アップルCEO、アプリ配信訴訟で厳しい質問浴びる 判事「App Storeの収益は不釣り合い」
米アップルのアプリ配信サービス「App Store」を巡り、人気ゲーム「フォートナイト」の開発元である米エピックゲームズが反トラスト法(独占禁止法)違反で同社を訴えた裁判は、2021年5月に公判期日を迎えた。連邦地裁判事が結論を出すのは数カ月後になる見通しだ。この訴訟について振り返ってみる。
エピック側は「アップルが不当に競合アプリを締め出し、桁外れに高い手数料を徴収する決済システムの利用を義務付けており、独占だ」と訴えている。
クックCEO「独占にはあたらない」
アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)は21年5月21日に初めて出廷。約4時間に及んだ証言で同氏は、独占にはあたらないとの主張を繰り返し、「すべてのアプリを厳正に審査し、一部の新規登録やアップデート版の配信を拒否しているが、その理由は利用者を不正行為から守るため。安全性の確保やセキュリティーの強化、利用者のプライバシー保護はアップルのサービスの大原則だ」などと述べた。
アップルはApp Storeの有料アプリに対して原則30%の手数料を徴収している。アプリがアップル以外の決済システムを利用することを認めていない。アプリ企業は別途ウェブサイトなどで自社決済サービスを設置することが可能だ。だがアプリ内にリンクを設けたり、アプリ内で告知したりすることは禁じられている。また、スマートフォン「iPhone」やタブレット端末「iPad」などのアップル製機器向けのアプリをApp Store以外で配信することも禁じられている。
証言の終盤で、連邦地裁のイボンヌ・ゴンサレス・ロジャーズ判事は、アップルがゲームアプリ開発会社から得ている金額は、アップルが提供している技術と比較し「不釣り合いに見える」と指摘。判事は「アップルの決済システムは競争に直面していない。アップルがゲームアプリを紹介し、その見返りに手数料を取るとの主張は理解できる。しかしアップルは、アプリ企業が一度獲得した顧客を対象に、毎回手数料を取っている」とも指摘した。
これにクック氏は反論。「App Storeには数多くの無料アプリがある。それらのアプリが多くの利用者を引き付けており、ゲーム開発者はその恩恵を受けている」とし、自社事業モデルの正当性を主張した。
また判事はクック氏に「ゲームなどの利用者に安価な選択肢を提供することで、アップルに何らかの問題が生じるのか」と質問した。
これに対しクック氏は、「彼らや彼女らには多くの選択肢がある。市場にはさまざまな種類のAndroidスマホが売られている」と述べた。この発言について米ウォール・ストリート・ジャーナルは、「エピックのゲームがAndroidスマホやパソコン、ゲーム機向けに配信されており、それらのプラットフォームも同様の手数料を取っているとのアップルの主張に基づくもの」と報じている。
訴訟合戦、これまでの経緯
これまでの経緯を簡単に振り返ってみる。エピックは、アップルの手数料が法外だと批判し20年8月にアップルの課金を回避する独自決済システムを導入した。アップルはこれを規約違反とし、フォートナイトを配信停止にする措置を取った。その直後にエピックがアップルを提訴。アップルは20年9月にエピックを反訴した。
エピックは、「App Storeは閉ざされたプラットフォームであり、自社のアプリ配信サービスや決済システムの利用を義務付けていることは独占にあたる」と主張。アップルは「他社が自社のサービスを利用する際に手数料を取ることは反競争的な行為ではない」と反論している。
EU、「Apple Music」を問題視
アップルなどの巨大テック企業の商慣習を巡っては競争当局や議会が調査を進めている。欧州連合(EU)の欧州委員会は21年4月30日、アップルに対し、競争法違反の疑いに関する暫定的な見解を示す異議告知書を送付したと発表した。
欧州委は、スウェーデンの音楽配信大手スポティファイ・テクノロジーなどがアップルの独自課金システムを利用するよう強制され、30%の手数料を徴収されていると指摘。その一方で、アップルも音楽配信サービス「Apple Music」を手がけている。「アップルは自社サービスを有利にし、音楽配信市場の競争をゆがめている」との見解を示した。
米議会上院司法委員会の反トラスト小委員会が21年4月21日に開いたスマホアプリ配信に関する公聴会には、アップルや米グーグルのサービスに不満を持つスポティファイなどの幹部らが出席。プラットフォーム企業の強大な力によって、自社のビジネスが脅かされていると訴えた。高額な手数料や不透明な規則の弊害についても指摘した。
また、下院司法委員会の超党派議員らは21年6月11日にGAFAとも呼ばれるグーグルやアップル、米フェイスブック、米アマゾン・ドット・コムを念頭に置いた反トラスト法改正案を提出。同司法委は6月24日に計6本の改正案を可決した。
うち2本は、プラットフォーム上で利益相反となる事業を保有することを禁じる「プラットフォーム独占終了法」と自社製品・サービスを優遇することを禁じる「オンラインにおける米国人の選択と技術革新法」。
議員らはアップルやアマゾンがそれぞれ開発者や出品者向けプラットフォームを運営しながら、自社のアプリや商品や提供・販売していることを問題視している。法が成立すれば、独禁当局が企業分割しやすくなる。
アップルとグーグルがアプリ販売手数料を引き下げ
こうした批判をかわす狙いか、アップルは21年1月、App Storeで得た年間収益が計100万ドル(1億1000万円)以下の企業を対象に販売手数料を30%から15%に下げた。グーグルは21年7月1日から、すべての開発者を対象に、Google Playでの年間売上高が100万ドルに達するまで15%とした。
- (このコラムは「JBpress」2021年5月25日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)