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なぜ保護した「スズメ」を飼ってはいけないのか

石田雅彦科学ジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 タレントのモト冬樹が2017年に野生のスズメを保護し、東京都の環境局から飼えないと指摘されても飼い続けていることが話題になっている。実は、ペット以外の野生の鳥獣(爬虫類や両生類、昆虫などは除く)を許可なく捕獲することはもちろん飼うこともできない。これについて、環境省の自然環境局野生生物課から聞いた話を中心にまとめた。

狩猟か捕獲か

 鳥獣を狩猟したり保護したりすることは法律で決まっていて、明治初期の1873(明治6)年に制定された鳥獣猟規則がその最初とされている。鳥獣猟規則は主に狩猟に関する秩序管理の維持を目的に制定された法律だったが、その後、紆余曲折を経て1918(大正7)年に狩猟できる対象鳥獣の範囲が決められ、それ以外の鳥獣は保護することにした。

 戦後になると1963(昭和38)年に「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」が制定され、現在では環境法として「鳥獣保護管理法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)」となった。この法律により、希少鳥獣以外の狩猟鳥獣(鳥類のヒナを除く)の狩猟等(捕獲または殺傷)を行うには狩猟免許(狩猟期間あり)が必要となる。

 スズメの場合、狩猟鳥獣に含まれるので、狩猟免許を取得し、毎年度ごとに狩猟前に登録をし、狩猟税(5500〜1万6500円)を納付し、法令に基づいて決められた狩猟期間中なら網やワナ猟、銃猟といった法定猟法で狩猟できる。狩猟で捕獲したスズメをどうするかは、狩猟した本人にまかせられる。焼いて食べてもいいし、飼ってもいい。

 獣害防止や個体数の調整といった理由があれば捕獲許可が出るが、都道府県知事に許可申請しなければならない(市長村長に許可権限を委譲している場合もある)。また、その対象については限定的で、対象から外れた希少な鳥獣を捕獲することは禁じられている。

 捕獲許可の場合、愛玩用としての捕獲許可は出ることはまずない。なぜなら、環境省から出された「鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針」という基本指針の中に「愛玩飼養の取扱い」という項目があり、そこに「愛玩のための飼養の目的で鳥獣を捕獲することについては、違法な捕獲や乱獲を助長するおそれがあることから、原則として許可しない。また、鳥獣は本来自然のままに保護することが望ましいという考え方に従い、その規制の強化に努めるものとする」となっているからだ。

 捕獲許可の場合、その目的は獣害防止と個体数の調整のみに限定されているといっていい。愛玩のための飼養を目的とした捕獲は原則として認められないが、野外で野鳥を観察できない高齢者などに対し、自然とふれあう機会を設けることが必要といった特別な理由があり、都道府県知事が許可することがある。ただ、これについては捕獲許可が出て飼養登録をした「メジロ」1羽のみに限定されていてスズメでは難しい。

 保護したスズメなどをそのまま飼い続けられるかといえば、愛玩のための飼養には環境大臣または都道府県知事の許可が必要(鳥獣保護管理法の第5条)となる。傷ついたスズメなどを保護し、そのまま愛着がわいてしまう、ということも十分にあり得る。この指針の中に「傷病鳥獣救護に関する考え方」という項目があり、生と死は野生生物の宿命としつつ、人道的な観点などから種の保全や多様性などへの貢献に重点を置いて「対応を検討する」とあいまいな表現になっている。

都道府県ごとにばらつきが

 以上をまとめると、狩猟免許を取得し、網などでスズメを捕獲し、飼養の登録をして都道府県知事などから飼養許可が出れば飼うことが可能だ。傷ついたスズメなどを保護し、それを愛玩目的で飼い続けるためには都道府県知事などの飼養許可が必要だが、各自治体によって対応にばらつきがあるようだ。

 例えば、筆者の地元の神奈川県では、愛玩用に許可されているメジロの捕獲許可を出していない。捕獲許可が出ていないのだから、登録販売者から正式に購入したもの以外、愛玩目的のメジロの飼養も違法ということになる。

 保護のための飼養であっても無断で傷病鳥獣を飼うことは法律で禁止されている。鳥獣保護管理法により許可なく捕獲すると1年以下の懲役又は100万円以下の罰金、飼養すると6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金というように罰せられることになる。

 野生の鳥獣については人獣共通感染症の危険性もあり、違法に飼養する人が増えれば種や多様性の保全が保てなくなる危険性もある。モト冬樹の場合、保護して育てているうちに可愛くなり離れがたくなってしまったのだろう。だが、そうした善意の人と販売目的の密猟者を区別することは難しい。

 傷ついた野生の鳥獣を保護した場合、まず自治体へ連絡し、対応を求めるべきだ。自治体が受け入れたり、獣医の診療へバトンタッチすることもある。傷病鳥獣の救護については、行政が民間のNPO組織などと連携して受け入れ、里親制度などもある事例が各自治体に多い。

 例えば、神奈川県には「野生動物救護」(2018年3月14日アクセス)のホームページがある。都道府県単位の行政機関に対し、「救護・傷病・鳥獣」といった検索ワードで探してみることをお勧めする。

 数が少なくなったとはいえ、スズメは狩猟対象48種の中に入っているので、レッドリストに入るほどの稀少生物ではない。モト冬樹のスズメは野生へ戻すように勧告されたようだが、その後、カラスやネコに襲われて食べられてしまったとしても、それは野生生物の宿命だ。厳しい表現になるが、人間に保護されなければ死んでしまうような個体は、自然界の生存競争でも淘汰されていただろう。

 死ぬことは新しい命への再生でもある。人間が自然に介在し過ぎないことは重要で、野生生物とペットは違う。スズメを含む野生生物は、野生の環境で自然のままに観察することが基本だ。

なぜスズメが減ってきたか

 ところで筆者は、スズメといえば森鴎外の『山椒大夫』(オリジナルは『安寿と厨子王』)を思い出す。物語のクライマックスにスズメが脇役として登場し、感動の再会場面を演出する。

 そんなスズメを見かけなくなったのはいつからだろう。2006(平成18)年、北海道でスズメが大量に死んでいるのが発見された。英国では、日本のスズメ(passer montanus)の近縁イエスズメ(passer domesticus)の数が減っているらしい。

 ヨーロッパのスズメはサルモネラ菌による感染症で数が減少しているようだが、日本のスズメはどうだろう。2009(平成21)年の論文(※1)によると、それまでの20年ほどでスズメの個体数は20〜50%減と明らかに減っている。また、1960年頃と比較すると10%程度にまで減っているという。

 その原因について、狩猟や駆除ではなく、長期的な減少傾向により、カラスや猛禽類による捕食、水田や空地、垣根の減少といった環境変化などの複数要因が関係しているようだ。また、ほかの研究でもスズメの減少原因は、巣作りの環境変化が大きいといった内容のものがある(※2)。スズメは狩猟対象の鳥獣だが、個体数が減少しつつある種ともいえるだろう。

※:2021/07/17:読者からの指摘で内容を一部修正しました。

※1:Osamu Mikami, "The decline in population size of the Tree Sparrow Passer montanus in Japan." Japanese Journal of Ornithology, Vol.58(2), 161-170, 2009

※2:清水美登里、「愛知県内におけるスズメ(passer montanus)の生息状況の変化」、愛知県環境調査センター所報、第44巻、27-34、2016

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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