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医学部入試男女別合格率公表〜文科省は年齢差別も調査せよ

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
入試が公平でないものだったら、努力が無駄になる…(ペイレスイメージズ/アフロ)

医学部入試緊急調査公表

 東京医大が入試で女性が不利になるよう操作を加えていたことは、大きな衝撃を与えた。

 公平であるはずの入試に操作が加えられていたこと、露骨な女性差別を行なっていたことは、受験経験者のみならず多くの人たちの怒りを買った。

 そして、女性差別を行なっていたのは東京医大だけだったのか…今多くの人たちが疑問に思っている。

 そんななか、文部科学省が医学部(医学科)の入試に関する調査を公表した。

 大学別、年齢別に男女の合格率が公開されている。

 もちろん、このデータは扱いに注意が必要だ。医学部の定員は100名強。数名の差で合格率は変わる。数物系は男性の方が得意といわれており、旧帝国大学などではその配点が高いといったことも影響している可能性がある。男女の合格率の差が全て操作によるものとは思えない。

 とはいえ、たとえば東大の進学振り分けで、理科2類から医学部医学科に進学する学生は昔から女性が多かったわけで、数物系だから男性優位という理由がどの程度妥当かは不明だ。

 また、不正は行なっていないにせよ、一部の大学では数物系の配点を高くし、女性が得意とされる英語などの配点を下げることで男性の合格率をあげたいという意図があるとも噂されている。

浪人生差別はどうなった?

 ところで、東京医大は3浪以上の受験生に加点をしないという操作をしていたことが明らかになっている。多浪生は国家試験の合格率が低いのが理由だという。

 今回発表された資料では、どの大学でも受験生の年齢があがるにつれ、男女とも合格率が低くなっていることが明らかになっている。しかし操作があったかは読み取ることができない。また、年齢が高いイコール浪人生ではない。高卒後社会人やほかの学部の大学生を経て医学部を受験する人も少なからずいるからだ。

 ただ、浪人や年齢が合格に影響しているのではないか疑われる事例がある。それは以前にも触れた群馬大学のケースだ。

 平成17年度年に行われた群馬大学の入試において、当時55歳だった佐藤薫さんは、筆記試験では合格者の平均点を10点以上も上回っていたにもかかわらず不合格になった。これはおかしいと、佐藤さんは裁判を起こした。筆記で合格点になって落ちたということは、面接点が著しく悪かったということだ。いったい何が起こったのか…。

 しかし裁判では真相が明らかにならないまま棄却され、事実は闇に葬り去られた。

群馬大は面接で何をした?

 今回の東京医大の事例をみると、年齢が面接点減点の大きな理由になった可能性がある。佐藤さんによれば、群馬大学の面接は20から30分程度、4〜5人の面接官が同時に4人を面接したというが(私信より)、そんな短時間で果たして複数の受験生の人となりを正確に判断することができるのか。

 実は私は1999年に群馬大学医学部医学科の学士編入学試験を受験したことがある。幸いにも合格したが(同時に合格した神戸大学に入学したため入学辞退)、そのときの面接試験は、企業の保養所で一泊二日で教授の方々と寝食を共にしながら面接されるという長丁場の試験だった。

 当の群馬大学自身が、人となりをみるのはそれぐらい時間をかけなければ分からないと言っており、20分の試験で不合格というのは矛盾している。

 佐藤さんは今回の東京医大の事例を契機に、林芳正文科相宛に要望書を出した。

 要望書は、2006年の群馬大学医学部医学科の入学試験の合否判定に差別がなかったことを明らかにすること、要望書を対面で出すことを拒否した理由を明らかにすることを求めている。文科省は世間で大きな問題になった女性差別に関しては、当事者の方々と面会し要望書を受け取ったが、佐藤さんたちの要望書は対面での受け取りを拒否したのだ。

 私が群馬大学を受験した際、教員から、医師として活躍するには、入学時点である程度(入学時点で30代)若くなければならないので、入学案内には医学部の教育や医師としてのトレーニングはハードだということを強調している旨の発言を聞いた。

 それは私が受験してから19年経った今もウェブサイトに掲載されいてる。

Q 私は35歳の会社員ですが、第2年次編入学には年齢制限はありますか?

また、大学を卒業して10年余りになりますが、医学部での勉強について行けるでしょうか?

A この第2年次編入学制度には、原則として年齢制限は設けておりません。しかし、志願するにあたっては、以下のような点を考慮して判断してください。

医師としてふさわしい知識を身につけるには、かなりハードな勉学が要求されることは仕方がありません。最も大切なことは、年齢ではなく、”やる気”ですが、それは体力と知力(特に記憶力)に裏付けられている必要があります。

医学部を卒業して医師国家試験に合格しても、すぐに一人前の医師として活躍するわけにはいきません。2年間の研修を含めて、最低でも10年程度の経験が必要です。

出典:群馬大学ウェブサイト

 もちろん、それは入試で差別をしていると言っているわけではないが、医学部が若い人材を求めていることをほのめかしていたといえる。

 ならば入学試験においてはその旨を明確にすべきであり、誰にでも受験資格があると言っておきながら最初から合格できないというのは詐欺だ。金返せ、人生返せ、ということになる。

 また、検証不可能な面接という隠れ蓑で差別が行われるのは問題だと言わざるを得ない。要望書によれば、裁判で面接の内容が明らかにならなかったので、佐藤さんは全人格を否定されたかのような精神的苦痛を受けたという。

 文科省は、今回調査結果を公表した女性差別だけでなく、年齢差別についても情報を明らかにし、オープンな場で医学部入試がどうあるべきか議論していくべきだ。

 要望書の回答期限は9月17日月曜日だ。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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