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年末年始は「空き巣」に注意 留守の家、守りを固めるポイント

小宮信夫立正大学教授(犯罪学)/社会学博士
(写真:アフロ)

年末年始は、ふるさとに帰省したり旅行に出かけたりして家を空ける人も多い。長期間の留守は、泥棒にとっては空き巣をする絶好の機会となる。留守中、家の守りを固めるにはどうすればいいか。

ローマ帝国の滅亡は無施錠から?

まずは、「鍵掛け」を徹底することが、空き巣防止の1丁目1番地だ。2019年のデータ(認知件数)によると、空き巣犯の約4割は、鍵のかかっていない住宅を狙ったという。無施錠という「無防備」が被害を生んでいるらしい。

そういえば、1000年の長きにわたって難攻不落を誇った、東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルの大城壁が、オスマン帝国によって侵入されたのも、城門の鍵のかけ忘れがきっかけだったという。

コンスタンティノープル(現在のトルコ・イスタンブール)にある三重構造の城壁(筆者撮影)
コンスタンティノープル(現在のトルコ・イスタンブール)にある三重構造の城壁(筆者撮影)

それはともかく、無防備、言い換えれば、防犯意識の低さは、日本人の特徴だと繰り返し指摘されてきた。「平和ボケ」「危機管理音痴」「安全神話」「犯罪天国ニッポン」という言葉も飛び交ってきた。

この点に関して、作家の浅田次郎氏が面白いことを書いている。

「日本の常識からすると、物がなくなったときに『盗られた』と断定するのは悪いことで、現実にもそのケースは少ないから、たいていは『落とした』か『紛失した』と考える。しかし外国では『盗られた』と考えるのが常識である。ただし盗るほうよりも盗られたほうが間抜けだという常識もある」「おそらく外国人から見たわれわれは、よほどボーッとしているのであろう」と。

どうやら、「安全はタダ」という信仰から抜け出すことが先決のようだ。その上で、次に最もポピュラーな侵入口である「窓」の守りを強化する必要がある。2019年のデータによると、空き巣犯の約4割は窓ガラスを割っている。そうした手口を防ぐには、「窓に補助錠や面格子をつける」「雨戸やシャッターを閉めておく」といった対策が有効だ。

機会が「空き巣」を作る

前科百犯の大泥棒も、目にした家に片っ端から侵入するわけではなく、空き巣が成功しそうなときに触手を伸ばす。英語のことわざにも、「機会が泥棒を作る(Opportunity Makes the Thief)」というものがある。

とすれば、犯罪者は場所を選んでくるはずである。なぜなら、場所には、犯罪が成功しそうな場所と犯罪が失敗しそうな場所があるからだ。そのため、犯罪学では、どういう場所が犯罪者から選ばれやすいのか、その条件が研究されてきた。

こうした研究は、犯罪の機会(チャンス)に注目するので、「犯罪機会論」と呼ばれている。研究結果として、犯罪が起きやすいのは、犯人が「入りやすい場所」と、犯行が「見えにくい場所」であることが分かっている。つまり、空き巣の標的になるのは、「入りやすく見えにくい家」なのだ。

自分が空き巣だったら、どこから侵入するか。そうした犯人目線で、家の周囲から侵入口になりそうなところを探すと、意外なルートが見つかるかもしれない。

電柱、エアコンの室外機、物置、カーポートなどが2階への侵入経路にならないか(入りやすいか)、雨どいを伝わってマンション上階のベランダに降りられないか(入りやすいか)、ブロック塀や生け垣が通行人や隣家からの視線を遮っていないか(見えにくいか)、といったことなどがチェックポイントだ。

大掃除などで、ごみを多く出すときには、「放火の機会」を与えないように、燃やされやすいものを「入りやすく見えにくい場所」に置きっぱなしにしないことも重要だ。

入りにくく見えやすくする

「入りやすく見えにくい家」が狙われやすいのであれば、対策は「入りにくくする」「見えやすくする」ということになる。

前述した「鍵掛け」や「窓の堅固化」は、入りにくくする対策だ。

ほかにも、見えにくい場所に作られることが多い勝手口を「ワンドア・ツーロック」にしたり、雨どいに「忍び返し」を設置したりすれば、入りにくくなる。

ルクセンブルクの旧市街にある防犯仕掛け「忍び返し」(筆者撮影)
ルクセンブルクの旧市街にある防犯仕掛け「忍び返し」(筆者撮影)

コンクリート塀をメッシュフェンスにリフォームしたり、生け垣を低くしたりするのは、家の状況を見えやすくする対策だ。

家の周りに人が歩くと足音が出る砂利を敷き詰めれば侵入に気づきやすくなる。また、道路沿いに花壇を作れば通行人の視線を呼び込みやすくなる。これらはどちらも、犯人の行動を見えやすくする対策だ。

もちろん、防犯カメラ、センサーライト、モニター付きインターホンも、犯人の姿を見えやすくする。

こうした個別的防犯(マンツーマン・ディフェンス)だけでなく、集団的防犯(ゾーン・ディフェンス)の発想からも対策は考えられる。例えば、近所同士で「留守中よろしく」と声を掛け合えば、家も地域も「見えやすい場所」になる。

防犯とは、だまし合い

せっかく家の守りを固めたのに、犯罪に成功しそうだと思わせる情報を泥棒に与えては、対策が台無しになりかねない。

例えば、「明日から実家に帰省」「ふるさとで旧友と再会」「久しぶりの家族旅行」といった文章や、帰省先・旅行先の写真・動画をSNSにアップすれば、「しばらく留守にします」というメッセージを発信したことと同じになってしまう。

アップしたければ、送信する相手を慎重に選んだり、「やっぱり旅行は楽しかった」というように「過去形」で投稿したりすることで、「犯罪の機会」を与えずに済む。

長く外出するときは、泥棒に「長期留守中」の情報を与えないために、郵便や新聞がたまらないようにしたり、どこか一カ所、室内の照明をつけっぱなしにしたりすることも大切だ。

『孫子の兵法』には、「兵とは詭道なり(争いとはだまし合いである)」というフレーズがある。防犯も、だまし合いである。

泥棒は、普通の服装で、自然に振る舞いながら、空き巣の下見をしている。それを見破るのは至難の業だ。しかし、逆に泥棒に偽りの情報を与えることはできる。だましてやろう作戦も、立派な防犯である。

中国・蘇州市にある「孫武苑」で展示されている『孫子の兵法』(筆者撮影)
中国・蘇州市にある「孫武苑」で展示されている『孫子の兵法』(筆者撮影)

孫子は「攻め」よりも「守り」を重視する。「負けにくいかどうかは自分の努力次第だが、勝ちやすいかどうかは相手の出方次第だから」という。つまり、同じ努力をするなら、その成果が出る確率の高い「守り」に傾注すべきというわけだ。

孫子のアドバイスに従って、家の守りを固めれば、「百戦危うからず(何度争っても危険はない)」になるに違いない。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士

日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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