主力のプラグインハイブリッドに試乗! 中国の自動車メーカー、BYDの衝撃/後編【動画アリ】
中国・深センを本拠地とする自動車メーカー、BYD。8月末にここを訪れた筆者は、同社の主力モデルである「唐(tang)」という名のプラグインハイブリッドSUVを試乗する機会を得た。
BYDについての一通りのレクチャーが終わり、クルマの説明を受けたあと、いよいよ試乗となった。試乗場所はあくまでも簡易的な直線路。だが、ここに行くまでに敷地の中を通って約10分くらい車で移動したのだが、そのほとんどの部分が工事中であり、この会社が目覚ましい勢いで成長していることを痛感した。
試乗場所につくと、唐は既に用意されており、好きに試乗して良いとのこと。そこで早速試乗、ということになるのだが、僕は試乗前のこの時点で本当にすごいことだな、と思っていた。
なぜならBYDの、自動車メーカーとしての歴史はわずかに14年しかないのである。
しかし目の前には、主力車種であるプラグインハイブリッドのSUVがある。欧州で130年以上が経っている自動車の歴史があり、その後の米国や日本での自動車の歴史があり…そうした歴史と比べれば、BYDの歴史は一瞬でしかない。が、目の前には、世の中のトレンドを全て押さえたプロダクトが堂々と鎮座している…、見た感じは流行りのクルマがそこにあるだけだが、そうした背景を考えると、これは尋常な状況ではない。
そういえば、BYDに来る前に深センの街中を見ている時に、深センを案内してくれた友人がこんなことを言っていた。
「彼らにとって、電話というものはほぼイコールでスマホであって、それしか知らない。固定式電話を生活の中で使っていない人の方が多いかもしれない」
なるほど事実は確認していないが、本当にそうだとしたら、すんなり納得がいく。そういう時代だし、そうした中でいま必要なものが生み出されているのである。それは自動車でも同じで、自動車を生んで育てた欧米へのリスペクトやスタイルなどよりも、どんな魅力を持ったイマドキのクルマか否かの方が遥かに重要だろう。
唐は205psを発生する2.0Lの直列4気筒直噴ターボ・エンジンを搭載し、6速のツインクラッチ式トランスミッションを備える。そしてフロントとリアに、150psを発生するモーターを1基ずつ備えている。
ボディサイドには542というエンブレムが与えられているが、これはBYDが今後実現するスペックを数字に置き換えたもの。
5は0−100km/h加速が5秒以内を示し、唐は実際に4.9秒の実力を誇る。そして4は4駆を意味し、2は100kmを2.0Lで走れる燃費を意味する。つまりリッター50km/Lということだ。唐が搭載するバッテリーは約22kWhで、航続距離は100kmを実現しているという。
まずはEVモードで加速を試してみる。この辺りは動画の方がよく伝わるだろう。
走らせて印象的だったのは静粛性の高さ。モーターの音などがもっと響いいてくるかと思いきや、想像以上に遮音がなされていた。またちょっと動かしただけで本格的なハンドリグは試していないが、ステアリング・フィールなども悪くなかった。
そして停止状態から加速。EVモードで伸びやかに加速していく。いわゆる欧米や日本のEVなどとも変わらない感覚だった。
次はエンジンとモーターによる加速を試してみた。これも動画で見ると音声が入っているが、スタートからかなり勢いがあり、その後シフトアップした際にホイールスピンしている音が確認できる。つまりそれだけパワフルである、ということ。もっともこれはイコールで制御の荒さとも捉えられるが、筆者としては随分とパワフルだなという印象の方が強かったのだった。
この試乗は短時間で、街中等では試していないのであくまで味見に止まるが、それでも印象としては想像以上だったことは間違いない。要はそのくらいの完成度は見せていたし、内外装のクオリティも国産メーカーに匹敵するレベルにあると思えた。
またさすがにスマホやPC等に強い会社らしく、コネクティビティは充実しており、大きなディスプレイのマルチメディア画面は扱いやすかった。さらに中国らしいのはPM2.5メーターを備えており、大気汚染のレベルをモニタリングして表示してくれる機能も有していた。
そして強烈なインパクトだったのが、既にこのモデルでクルマの外からのリモートパーキングを実現していた点。スマート・キーをスライドさせると十字キーがでてきて、これを操作することで外にいてもクルマを動かすことができる。これは日本の自動車ではまだ実現されておらず、輸入車の一部で実現されている機構。そうしたトレンドもいち早く取り入れていたのだった。
それにしても返す返す衝撃的なのは、これが自動車メーカーとなってわずか14年で作られたクルマなのか? ということ。そこに感じる脅威はとてつもなく大きい。
