勝った!!投打の歯車が噛み合い、待望の今季初勝利を挙げた兵庫ブルーサンダーズ(関西独立リーグ)
■公式戦 今季初勝利
みんな待っていた、この瞬間を。選手も監督も関係者もファンも―。
8月12日、三木総合防災公園。最終回、1死一、二塁で小牧顕士郎投手が打者を併殺打に打ち取ると、途端にナインの笑顔が弾けマウンドに輪ができた。ベンチからも歓喜の声が上がり、一塁側は一瞬にしてお祭り騒ぎとなった。
兵庫ブルーサンダーズ、開幕9試合目にして初めての勝利の瞬間だった。
愛弟子たちの喜ぶ姿を見ながら、橋本大祐監督は静かに微笑んでいた。
「嬉しい…というよりホッとした感じかな」。
開幕から7連敗し、前日に引き分け、9試合目にしての初勝利だった。これまで敗戦後も決して声を荒らげることなく、穏やかに見えた。しかし橋本監督の心の内ではメラメラと炎が燃えたぎっていたのだ。
「見えないかもしれないけど、実は僕、めちゃくちゃ負けず嫌いなんで(笑)」。
精一杯やっての敗戦は責めない。だが、気のないプレーは許すわけにはいかない。本当に「勝ちたい」という闘志はあるのか。「もっと野球がうまくなりたい」という意欲はあるのか―。
監督からの問いかけに、選手たちは奮起した。目の色が変わった。チームの雰囲気もガラリとよくなった。そんな中での初勝利は、勝つべくして勝ったともいえる。
■悔しさをバネに打った濱田勇志選手
殊勲打は濱田勇志選手だった。1-1と同点に追いつかれた六回裏の2死満塁、代打で打席に立つと“読み”が冴えた。スライダーを狙っていた濱田選手は、初球の真ん中チェンジアップにはピクリとも反応しなかった。
「それで僕がチェンジアップは待ってないやろうと考えたと思う。そこで切り替えてチェンジアップ狙いにした」。
ボールを1球挟んでの3球目、読みどおりに来たチェンジアップをみごとにとらえてレフト前に運び、2人の走者を迎え入れ勝ち越した。してやったりだ。
「僕だけっすかね。こうやってポンって出されたほうがスイッチが入るっていうか…」。
守備からリズムを作るという選手が多い中、濱田選手の場合はここぞという場面で一気に気持ちをマックスに上げられる。代打の適性があるということだろうか。
橋本監督も「濱田は野球をよく知っている。ベテランらしい読みで期待に応えてくれた。代打の1打席目でけっこう打つし、ああいう場面ですごく集中する」。
そう言ったあと、「あんな感じだけど、スタメンで出られないっていうのも悔しいと思う」と付け加えた。
そうなのだ。これまでは不動のレギュラーだった。しかし北海道遠征(非公式戦)の2戦目から定位置を明け渡し、ベンチに控えている。
「そりゃ悔しい。ホントはじーやん(藤山大地選手)がセンターにおったらあかん。ピッチャーもやって打撃もやって走って、負担が大きくなる。僕がやったら一番楽に進むと思うけど…」。
濱田選手がかつて堅守していたポジションには“二刀流”の藤山選手が立っている。そしてそうなったわけももちろん、自身でわかっている。
「僕が全力疾走しなかったから、北海道(の1戦目)で。そこからスタメン外されて…」。
悔しさ、歯がゆさ、申し訳なさ…。さまざまな思いが渦巻く中で、それでも自分のできることをしっかりやるしかないと心に決めた。代打でも自分にしかできないことをやる。
「ベンチで単に試合を見てるわけじゃない」。
ブルペンで自軍の投手の球を見て目慣らしをし、相手バッテリーの配球を考える。カウント球は何で取るのか、自分が狙うなら何か。試合経過を見ながら体を動かし、バットを振る。頭と体の両方の準備をし、“そのとき”に一気に集中する。
「今日みたいな読み、それがおもしろいっす。今日は僕が打ったことより、チームが勝ったことが嬉しい」。
読みがドンピシャでハマり、チームの勝利に貢献できた。そのことが濱田選手を笑顔にさせた。
