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【4/12更新版】新型コロナウイルスワクチンによる妊娠への影響はある? 最新情報まとめ

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

新型コロナウイルスへのワクチン接種が世界中で進んでいます

世界中で感染が拡大する新型コロナウイルス。

しかし、重要な対処法としてワクチンが接種可能な段階となり、世界中で接種が進んでいます。

2021年4月12日時点で、ワクチンの接種回数は、世界163カ国・地域で累計7億1100万回を超えたとされています。(文献1)

接種人数の絶対数では、米国、中国、インド、英国、ブラジルが上位5カ国となっています。

人口あたりの接種割合が最も高い国の一つであるイスラエル(人口約920万人)では、2020年12月から高齢者優先で接種が開始されました。その後、16歳以上の全住民に対象が拡大され、2021年3月時点で国民の60%が1回以上接種し、50%が2回接種済みと報告されています。

ワクチンの有効性について

なお、ワクチンの有効性については、ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社のワクチンにおいて、発症予防効果が約95%と非常に高いことがわかっています。(文献2,3)

また、重症予防効果もそれぞれ89%、100%と非常に高いというデータが報告されています。(文献2,3)

イスラエルでは、初回の接種を終えて2週間以上経つと、新型コロナウイルス感染の陽性者が75%減少、症状のある新型コロナウイルス感染患者は85%減少していることも報告されました。(文献4)

ワクチンの安全性について

なお、安全性についても非常に多くのデータが蓄積されてきており、現時点では「接種するメリットを考慮すれば十分に安全だと考えられる」とされています(だからこそ世界各国で接種が進んでいます)。

安全性や副反応に関しては「こびナビ」のウェブサイトもご参照ください。科学的根拠に基づく情報が非常にわかりやすくまとめられています。

ワクチンによる現在・将来の妊娠への影響は?

ワクチンの有効性と安全性を検証したワクチン開発時の臨床試験には、基本的に妊娠している人が含まれていませんでしたので、「妊婦への影響」に関する厳密なデータは得られていません(通常、倫理的配慮からこのようにして臨床試験は実施されることがほとんどです)。

また、「将来の妊娠への影響」に関しても、接種して数年から十数年経過しなければ厳密なデータはわからないと言えるでしょう。

しかし、今現在でも妊娠している人や、すぐに妊娠を希望している人、将来は妊娠したいと思っている人などが世界中に存在します。

このため、現状で得られる情報を総合的に考慮し、なるべく客観的にメリットとデメリットを踏まえて接種するかどうかの判断をすることが必要になります。

(1)妊娠している人への影響

妊婦さんに関しては、各国政府や専門機関がそれぞれ公的な見解や提言等を出しています。それぞれの表現にやや違いはありますが、日本、米国、英国、カナダなどの見解をまとめると以下の通りです。(文献5-9)

・妊娠や胎児へ悪影響を与える可能性は非常に小さいと考えられる(基礎研究や過去のワクチンに関する知見などから)

・妊娠していることを理由に接種対象から除外するべきではない

・妊娠しており、かつ感染や重症化のハイリスクグループ(医療従事者や基礎疾患を持つ人など)であれば接種を考慮する

なお、前回の記事(2/25)を公開後、これらの見解に大きな変更はありませんでした。

米国CDCの「ワクチン接種を受けた人の登録データベース(V-safe)」には、2021年4月5日時点で、77,000人以上の接種済みの妊婦さんが登録されています。(文献10)

その中で、懸念すべき有害事象等が現時点で認められていないことが、妊婦さんへの接種を中止するなどの動きになっていない大きな理由と考えられます。

まだ十分なデータがない現状では、最終的な接種の判断は個々人に委ねられていますが、上記のように世界各国で、「妊娠中でも明らかに大きな悪影響があるとは考えにくく、妊娠中の感染では重症化や死亡のリスクが高まることを考慮すれば、接種するメリットは十分にあるだろう」と考えられているのです。

妊娠中の接種をするか判断する際には、「妊婦は感染した場合の重症化・死亡リスクや、早産となるリスクが高まる」「使用できる治療薬に制限があり選択肢が少ない」といったことを踏まえ、「接種しないことのリスク」も併せて考えるべきだろうと思います。

なお、「妊娠中に新型コロナウイルスワクチンを接種すると、臍の緒の血管内にも抗体が検出された」ことが報告されました。(文献11)

これはインフルエンザワクチンと同様で、妊娠中のワクチン接種により、生まれたばかりの赤ちゃんを守ってあげる効果を得られる可能性が期待できます。

妊娠中の方は、接種するべきかどうかについて、ぜひかかりつけの産婦人科で医師と相談してみてくださいね。

(2)将来の妊娠への影響

それでは、今は妊娠していなくても今後の妊娠に与える影響についてはどうでしょうか。

ワクチンによる「妊娠能力への影響」について、米国や英国の産婦人科専門機関は、過去の知見や作用機序、安全性プロファイルをもとに、「妊娠能力に影響は与えないと考えられる」としています。(文献7,12)

また、妊活中の方について、米国CDCやACOGは、

・ワクチンのために妊娠を遅らせる必要はない

・妊娠に気づかず超初期にワクチン接種をした場合でも影響が起こるとは考えにくい

・ワクチン接種前に妊娠検査をする必要性はない

としています。(文献6,7)

SNS等では「新型コロナウイルスへのワクチンによって不妊症になるかもしれない」といったような情報が一部で流れていますが、そのようなことを示唆する科学的根拠は報告されておらず、上記のように各国の公的機関は総じて不妊症への懸念を示していません

ぜひ、正確な情報をもとに接種の判断をしていただければと思います。

*本記事の内容は4/12時点で得られた情報に基づいています。日々更新される可能性があるため、なるべく下記リンク等から最新情報をご参照ください。

参考文献

1. 日本経済新聞.

2. N Engl J Med. 2020;383:2603-261.

3. N Engl J Med. 2021;384:403-416.

4. Lancet. 2021 Mar 6;397(10277):875-877.

5. 厚生労働省.

6. 米国CDC.

7. 米国ACOG.

8. 英国NHS.

9. カナダSOGC.

10. 米国CDC. V-safe.

11. Am J Obstet Gynecol. 2021 Mar 24:S0002-9378(21)00187-3.

12. 英国 British Fertility Society and Association of Reproductive and Clinical Scientists.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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