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過去最多の救急搬送困難へ 新型コロナ第7波に打つ手はあるのか

倉原優呼吸器内科医
(筆者撮影)

新型コロナ第7波では、全年代でいっせいに感染者数が急増し始め、第6波を超える速度で医療が逼迫し始めています。特に救急医療と発熱外来の逼迫が厳しく、全国各地の医療従事者から悲鳴が上がっています。第7波に打つ手はあるのでしょうか?

再び増加する救急搬送困難

各地で救急車を要請しても搬送できない事例が相次いでいます。第6波の水準を超える勢いで、特に沖縄県の医療が壊滅的な状況にあります。

東京都でも、「東京ルール」(救急隊による5つの医療機関への受入要請または選定開始から20分以上経過しても搬送先が決定しない事案)の適用件数がコロナ禍最多の354件に到達し(図1)(1)、今後さらに感染者が増えると、過去に経験したことのない救急医療の逼迫が起こるかもしれません。

図1. 東京ルール適用件数(参考資料1をもとに筆者作成)
図1. 東京ルール適用件数(参考資料1をもとに筆者作成)

発熱外来受診の逼迫

「のどが痛い」「咳が出る」などの新型コロナが疑わしい症状は基本的に発熱外来で対応することになりますが、現在こうした軽症受診が増加しており、これらの受診を抑制している自治体もあります。

とはいえ、中には重篤な基礎疾患をかかえているハイリスクな軽症患者さんもいるので、必要な人に必要な医療リソースを投下できるようにしたいところです。

全国の発熱外来では、全例に検査・診断を行うことが物理的に難しい水準になりつつあるので、保健所への全数報告もそろそろ厳しい印象です。そのため、検査なしで新型コロナと診断する「みなし陽性」をさらに活用する必要があるかもしれません。

医療逼迫の要因

第7波で医療を逼迫している要因の1つが、医療従事者の濃厚接触・感染です(図2)。濃厚接触者になっても、毎日検査で陰性を確認すれば病院に勤務できるのですが、実はそう簡単にいきません。

図2. 第7波の医療逼迫(筆者作成)
図2. 第7波の医療逼迫(筆者作成)

たとえば医療従事者の家族が新型コロナに感染した場合、感染した子どもを家に置いて出勤するわけにはいかず、多くの医療従事者が就業できない事態に陥っています。

また、医療従事者の感染が増えている理由として、新型コロナワクチンの感染予防効果が減衰している可能性も指摘されています。

ワクチンの4回目接種対象が医療従事者へ拡大されましたが、まだ多くの現場には具体的な接種スケジュールが下りてきていません。4回目接種は、3回目接種までの感染予防効果より劣るものの、短期的にはある程度効果が見込まれるため、すみやかな配分をお願いしたいところです。

第7波に効果的な対策は

ワクチン以外の対策としては、診療する側のキャパシティを相対的に増やすしかありません。しかし、源泉のごとく人手が湧いて出てくるわけではありません。そうなると、感染者数・受診者数を減らすか、新型コロナ自体の対策を緩和するか、あるいはその両方となります。

①感染者数・受診者数を減らす

感染者数の増加を止める手立てとしては、行動制限などの措置がありますが、すでにコロナ禍3年目に入り、デルタ株のような致死的な肺炎が少なくなっていることから、経済を回す上でもギリギリまで行動制限したくないというのが国の思惑でしょう。

1日の新規陽性者数3万人が、たとえば10万人になると、すべての医療も正比例して逼迫し、重症者数・死亡者数も3倍以上になります。残念ながら、医療現場は3倍界王拳を使えるわけではありませんし、カラダがもちません。

そのため、これ以上医療が持ちこたえられなくなると、行動制限に踏み切らざるを得ないかもしれません。

現在各地で行われている祭りやイベントにはたくさんの人が押し寄せており、現在の流行曲線の初動は、医療従事者にとってかなりメンタルダウンの材料となっています。昨年同様、夏季休暇の帰省にピークが来るとするなら、現時点ではまだ医療逼迫が始まったばかりということになります。

日本はもともと国民皆保険制度があり、手軽に受診できるというメリットがありますが、こういったパンデミック時に大量の患者さんが医療機関に押し寄せるというデメリットも併せ持ちます。

②新型コロナ自体の対策を緩和する

新型コロナを診療する際の感染対策は、現在、個人防護具を着用して対応しています。コロナ禍で最も高い感染性を持つBA.5を、入院している患者さんに感染させるわけにはいきません。そのため、発熱している患者さんを大部屋に入れるのは難しく、病院内での「患者隔離」は必須です。

「早く5類相当にしていたら」という見解がありますが、「新型インフルエンザ等感染症」の枠組みで柔軟に骨抜きにできる仕組みをすでに適用しているので、この議論は本質的ではありません。また、どういった分類であっても、手を挙げてくれる医療機関が急増しない限り、発熱外来は逼迫します。

感染対策を緩和できるとすれば、濃厚接触者・陽性者の待機期間・隔離期間でしょうか。たとえば、濃厚接触者であっても、マスクを着用しておれば自宅待機しなくてよい、などの緩和策が考えられます。

まとめ

新規感染者数は指数関数的に増えていくため、人が人を診る現場を、理想的に弾力運用できるわけではありません。

世間ではウィズコロナの風潮が高まっていますが、医療機関のウィズコロナはまったく違う風景が広がっています。このギャップは、これまでで最も大きくなるかもしれません。

一人ひとりが、自分たちの住んでいる地域の医療を守る意識を持っていただくことが大事かと思います。

(参考資料)

(1) 救急医療の東京ルールの適用件数(URL:https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/cards/number-of-tokyo-rules-applied/

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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