほぼ確実に見分けることができる。昆虫趣味は奥が深いのである。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)