というのも、みなさんもご存知のように世の中的には、いわゆる「EVシフト」の流れが生まれている。欧米、特に最近では欧がディーゼル離れしつつある状況からか、より強くEVシフトを表明しつつある。ボルボがそのラインナップを全て電動にすると宣言して以降、フランスやイギリスのガソリンエンジンとディーゼルエンジンの販売禁止表明。フランクフルトショーにおけるドイツブランドのEVシフト宣言などなどが注目された。さらにインドや中国もEVシフトを謳い…といった具合で、世の中の流れはEVという風潮が生まれた。
生き残りをかけていち早く宣言を行なう自動車メーカーや国家の狙いは、エネルギー政策との兼ね合いや、他国との関係を考えた上でのイニシアチブ獲得のためや、環境改善のため、そして当然のように政治が強く絡んでいるため、実に様々なレイヤーでの事情と思惑が複雑に絡み合っている。
もちろん、そうはいってもいきなりEVが数百万台、数千万台とはならないが、それでも世界中に広がるEVシフトに加えて、こうしたBYDのようなEVを主軸にしていくだろう自動車メーカーの勢いを見ていると、世の中がその方向に動くだろうと思えて来る。
しかも世界の自動車生産量を見ると現時点で既に、中国2812万台、米国1220万台、日本920万台、ドイツ606万台という並びになっており、中国がいかに巨大な市場であるかがわかる。しかも中国市場はさらに拡大中であり、この最大市場の方向性がEV…となれば、欧米も当然ここでビジネスを展開することに躍起になる。事実VWはフランクフルトモーターショーで、2025年までに300万台のEVを送り出すと謳ったが、その半分の150万台は中国で…とエクスキューズしているほど。またトヨタも2019年に中国でEVを量産することを検討している、と言われている。
つまり中国は世界中の自動車メーカーにとって魅力的な市場であり、ここを席巻するにはEVが必須ということ。
そうした事情を考えると、好むと好まざるに関わらず、世界的な流れはEVにあるといえるだろうし、この市場がEVシフトの要因のひとつともいえるわけだ。
もっとも日本市場においては、既に日産は2代目となるリーフを送り出す段階であるし、トヨタが送り出したハイブリッドは当たり前の存在となり、数えてみると国内メーカーには約60車種ものハイブリッドモデルが存在している。そしてこれは、いわゆる最近の海外メーカーや欧州の国家が謳っている電動車の括りに入るもの。そう考えると日本は、こと電動車に関しては普及がかなり進んでいる国でもあることに気づかされる。
それだけに、世界的にEVシフトが敷かれ、電動化が叫ばれている中で、日本メーカーの対応は遅れているのは? と記すマスコミもあるが、決してそうとは言い切れない状況でもあるのだ。
もちろん、ピュアEVに関してプロダクト的には日産リーフ以外は手薄な感じの現状だが、この点に関しても世界の市場の流れに反応する形で、そう遠くない時期に日本の他メーカーからもEVが続々投入されていくだろう。
しかしながら、こうした世の中の動きによってガソリンエンジンやディーゼルエンジンが消えていくわけではないことも、勘違いしないようにしておきたい。
先にも記した通り、EVシフトとはいえ一挙に全てが変わるわけではなく、従来のガソリン・エンジンやディーゼル・エンジンもハイブリッドやプラグインハイブリッド、EVなどと共存していくことになる。また同時に用途によってはこれまでのエンジンを搭載したクルマの方がメリットがあるという意味で、まだまだ選択肢として残ることも間違いない。
とはいえ、今回BYDを訪れて、レクチャーを受けて実際のプロダクトに乗った感想からすれば、世界の自動車の流れがある方向に傾きつつあること。同時に特に中国の自動車メーカーが、一足、いや二足飛びくらいの勢いで成長と進化を果たしているため、そうそうゆとりをもって未来を考えている場合でもないとも思えるのが実際であるし、何かの要因で急速にEVシフトが加速すれば、そこには対応せざるを得ないだろう。
EVが増えることで参入障壁が下がり、他業種からの参入も…という見方に対し、これまで自動車メーカーが培ってきたノウハウや、パワートレーン以外の部分での技術はそう簡単に越えられない、とする自動車業界側の意見もある。
が、筆者としては今回の取材を経て、確かに長年に渡って培ったノウハウや技術ではあり、これをすぐに実現するのは難しいだろうが、巨大な資本さえあれば、そうしたものは一瞬で獲得されてしまうだろうということも感じた。
そういう意味でも中国の自動車メーカー、BYDの勢いの強さには、今後の自動車の様々を考えさせるものがあったのだ。
筆者のYouTubeチャンネルLOVECARS!TV!の生放送において、BYDを特集した回のアーカイブはこちら↓