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12年ぶり台風上陸ゼロ 太平洋十年規模の変動も

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
九州に接近した台風10号 特別警報の可能性が呼びかけられた(ウェザーマップ作画)

 今年は12年ぶりに台風の上陸がない。1951年以降、上陸がなかった年は今年を含めて5年と珍しい。台風の活動が弱かった背景には北太平洋の海面水温が十年程度の規模で変動していることがある。

台風10号 特別警報の予告会見も

 台風20号は7日夜、南シナ海で熱帯低気圧に変わりました。10月は台風の発生が7個と10月としては最も多くなりましたが、全体の発生数は平年を下回っています。

 今年印象に残っている台風と言えば、九州に接近した台風10号です。9月1日に小笠原近海で発生した台風10号は発達しながら北上しました。日本近海で発生したこと、非常に強い勢力で西日本に接近または上陸する可能性があったため、発生当初から注目され、5日には特別警報の予告会見も行われました。

九州に接近する台風10号を捉えた気象レーダ図(2020年9月6日18時、ウェザーマップ作画)
九州に接近する台風10号を捉えた気象レーダ図(2020年9月6日18時、ウェザーマップ作画)

 しかし、当日になって、台風の勢力が弱まり、特別警報の発表は見送られましたが、九州各地は風雨が激しく、多くの方が最寄りの避難所や密を避けてホテルに避難しました。

12年ぶりに上陸ゼロ

 もうひとつ印象付ける出来事といえば、台風の上陸がなかったことです。1951年以降、台風の記録が残るなかで、上陸がなかった年は今年を含めて5年です。昨年(2019年)は台風15号や19号の甚大な被害があったことを思うと、今年は特別に感じます。

1951年以降、台風が上陸しなかった年を並べた図(著者作成)
1951年以降、台風が上陸しなかった年を並べた図(著者作成)

 偶然とはいえおもしろいと思ったのは、今年は子年で、前回の2008年も子年でした。そして1984年も子年、5年のなかに子年が3年あります。

十年規模の水温変化

 台風の発生数が少なく、上陸がなかった背景には日本付近を流れる偏西風の位置や太平洋高気圧の張り出し、さらにエルニーニョ/ラニーニャ現象に代表される海洋の変化などが挙げられます。しかし、なぜ上陸がなかったのか、確かな答えはわかりません。

 台風は海で生まれ、海で成長します。海洋の水温は大気と比べて変化は小さいものの、十年から長いもので百年の規模で変化していることが知られています。そのなかでも、台風が発生する北太平洋では海面水温が十年規模で変動することが分かっています。

太平洋十年規模振動(Pacific Decadal Oscillation:PDO)が正のときに海面水温に見られる傾向を表した図(気象庁ホームページより)
太平洋十年規模振動(Pacific Decadal Oscillation:PDO)が正のときに海面水温に見られる傾向を表した図(気象庁ホームページより)

 これは太平洋十年規模振動(Pacific Decadal Oscillation:PDO)と呼ばれ、昨年(2019年)はプラス0.7でした。この太平洋十年規模振動はエルニーニョ/ラニーニャ現象との関連も指摘され、天候に与える影響も似ているそうです。

【参考資料】

気象庁ホームページ:台風の統計資料

気象庁ホームページ:太平洋の海面水温に見られる十年~数十年規模の変動

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは128冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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