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第2の地球は見つかるか?          -天文学が描く近未来ー

縣秀彦自然科学研究機構 国立天文台 准教授
TMT(30メートル)望遠鏡@ハワイ島マウナケア山頂 2021年完成を目指して

高まる天文熱

星や宇宙への人びとの関心が近年、高まりつつあるようだ。昨年5月の金環日食や、今年11月29日に太陽に接近して崩壊してしまったアイソン彗星への関心は高く、その後、12月に入ってもラブジョイ彗星やふたご座流星群に市民からの関心が集まった。十年前には廃館や規模縮小が続いた全国のプラネタリウムや公開天文台へもこの数年、客足が戻ってきているという。社会の中で認知され、支持されてこそ前進可能な今日のビッグサイエンスにおいて、市民からの関心の高さは天文学の研究推進への追い風となっている。

TMTへの期待

「我々は何処から来たのか、我々は何者か、我々は何処に行くのか」。新学習指導要領下の新しい中学校理科の教科書で、ポール・ゴーギャンのこのタイトルの絵画が天文単元の導入に使われている例がある。人類究極の問いかけに対して、「宇宙の中では」との限定ながら、解答にいま人類は迫りつつある。先月、存在が確認された太陽系外惑星が1千個を超えた。中には地球サイズの岩石惑星や、ほどよく暖かく液体の水が豊富にありそうな惑星も見つかり始めている。“もう一つの地球”が見つかる日はもうそう遠いはないだろう。いまではダーク・マターやダーク・エネルギーの解明といった宇宙論的な興味と双璧となって、系外惑星探査が人びとの天文学への関心を押し上げている。

そんな期待を受けて日本が推進するTMT(サーティー・メーター・テレスコープ)計画。米国、カナダ、中国、インド等との国際協力によって2021年度の稼働を目指して来年、建設が始まろうとしている。TMTは、1.4メートルの六角形の鏡を492枚並べることで、直径30メートルの超大型望遠鏡を実現しようという計画で、完成すれば、すばるの集光力の13倍、等級で3等級近く暗い天体までが観測可能となる。

[国立天文台 TMT推進室 http://tmt.nao.ac.jp/]

[クラブTMT(TMT応援団) http://club-tmt.jp/]

宇宙人発見によるパラダイムシフトは訪れるか?

あくまでも個人的な予想ではあるが、人類はおそらく今世紀中に、400年前に体験した地球中心の宇宙が太陽中心の宇宙に代わったようなコペルニクス的転回すなわちパラダイムシフトを経験することになるだろう。TMTは宇宙人が住むかもしれない太陽系外惑星を私たちに教えてくれる可能性を秘めているからだ。そうなれば、人びとの生き方そのものや人類の持続可能な発展という人類がいま抱える課題解決に強い影響を与えるに違いない。

生命が存在する惑星かどうかは大気を調べることによって証拠を見つけ出すことが可能だ
生命が存在する惑星かどうかは大気を調べることによって証拠を見つけ出すことが可能だ

人はみな、軽薄短小な現実の諸課題よりも、長いタイムスケールと空間をイメージして生きようとするのではないだろうか。そうなれば、国家間においても、例えば、領土問題等で意地を張りあっている隣国間の関係が、もっと大きなフレーム下で協調的に解決されることが期待される。我々の隣人は隣国の人ではなく、隣の星の友人となるのだから。

将来、そんな生命の宿る星が見つかったとしても、行き来することは遠すぎて不可能だ。しかし、その星に住む生命体との電波や光でのコミュニケーションがきっと始まることだろう。そんな夢の時代の到来をSFではなく現実のものとして語れる今こそ、中学校での簡単な宇宙の紹介にとどまらず、例えば、高等学校で天文や宇宙の内容を含む必修の理科科目を設置することや、大人も日常の生活の中で主体的にもっと科学と関わりが持てるような科学コミュニケーション機会が必要ではないだろうか。スポーツや芸術または宗教のように、科学の発達が育む将来への夢も人々の心のよりどころとして機能していくことが現代社会においては求められていると言えることだろう。

*星や宇宙に関しての話題について易しい解説や個人的な見解を、不定期ながらお伝えしていこうと思います。科学と文化についても情報発信予定。

自然科学研究機構 国立天文台 准教授

1961年長野県大町市八坂生まれ(現在、信濃大町観光大使)。NHK高校講座、ラジオ深夜便にレギュラー出演中。国際天文学連合(IAU)国際普及室所属。国立天文台で天文教育と天文学の普及活動を担当。専門は天文教育(教育学博士)。「科学を文化に」、「世界を元気に」を合言葉に世界中を飛び回っている。

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