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2023年のCCW-LAWS-GGEの議論について(2 Tier Approachを理解する)

佐藤丙午拓殖大学国際学部教授/海外事情研究所所長
(写真:ロイター/アフロ)

○CCW-LAWS-GGEの開催

 2023年3月6日にスイスのジュネーブで、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の自律型致死兵器システム(LAWS)の政府専門家会議(GGE)が開始された。3月の第1セッションは3月10日までの5日間開催され、2023年は5月に第2セッションが5日間(15日から19日)、合計10日間開催される(2023年のGGEの議長は、ブラジルのソアレス大使)。

 2023年のGGEは、LAWSに関する最終的な結論を出すことは求められていない。2022年11月の第5回CCW締約国会議では、GGEはこれまでに合意された内容を前提として、これまで各国が提案した案を検討し、コンセンサスに基づき、規範(normative)と運用(operational)上の枠組みに関する選択肢について必要な措置をさらに洗練させる、ことを目的と規定している。

 つまり、2019年の11の原則(guiding principles)や、これまでに出された各国の個別及び集団での提案、そして2月にオランダでオランダと韓国が共催した軍事における人工知能(AI)に関する規範会議等の成果を踏まえ、2023年11月に開催される締約国会議に、政府専門家会議としての結論を出すことが求められているのである。

○議論の構造

 CCW-LAWS-GGEの議論を見る限り、GGEは「停滞」している、と評しても間違いないだろう。これは3月の会議の各国の冒頭発言でも言及されている。しかし、「停滞」は会議の結論について、であり、LAWSの規制に関する方針については大まかにコンセンサスがある。

 LAWSが既に存在するかどうかは別にして、全ての兵器システムは国際人道法や人権法を遵守した運用がなされる必要があり、それを担保する措置が必要であるというものである。過去のGGEなどでも、LAWSがどのような兵器システムであるにせよ、既存の国際人道法や人権法を超える法的規範が必要とは見なされていない。そして、兵器のライフサイクルの全てにおいて、国際人道法や人権法が考慮されなければならないことについてもコンセンサスがある。つまり、人間の関与なく攻撃を実施するLAWSは既に禁止されているもの、という理解である。

 問題は、それを担保する措置は何か、という点で「若干」の意見の相違があることである。とはいえ、意見の隔たりは大きい。兵器の規制措置は最終的に各国の国内法で実施される。このため、一部の国は各国の国内措置の強化を強調する。しかし、やはり一部の国は、LAWSの定義が明確ではないため、どの国内措置が有効かどうか不明であることから、まずそれぞれの国家の規制措置に関する情報交換や、規制の成功体験(good practice)の共有を図るべきであると主張する。

 さらに強い措置を求める国も存在する。NAM(非同盟諸国)はLAWSの規制は、禁止条約など、強い法的措置が必要であると主張する。3月の会議までに「モデル条約」を用意してきて、それを元に第六議定書(CCWでは五つの議定書が存在する)の検討に入るべきであると主張する国も見られた。市民社会集団の一部は、国連第一委員会で条約交渉に入ることを強く主張している。

○CCW-LAWS-GGEの方向性

 このように、ロシアや中国を含め、LAWS問題への取り組みについて、国際社会に大きな分断はないように見える。無人兵器システムの開発で先行する韓国やイスラエルにおいても、それの運用に必要な人工知能の「規範」の重要性を強調しており、シンガポールや中国も軍事とAI問題について積極的に問題提起をしている。米国が2019年2月に発表した「軍事における人工知能の道徳原則」を見ても、アジア諸国の主張と、その内容に大差はない。

 つまり、CCWの議論は、各国が合意した内容の実質化と普遍化をどのように図るか、という点が焦点になる。2022年10月に国連第一委員会にオーストリアが提出した、LAWS問題への取り組みを強化すべきとした提案は、70カ国の共同提案国があった。オーストリアは核兵器禁止条約に関係する過去があり、軍備管理軍縮に関するオーストリアの提案には警戒感を持つ国も多いが、日本や米国もこの共同提案国になっている。

