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「ライセンス・バック」を議論する①(防衛装備移転三原則をめぐる与党WT)

佐藤丙午拓殖大学国際学部教授/海外事情研究所所長
(写真:つのだよしお/アフロ)

○与党WGの議論の焦点

 防衛装備移転三原則や運用指針の改正をめぐる議論が進んでいる。

 この議論は、2023年初頭以来、自民党と公明党のワーキングチーム(以下WT)を中心に進められており、23年内には結論が出されると予想されている。このWTの議論については、その内容の詳細が公開されていないこともあり、動向はメディアによる断片的な報道に頼らざるを得ない。しかし、断片的な報道を繋ぎ合わせてみると、WT内では一つの問題が焦点になっていることがわかる。

 それは、日本国内で製造されたライセンス製品の、本国への「戻し」の是非である。これを「ライセンス・バック」と呼ぼう。防衛装備移転三原則では、第二原則のもとで、運用指針で「米国を始め我が国との間で安全保障面での協力関係がある諸国との安全保障・防衛協力の強化に資する海外移転であって、次に掲げるもの」として、「米国からのライセンス生産品に係る部品や役務の提供、米軍への修理等の役務提供」とある(その場合でも適正審査が求められている)。

 つまり、米国のみ生産品の部品等のライセンス供与国への移転は許可されているが、完成品の移転については明示されていない。与党WTでは、したがって、完成品の武器移転を意味する「ライセンス・バック」を、三原則あるいは運用指針の元で、米国以外の国との関係において、どのように規定するかが焦点になっているのだろう。

写真:ロイター/アフロ

○「結果主義」の落とし穴

 この問題では、「日本で作られた防衛装備品が、輸出先国で紛争に使用され、民間人の殺傷に使用されることは許されない」や、「日本は『死の商人国家』になるべきではない」と批判されることが多い。日本が直接的に攻撃に使用しないとしても、日本製の武器が使用されることに、間接的に戦争に加担しているのではないか、という「感覚」を持つ人も多いだろう。

 2022年以降出現した、ウクライナやガザでの状況を見ると、もしそこで日本製の武器が使用された場合、自らの政治的価値に反する行為を助長するものと、不快感を覚えたとしても不思議ではない。

 「ライセンス・バック」での武器移転は、結果として、そのような事態へと発展する可能性がゼロであるとは言えない。しかし、「結果主義」に基づいて現在の政策を判断することは、実質的には政策の停滞と後退を容認することになる。リスクフリーな政策はない。しかし政治家はリスク緩和に向けて制度や措置を操作しつつ、政策の持つ政治的な利点を最大化することが「仕事」である。

 「ライセンス・バック」の問題では、与党WTが、その利点をどう規定し、それをいかに伸ばし、そして国民の一部が危惧する「リスク」との比較衡量の中で、なぜ「ライセンス・バック」を推進する方が国益に貢献すると考えるのか、十分に説明していないと批判されているように見える。

 ただ実際には、この政策を支持する人々は、リスクの緩和策を含め、丁寧に説明している。これが国民に理解されない(届いていない)ことには、何らかの事情が存在するのだろう。

写真:イメージマート

○国民が理解できない事情とは?

 その事情を解明するのは難しい。防衛産業問題を「死の商人」による利潤追求行為と連想する国民は多く、その結果として日本が望まない戦争に加担することに抵抗を覚えるのは、これまでの日本の教育の一つの成果としてもいいだろう。しかし、個別の行為は多様な「正義」を内包し、一つの「正義」には絶対的な正しさはない。そして、対立する「正義」の調整を行うことが、政治的行為そのものなのである。その意味で、防衛装備移転三原則に関する与党WGは、それぞれの支持者の意向を踏まえ、社会全体の利益を選択することが望まれる。

 ただそこには防衛装備移転固有の問題が存在する。この固有の問題が「ライセンス・バック」に向けられる不信の本質だろう。国民の理解を深めるために、問題を分解して考察する。

(②に続く)

拓殖大学国際学部教授/海外事情研究所所長

岡山県出身。一橋大学大学院修了(博士・法学)。防衛庁防衛研究所主任研究官(アメリカ研究担当)より拓殖大学海外事情研究所教授。専門は、国際関係論、安全保障、アメリカ政治、日米関係、軍備管理軍縮、防衛産業、安全保障貿易管理等。経済産業省産業構造審議会貿易経済協力分科会安全保障貿易管理小委員会委員、外務省核不拡散・核軍縮に関する有識者懇談会委員、防衛省防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会委員、日本原子力研究開発機構核不拡散科学技術フォーラム委員等を経験する。特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の自律型致死兵器システム(LAWS)国連専門家会合パネルに日本代表団として参加。

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