【解説】「パルワールド」訴訟 割れる見解 今後を考えると静観できず
「ポケットモンスター」に似ていると指摘されていたゲーム「パルワールド」(Steam、Xbox Series X/Sなど)。開発したポケットペア(東京都品川区)に対して、任天堂が株式会社ポケモンと共同で、特許権の侵害訴訟を東京地裁に提起したと発表しました。ゲームファンの間で見解が割れていますが、整理・考察してみます。
◇訴訟は「想定内」
「パルワールド」は、不思議な生き物「パル」が暮らす世界を舞台に、プレーヤーはパルを捕まえ、育て、戦わせるなどするゲームです。今年1月の発売直後から人気を博した一方で、「ポケットモンスターのよう」という声が多く、ゲームファンの間では激論になりました。そして名指しは避けたものの、警告と取れるリリースが株式会社ポケモンからありました。そのため、今回の訴訟は「想定内」といえます。
「ポケットモンスター」とのキャラクターのデザインの類似性ですが、両作品を比較して「著作権侵害」との主張がある一方、「寄せてはいるが、著作権侵害まで問うのは難しいのでは」と否定する声で二分していました。
なぜ「難しい」かというと、キャラやゲームが似ているだけでは、著作権侵害になりづらいのです。任天堂が2000年代に「ファイアーエムブレム」の類似ゲームについて訴えたときも、「商品を混同させた」という不正競争防止法は認められたものの、ソフトへの著作権侵害は認められませんでした。
そして「パルワールド」ほどの大ヒットであれば、コンテンツを強化する動きも予想でき、7月にソニー・ミュージックエンタテインメントとの提携も発表されました。ゆえに任天堂と株式会社ポケモンが「いつ、どのタイミングで、どう動くのか」が注目されたわけです。
・「ポケモン」と類似指摘の「パルワールド」大ヒット 割れる見解と今後 エンタメの未来を揺るがす可能性も(Yahoo!ニュース エキスパート 河村鳴紘)2024/1/26(金)
・「パルワールド」新会社設立でソニーがバックに なぜ(Yahoo!ニュース エキスパート 河村鳴紘)2024/7/14(日)
◇割れる二つの見解
裁判は、対立するから起こるわけで、やる以上は勝たないといけません。そのため基本的に勝算が高い方法が取られます。今回の場合、「ポケットモンスター」に似せたという「著作権侵害」ではなく「特許権侵害」を選択したため、一部の人にはやや理解しづらく、そのため意見がずれるところもありました。ですが、見解は大きく分けて二つに分類されます。
一つは、任天堂に批判的な考え方で、「パルワールド」のゲームの面白さを評価し、そもそもゲームを似せることは珍しくないとして、「創作の自由」を重視。そして強力な特許を所有する任天堂の意向に従うしかなくなることは、健全ではないのでは……という主張です。
もう一つは、任天堂を支持する考え方で、真似の度が過ぎるというもの。人気作のブランドを利用して、フリーライド(ただ乗り)しているという批判です。この考えの根底には「ポケットモンスター」とは違う別のデザインにすれば、「特許権侵害」をするまでの大きな問題にならなかったのでは?……という指摘ですね。
「パルワールド」は、「ポケットモンスター」を思わせつつも、銃で撃つ、使役するといった、「ポケットモンスター」の世界観、イメージと異なる要素がちりばめられていました。しかし、こうしたギャップ(違い)が「ゲームとして面白い」という評価になっていたのも、また確かです。
いずれにせよ「ポケットモンスター」のイメージを“踏み台”にして、「パルワールド」の総プレイヤー数が発売からわずか1カ月で2500万を突破した事実です。単純比較はできませんが「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」の世界出荷数(2529万本)から考えると、相当の売れ行きです。今回の訴訟を受けたあとでも「パルワールド、面白いんだけどね」などという、複雑な思いを抱く人もいるのではないでしょうか。
◇今後を考えると静観できず
営利企業としては、自社のコンテンツの価値が棄損(きそん)されそうであれば、何かの手を打つのは当然のこと。特許権の行使に批判的な意見もあるようですが、仮に静観して、コンテンツ(ポケットモンスター)がダメージを受けて業績に影響することがあれば、株主から責任を追及されかねません。
「ポケットモンスター」にかなり寄せた「パルワールド」の手法を静観すると、「ポケットモンスター」の価値だけでなく、今後のゲーム開発にも大きな影響を与える可能性がありました。人気作にかなり寄せたゲームを作るのが可能なら、「スプラトゥーン」や「どうぶつの森」などのデザインに寄せて、残酷・過激なゲームを作ることもできてしまいます。今やPCでゲームが爆発的に売れる時代で、「パルワールド」も、「画面のキレイな『ポケットモンスター』」という受け取り方をした人もいそうです。
「パルワールド」の訴訟は、「特許権侵害」を巡るもので、(和解も含めて)当事者で白黒をつけるしかありません。ですが裁判の争点にはならないものの、人気作のデザインに寄せる「フリーライド」的な手法に対して、「NO」というサインになったのではないでしょうか。
要するに、訴えられた側は「創作の自由」や「面白いゲームの創出」を主張して、訴えた側はそう思わず、互いに譲らなかったということで、裁判の動向は注目されそうです。なおソニー・ミュージックとポケットペアの提携ですが、社名にソニーの名前も入れず、ジョイントベンチャーにしているあたり、権利は押さえつつも、訴訟の危険性を察知していたのかもしれません。
いずれにせよ、エンタメの未来を揺るがすような事案になったのは残念ですが、納得できる着地点を見つけてほしいと願っています。