これまでの野球人生でもなかったという7連敗。しかしその中で濱田選手自身も悩み、もがき、そこから少しずつ答えを見出してきた。
「だいぶ成長できた、この1年で」。
今後も後輩たちの手本になるべく、全力でプレーすることを誓っていた。
■三度目の正直となった先発・清水健介投手
投手陣も踏ん張った。3投手で繋いで2失点でしのいだ。
先発は清水健介投手だった。ここまで2試合に先発し、いずれも連弾や連打で初回に2点、3点と失点し立ち上がりを課題としていたが、この日は見違えるようなピッチングを見せ、7回7安打2失点で初勝利を手にした。
小山一樹捕手ともじっくり練り、序盤はストレートとスライダーを中心に組み立て、一巡すると攻め方を変え、カーブやチェンジアップなど多彩に織り交ぜて緩急を使った。終始低めに制球された球は、和歌山ファイティングバーズ打線に的を絞らせなかった。
「2試合は不甲斐ないピッチングで悔しい思いがあった」。
その悔しさを払拭するべく上がったマウンドで、本来の姿を見せた。
受けた小山捕手も「テンポだったりコントロールだったり、清水さんらしいピッチングだった。リードしやすかったし、清水さんがいいリズムで投げられるように、打撃にいい流れが来るように、僕もすぐ返球するよう心がけた」と、懸命にバックアップした。
橋本監督もこれまでの立ち上がりの悪さを指摘し、「今日は慎重に入れていた」とうなずく。
「高めにいかず、低め低めにいっていた。三振が取れるタイプじゃないんで、小山がうまくリードしてくれたかな。過去2試合も立ち上がりは悪かったけど、そのあとはある程度抑えていたんで、立ち上がりさえうまく入れば五回くらいまではいくかなと思っていた」。
予想を超えて清水投手が七回まで投げてくれたことで、そのあとの中継ぎ陣のやりくりも楽になった。
しかし清水投手もこれで満足しているわけではない。「もっとキレもコントロールも精度を上げていきたい」と、レベルアップした姿で次回も腕を振る。
■自己研鑽に励む來間孔志朗投手
八回からは継投だ。まず登板したのは前日からの連投となった來間孔志朗投手。けれん味のないピッチングでバッターを押し込んでいく。
「実はちょっと体が重くて…」。
北海道遠征を入れると3連投となる。ブルペンでも思うような球が投げられていなかったと明かす。
しかし、そんな中でもしっかり仕事はする。ランナーを1人出すものの、落ち着いた投球で0を刻んでマウンドを降りる。
「ゾーン内で勝負するように。ある程度の場所にうまく決まればって感じで。あとはカウントを作ることだけを考えているんで」。
また、自分なりにコンディショニングも考えている。疲労を解消するべくジムで交代浴をしたり、ストレッチを多めにしたり、さらにはネットなどでも研究に余念がない。
橋本監督も「球自体は悪くない。來間は頭もいいし、野球に対する取り組み方もいい。トレーニングも自分のものをしっかり持っているし、今のところすごくいい方向に向いている」と、全幅の信頼を寄せる。
今後に向けて來間投手も「もう少し奪三振率を上げたい。中継ぎなので、点を取られない、取られにくいという面で」と、さらなる高みを目指す。
8月12日現在、奪三振率は7.00だ。(北海道遠征を含む)
「まずはカウントを作ること。その次の目標として決め球をしっかり決めること。それがうまくいけば、奪三振率は上がってくるのかなと思っている」。
意識を高く持っている來間投手だからこそ、自身のやるべきことがしっかりと見えている。
■小牧顕士郎投手はパワーピッチで抑え込む
最終回は2連投の小牧顕士郎投手だ。7月9日以来の登板からの2連投は橋本監督も心配はしたが、みごとに応えてみせた。ランナーは出したが、最後は併殺打に打ち取ってチーム初勝利を呼び込んだ。
だが、自身のボールに納得はしていない。
「球のキレがちょっと悪いかなっていう感じがする。もうちょっと体を動かしていきたい」。
