イーロンマスクは X を商標登録できるのか?
「ツイッター、ロゴを"X"に変更へ 青い鳥に別れ=マスク氏」という記事を読みました。ツイッターという名称を完全に使用しなくなるのかどうかはわかりませんが、ツイッターという長期間の使用により広く親しまれたブランドからわざわざ距離を置くということは、ブランド戦略という観点からは正気の沙汰ではないように思えます。
と言いつつ、ここでは、新たなブランド”X”の商標登録可能性について見ていきましょう。一般にブランドを決めるときには憶えやすさやイメージ等に加えて商標登録がしやすいか(および、他人の商標権を侵害しないか)といった面から検討するのですが、たぶんマスク氏はあんまり考えてないと思います。その点ではMETAでブランド統一しようとしたザッカーバーグ氏と似ています。
まずは、日本国内について検討します(日本はツイッターのユーザー数が多いので重要です)。標準文字商標の場合はどうでしょうか?
日本では、審査基準上、英字1文字(および2文字)からなる商標は「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」として拒絶されます。法文上は、使用による識別性(セカンダリーミーニング)を獲得していれば登録され得ますが、さすがにハードルは高く、今、調べたら英字1文字の標準文字で日本国内で登録されたケースはありませんでした。
次に、ロゴとしてデザインが施された場合です。
この場合には、要するに図形商標として判断されますので、類似先登録があるといった拒絶理由がなければ登録可能です(デザインが単純すぎて標準文字と実質上同じとされると「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」とされる可能性はありますが)。これは、たとえば、マクドナルドのロゴ(Mの1文字のデザイン)(下図左)が商標登録されていることを考えれば明らかです。
比較的標準文字に近い商標で登録されているXの1文字商標の例としては、X Japanの改名前の名称である X が事務所により登録されています(下図中)。また、スポーツ用品チェーンのゼビオのマークも登録されています(下図右)。かつてツイッターとして知られたSNSであるXのロゴはデザイン次第ではこれらの商標に(標章として)類似し得ますが、指定商品・役務が異なるので、登録は可能かと思われます。
なお、米国の場合は、英字1文字だから登録しないといった規定はなく、商標として識別性があるかないかの一般的ルールで判断されます。結果的に、標準文字のXで登録されているケースはあります(たとえば、バイオテクノロジ企業のPrecigen, Incによるもの)(商品・役務が異なるので元ツイッターのXの登録可能性に影響を与えることはありません)。しかし、日本と米国では何とかなるとしても、今後世界各国で商標登録していくのだとすると、その大変さはMETA社の場合の比ではないのではないかと思います。
また、商標の話を離れて、社名の話になりますが、現在米国法人のtwitter inc.はX Corp. に吸収合併され消滅していますが、日本法人のTwitter Japan株式会社は存続しています。仮に、今後、Twitter Japan社がX Japan株式会社に名称変更すると、まさに、バンドのX Japanとかぶってしまいます。もしそうなったとしても、社名としての使用だけであれば商標権侵害にはならないのですが、不正競争防止法でもめる可能性はゼロではないでしょう。
追記:本記事のアップと入れ違いにロゴが発表されました。ずいぶんミニマルに攻めたなという印象です。ざっと調べた限りでは、日本と米国では大丈夫そうです(常識的に考えて商標調査の上で決めたのだと思いますが、マスク氏の場合、「常識的に考えて」というロジックが通用しないことがあるので何とも言えません)。しかし、やはり世界各国での登録となると大変そうな気がします。