「関係人口」的視点で考える日本の企業および社会
「2,157,227(1)」
これは、何の数字だと思いますか?
これは、2018年9月28日付の東洋経済の記事「「外国人従業員が多くいる会社」ランキング…優秀な外国人は日本本社の管理職にも登用」に掲載されたランキング表に掲載された100社の総外国人従業員数を合計した数字である。
同ランキング表は、従業員に占める外国人比率順(注1)で構成され、1位は98.9%のフォスター電機(総外国人従業員数:48,670人)から100位は43.7%の野村ホールディングス(同:12,308人)となっている。この順位は、『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』(2018年版)における従業員に占める外国人比率順に基づくものなので、100社の中には、規模が必ずしも大きくないものも含まれており、外国人従業員の数自体は数百人規模のものも含まれている。そして外国人従業員の絶対数が大きくとも、比率が低いために、同ランキング表に含まれない企業も多いということができる。
また、その記事の時からすでに5年以上が経過し、コロナ禍がほぼ終焉してきていることなどを考えると、その数字はさらに増加していると考えてもいいだろう。
そして本記事のはじめに出てきた数字(1)は、ランキング表の100社の連結外国人従業員数であり、同記事や拙記事「変わらない日本企業も、確実に変わってきている。」等によれば、その多くは所属企業で日本国外にいる外国人従業員であると考えることができる。
以上のようなことを考慮すると、日本企業に関わる国外にいる外国人従業員は、どう少なく見積もっても、その数字の倍以上はあるといっても間違いではないだろう。
一方で、出入国在留管理庁によれば、在留外国人数は322万3858人(2023年6月末現在)(2)である。
この数字(2)は、(1)と一部重なっている。だが、正確にはわからないが、重複を除いた(1)と(2)の合計は、おそらく450万人を超えているのではないだろうか。
そして、さらに先述したランキング表には含まれない日本企業における日本国外の外国人従業員の数は、上述したように相当数(3)に上っていると推測できる。
つまり、(1)、(2)、(3)の合計はかなりの数(おそらく600万人を優に超えているであろう)であると考えられるのである。
これらの数字をみると、日本の企業や組織等の「実態」は、実は私たちの実感をはるかに超えて多様化・グローバル化し、大きく変貌してきているのである。
近年、「関係人口」という考えが注目を集めている。
総務省のHP(注2)によれば、「関係人口」とは、次のように定義、説明されている。
「移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。
地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、『関係人口』と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。」
この視点は、世界や組織において人材を含めた様々なものの流動性や関係性が大きく変化してきているなか、従来の考え方を超えて、日本企業や日本社会の現在および今後を考える上でも考慮されるべきことなのではないかと思う。そして、ビジネスや企業および社会の可能性やあり方を考えていくことも必要であろう。
日本は、急激に進行する少子高齢化による「生産年齢人口」(注3)が激減してきているなか、労働力の不足を補うために外国人人材を日本に呼び込むことの必要性や重要性が近年指摘・主張されてきている。また実際に経済のさまざまな現場において、人手不足等も深刻化してきている。そのような状況を受けて、出入国管理法などの改正がされたりして、外国人人材が日本国内で仕事がしやすいような環境が整備されてきている。
その結果、(2)の数字とも関連するが、日本国内の在留外国人数は確実に増加してきているのである。しかしながら、その数は増えつつはあるが、日本における生産年齢人口の減少を十分に補完できているわけではないのである。
さらに最近では、円安や日本国内の給与水準の低さ(特にマネジメントレベル以上)などのさまざまな問題や課題等もあり、日本人の海外出稼ぎの問題も議論されるようになってきており、日本国内の労働市場は、外国人材(特にハイレベルの人材)を惹き付ける力が急速に低下してきている。
日本国内でも賃金が徐々に上昇してきてはいるが、国際水準になるにはまだまだ時間がかかるだろう。また日本は、言語・慣習や社会構造などが諸外国と大きく異なる。それらのことのために、変化が生まれているが、外国人受け入れの環境や制度の整備には時間がかかるので、外国人材を日本国内に短期間で連れてきたり、来てもらうことは必ずしも容易なことではないのである。
このようなことを考えると、上述したような日本企業が既に実施してきている対応を、「関係人口」的視点からとらえることが現実的なのではないだろうか。
それはつまり、日本において起きつつある労働者の不足(直接的サービス等を提供する労働人材などは除く)を日本国外(海外)で獲得し、海外で日本企業等の業務やビジネス等をかかわってもらい、日本企業等がスムースかつ有効に機能するようにするのである。そして、日本社会は、企業等のそのような活動やビジネスを支援し、その成果が日本社会に還元されるような新たなる制度や政策を考えていくべき時期にきているのではないかということである。
これは、これまでの組織や国・社会におけるビジネスや富の形成などの発想とは異なるものだ。また外国人材の国内流入や海外でオフショア的に人材を獲得するというアプローチとも異なる。要は、グローバル世界・社会・経済において、企業や社会・国の活動や富を豊かにしていくための方策や対応を考えていくべきであるということだ。
他方で、上述したような日本企業に対して、問題を指摘する意見もある。それは、日本企業も、外国人材をグループ内で採用してきているが、給与などの面で日本国内外でダブルスタンダードをとっているという指摘である。その場合、日本人人材と外国人人材の間で、真の競争になっていず、別の組織・仕組みを並行して走らせており、本当の意味のグローバル企業になっていないのである(注4)。確かに、日本の企業の多くは、そのような状況があるのも事実ではあろう。だが、別記事でも述べたように、企業内のグローバル化が進展してくるなかで、企業内の一体感が必要かつ重要になってきており、企業内インナーブランディングやインナーの試みも始まっている企業も生まれてきている。
そのような動きを通じて、日本企業内のダブルスタンダードなどを溶解させ、日本企業を変化させ、正に多様化し、競争性を上げていくことにつながるだろう。そのような動きは今後確実に広まっていくだろう。そして、そのことは、日本社会や日本人も変えていくということができるだろう。
(注1)この比率は、各社が把握する総外国人従業員数(項目名としては連結外国人従業員数)を連結従業員数で割った比率である。
(注2)関係人口に関する詳しい情報は、次URLから、入手できる。
(注3)「生産年齢人口」とは、「人口統計で、生産活動の中心となる15歳以上65歳未満の人口。生産年齢人口以外の人口は従属人口という。日本の生産年齢人口は1990年代をピークに減少している。」(出典:デジタル大辞泉(小学館))
(注4)従来の日本企業を残存させ、グローバル経済で活用できる組織ではないという意味である。