在籍する芦屋大学がコロナ禍で活動休止をしたこともあり、チームメイトより長い自粛を余儀なくされた。人との接触を避けながら工夫して練習をしてきたが、それでも満足にできたとは言い難い。今は「もうちょっと体を動かして、本調子に戻していきたい」と前を向く。
ブルペンから相手打者をイメージすることを大切にしているという。試合展開を見ながら、当たるであろう打者とまずは頭の中で“対戦”し、しっかりと“抑えて”からマウンドに上がる。この日もイメージどおりの変化球でカウントが整えられた。
橋本監督にとっても「ボールに力がある。まっすぐで押せていた。昨日はほぼまっすぐだけ、今日は変化球でもストライクが取れていた」と、さらに信頼感が増したようだ。
コロナ禍でのチームの活動自粛により7月の試合が延期され、8月は試合数が多い。今後さらに小牧投手の登板機会は増すだろう。
「ちょっとずつ体を慣らしてキレを出していきたい。体調を崩すことはないので、いつもどおりに…あ、昨日は鰻を食べました!スタミナがついたかな(笑)」。
マウンドで仁王立ちするいかつさとは裏腹の、あどけない笑顔でおどけた。
■打撃絶好調の小山一樹捕手
投手陣をリードした正捕手・小山一樹選手は、昨年からドラフト候補として注目を集めている。今季は不動の「4番・キャッチャー」として、バッティングがすこぶる好調だ。
「4番なんで間を抜いてとか、外野を越えて長打で1点っていうのが理想ではあるけど…。本来4番に座るバッターならそういう気持ちでいいのかもしれないけど、自分は繋ぎで」。
「なにがなんでも自分が決めてやる」というより、後ろに繋ぐという流れを大切にしている。
今季は右方向の打球が増え、広角に“うまい”バッティングを見せている。
「去年はそういう打撃があまりできていなかったけど、今年はそれを課題にして、センターから右方向を意識している。来た球に逆らわずに、しっかり強く振る」。
それが好調の要因のようだ。
この日は六回、背中に死球を受けた。「息ができなかった」というほどの衝撃だったが、即座に起き上がると一塁へ向かう途中で自軍のベンチに向かって「よっしゃー!いくでぇーっ!」と拳を突き出した。
「どんな形でも出塁できたんで。痛かったのもあるんで、吹き飛ばす意味でも自然に出ました(笑)」。
それで一気にベンチも盛り上がり、そこから濱田選手の決勝打に繋がった。小山選手の明るさが流れを呼び込んだのだ。
副キャプテンとしても、しっかりとチームを引っ張っている。それだけに開幕7連敗は堪えたようだ。
「こんなにも勝つっていうことが難しかったことは、自分の今までの野球人生でもなかった。今日はみんなで一気にいけた試合だったんで、素直に嬉しかった」と笑顔を弾けさせたあと、すぐに表情を引き締めた。
「また次の試合に向けて一気にいけるように。このまま流れに乗ってやっていきたい」。
もうすでに、その目は次戦に向けられていた。
■連勝街道を驀進する
開幕当初は投手が抑えると打線が打てない。打線が活性化してくると、今度は投手が点を取られるという噛み合わせの悪さが見られたが、ここへきてようやく投打の歯車が合致しだした。ベテランと若手のバランスもよくなり、チーム状態は明らかに上向きだ。
たかが1勝。されど1勝。この1勝はブルーサンダーズのこれからの躍進のきっかけになるだろう。
「ここから堺との4連戦。できれば3勝1敗でいきたい」と、橋本監督も首位を独走する堺シュライクスとの戦いへ向けて、鼻息荒く語る。
そしてこの翌試合の対シュライクス戦でシーソーゲームを制して2勝目を挙げた。
どっちに転んでもおかしくない試合展開で、最後まで誰ひとり諦めずに戦い抜いた。今のチーム状態なら負ける気はしない。
兵庫ブルーサンダーズはこのまま連勝街道を驀進していく。
(表記のない写真の撮影は筆者)
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