 ロシアはオーストリア提案の共同提案国ではない。そして2022年のウクライナ侵攻以降、ロシアは国際会議で自国の立場を守るための発言が多かったが、LAWSについては穏健な提案をしている。もちろん、LAWSに関する原則には賛成するが、それ以上の措置は必要ないとする主張を展開している。CCWはコンセンサスでしか先に進まないので、ロシアの主張は少し複雑な影を落とす。

○2 Tier Approachについて

 CCW-LAWS-GGEでコンセンサスを得つつある提案に、2022年3月に日本、韓国、豪州、カナダ、英国、米国が行った提案と、7月に欧州諸国が提案した2 Tier Approachがある。これらは、LAWSを「禁止」と「規制」の二段階でとらえ、LAWSの課題を明確に禁止しつつ、それ以外の問題では段階的に禁止の度合いを強化していく、というものである。3月の会議では日米などが2022年3月のアップデート版を発表しており、国際社会としても現実的な方法として考慮されている。

 2 Tier Approachでは、第一段階として、人間の管理と司令官の指揮命令系統の元に属さない完全自律兵器システム(LAWS)を非合法化する。そして第二段階として、人間の責任と説明責任を維持すると共に適切な人間の管理を確保し、リスク緩和措置を実施することにより、国際人道法の規則や原則の遵守を担保するために、LAWSや他の自律兵器システムを規制する、としている。

 第一段階の特徴は、まず2019年のGGE指導原則のb,c,dをふまえ、禁止対象のLAWSの開発、生産、取得、配備、使用を行わないとする。その上で、一定の条件を満たす自律機能がある致死兵器システムの開発、生産、取得、改造、配備、使用は許容する、というものである。その条件は、特定の段階において国際人道法の遵守が担保されていること、そして、適切な人間の管理が兵器のライフサイクルの全ての段階で維持されていること、である。適切な人間の管理については、さらに細かく規定されている。

 兵器のライフサイクルとは、研究、開発、試験、使用、使用後の破棄など、兵器システムが設計されて以降の全ての段階を意味する。それら各段階における人間の管理のあり方は異なるため、日米等の提案も、欧州諸国の提案でも、細かく条件が規定されている。

 このアプローチは、兵器システムの使用と、それ以外の段階を一緒に考えると議論がまとまらないという経験に根ざし、CCWでは非常に得にくいコンセンサスを得るための妥協という意味もあるのであろう。

○今後の展開について

 2023年のGGEには「open-ended」という、一面ありがたくない表現が追加された。この言葉は、議論がまとまるまでの期限を設けないということを意味するため、コンセンサスが得られない場合は議論を継続することになるが、その反面結論が出ない可能性があることを示唆する。

 ただ、以上のように議論の方向性はまとまっており、この先にどれだけ現実的な進展が可能か、注目される。重要な点は、条約が成功に向けた唯一の道ではないが、目に見える成果が出ないと、議論がまとまらない状態で兵器開発が進むリスクは大きいということを、各国が認識しているかどうか、ということであろうか。

                                  以上

拓殖大学国際学部教授/海外事情研究所所長

岡山県出身。一橋大学大学院修了(博士・法学)。防衛庁防衛研究所主任研究官(アメリカ研究担当)より拓殖大学海外事情研究所教授。専門は、国際関係論、安全保障、アメリカ政治、日米関係、軍備管理軍縮、防衛産業、安全保障貿易管理等。経済産業省産業構造審議会貿易経済協力分科会安全保障貿易管理小委員会委員、外務省核不拡散・核軍縮に関する有識者懇談会委員、防衛省防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会委員、日本原子力研究開発機構核不拡散科学技術フォーラム委員等を経験する。特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の自律型致死兵器システム(LAWS)国連専門家会合パネルに日本代表団として参加。

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