なぜ、世界一ホテル代が高いニューヨークで 「民泊」が禁止されてしまうのか?
■「Airbnb」に投稿するだけで罰金1000ドル
先月、私はほとんどをニューヨークで過ごしていたが、滞在中、もっとも悲しかったニュースは、アンドリュー・クオモ知事が「民泊禁止」法案に署名したことだ。
これにより、ニューヨークでは「Airbnb」が、事実上使えなくなった。この法案は今年の6月にニューヨーク州議会の上院を通過し、知事の承認待ちとなっていた。つまり、クオモ知事は、世界一ホテル代が高い街のホテル業界を守るために、「シェアリングエコノミー」を潰しにかかったのだ。
ニューヨークではすでに、アパートメントの住民が30日未満の短期滞在のために部屋を貸し出すことを禁止している。今回の法案は、それからさらに踏み込んで、住民が自分の部屋を民泊サイト(homesharing websites、要するに「Airbnb」のこと)に載せるだけで、最初は1000ドル、3回目になるとなんと7500ドルの罰金が科せられることになった。
■ホストもゲストも得できる「シェアリングエコノミー」
10月21日、たまりかねた「Airbnb」は、ニューヨーク州のエリック・T・シュナイダーマン司法長官とニューヨーク市、そしてビル・デブラシオ市長を相手取って訴訟を起こした。今回の法案は、憲法で保証された言論の自由と通信品位法に反していると主張している。
確かに、サイトに投稿したコンテンツに対してペナルティを科すというのはおかしいと、私も思う。
「Airbnb」 は、2008年にサンフランシスコで設立された。以来、世界中にネットワークが広がり、現在191カ国、3万4000都市で200万人以上のホストがゲスト(旅行者)に部屋を提供している。
これは、私のようなホテル代の高さに悲鳴を上げている人間にとっては本当に救いの神であり、また、ホストにとっても空き部屋から所得を得られるという点で革命的な出来事だった。このホストもゲストも得できる「シェアリングエコノミー」は、ネット時代のもっとも進んだエコノミーのはずだ。
■Airbnb」と「Uber」と「Yelp」が、旅の3種の神器
ハウスシェアリングの登場で、旅のカタチは大きく変わった。「Airbnb」と「Uber」と「Yelp」が、旅の3種の神器になった。宿泊先は「Airbnb」で探し、都市内での移動には「Uber」、店は「Yelp」で検索し、あとは「Google Map」でOKだから、ガイドブックはいらなくなった。安くて便利な旅がこれで楽しめるようになった。
ところが、日本では「Airbnb」と「Uber」の二つともしっかり規制されている。「Airbnb」を東京で解禁すれば、ものすごいニーズがあるうえ、都民にも利益がもたらされるのに、NYと同じように規制されてしまった。
これは欧州では、パリやベルリンも同じだ。ただ、ロンドンだけが、年間90日までゲストへの貸し出しが合法化されている。
■今回の件の最大の犠牲者はニューヨーク市民
「NYタイムズ」の記事によると、かつてニューヨークは「Airbnb」にとって最大の収益都市だったという。今回の規制で、ホストたるニューヨーク市民は約10億ドルを失うという。「Airbnb」 のデータによると、2015年11月の貸出物件数3万6000件の55%に値する1万9742万件が「所有者不在の空き物件」という。ということは、今回の規制でそのすべてが違法になる。
というわけで、今回の件の最大の犠牲者は、ニューヨーク市民だ。世界有数の物価と家賃の高い街に住んでいるのを、少しでも民泊でカバーできたのに、それができなくなった。なにしろ、ミッドタウンでアパートを借りればステューディオ(ワンルーム)で月3500ドルは超える。
ニューヨーク市民に次ぐ犠牲者は、ニューヨークに行く旅行者である。なにしろニューヨークのホテル代は、たとえば日本の「東横イン」クラスのホテルで200ドルは平気でする。5つ星ホテルなど、あまりに値段が高くて泊まれない。
つくづく、東京の物価は安いと思う。