韓国 尹錫悦新政権との日韓関係 知っておきたい「左派の反日、右派の反日」
「反日が収まったら、また韓国に焼き肉でも食べに行きたいな~」
コロナ時代の前には、アラフィフ同士の飲み会などでよくこういった話を聞いた。2019年8月に韓国で「NO JAPAN運動」が起きて以来、ちょっと怖くて行けないという。まあその頃にも10代、20代の女子は意に介さず「おしゃれな国」に行きまくっていたのだが。
その韓国で政権交代が実現することになった。左派の文在寅政権は同じ左派の李在明政権に引き継がれず。5月10日からは右派(保守)の尹錫悦政権へと移行する。
その時代は”終わる”のだろうか。
右派の尹錫悦政権のほうが「日韓関係が改善される」と期待されるのはなぜか。
韓国の反日を「理屈」の面から少々。筆者の見立てを。
敗れた李候補「日本は信頼できない」の2週間後に「日本国民を愛している」
日本の視点から見ると、文在寅政権時代は「韓国左派の反日」に触れてきた5年間だった。今回の大統領選では、右派の尹錫悦氏より「反日的」と言われた李在明候補が敗れた。その発言を振り返るとその「左派の反日」がよく分かる文脈があった。
結論から言うと、そこには「反帝国主義的要素」が加わっていたから、ちょっと”ジメ”っとしているのだ。
今回の大統領選で、日本メディアでも敗れた李在明候補について紹介する際、よく使われた発言があった。2021年11月10日、伝統ある韓国メディア関係者の会「寛勲会」招待討論会でのものだ。
日本のワイドショーをウォッチングしていると「安保問題を話しているのに、領土問題を引き合いに出していてよく分からない」といった意見もあった。
しかしこの発言のわずか2週間後、11月25日にソウルプレスセンターで行われた外国人記者団会見時にはこうも発言している。
は? 全く逆のことを言ってる?
日本の感覚でいうと「二枚舌」、「外国人記者クラブでビビったか?」、あるいはこの日韓関係が冷え切った時代に韓国側からよく聞かれる「政治は冷え切っているものの他分野では交流を」という「それはそれこれはこれ論」の都合の良さを感じたりもするか。
別の視点から言うと、大統領候補が公の場で「日本が好きだ」とも言い切れるのだ。一昔前だとこれはあまり見られなかったものだ。
筆者の個人的な経験でいうと04年にサッカーの韓国代表選手(李天秀)との電話インタビューで先方が「僕は日本が好き」と言い切り、逆にこちらが驚いたことがある。本人は「問題が仮に起きても、その後にちゃんと説明すればいい」と言い切った。まあ彼は珍しいタイプではあったのだが。時代は変わったものだ。
話を戻すと、李在明氏はこの11月25日のイベントでこうも発言している。
いわゆるそれまでの左派文在寅政権の立場と同じ「強硬発言」だ。
韓国側の「日本に関する区別」
ここからが今回の話のポイントのひとつだ。この日の発言内容を報じた保守系の有料紙「中央日報」は、李在明氏の同日のこの発言もまた強調している。
「慎重で隣人を配慮する日本人の姿は美しいが、日本の一部政治家は軍国主義・拡張主義的思考を持っている」「政治・外交と社会経済問題は区別しなければならない」
筆者自身、これを韓国人が「大日本帝国」と今の「日本国」を分けて考えているものと解釈している。日本では「反日」と一括にされるが、何もかもに怒っているのではなく、ピンポイントで「大日本帝国復活の雰囲気」に怒っているのだ。そこに繋がるものは根絶やしにしようとする。
この点には特に左派が敏感だ。70年代~80年代の民主化を求める市民運動にルーツがあり、「自分たちが社会の主体」という意識が強い。「帝国主義」たるや、自分たちを脅かすものなのだから許せない。
ターゲットは安倍晋三元首相であり続けてきた。
2019年の夏の「NO JAPAN」運動ではじつは「JAPAN」ではなく、「NO 安倍」のロゴが多く見られたのだ。憲法改正で再軍備しようとしている。ホワイト国除外による”韓日貿易戦争”での挑発。帝国主義的匂いがする安倍晋三氏が憎い。
この時は左派のデモの列帯に筆者から「日本から来ました」と声をかけ話を聞こうとすると、普通に会話が出来た。60代と思しき男性からは「ようこそ韓国にいらっしゃいました」とさえ言われた。デモの最終地点は日本大使館ではなく、「安倍と繋がっている」とされる保守系(右派)有力紙「朝鮮日報」本社前だった。訴えた内容は「廃刊しろ」だった。
日本から見た反日の「不思議」
合わせて、日本では「反日のくせに韓国人が日本アニメに夢中」といったニュースが報じられる。2016年の「慰安婦合意反対」、前出の「NO JAPAN」でもそうだった。アニメは「大日本帝国(帝国主義)の復活」とは何ら関係ないからだ。だから見る。言う人は「日本が好きだ」とも言う。
それは日本から見ると「都合がいい」と捉えられるのだろうが。
ただ2019年の「NO JAPAN」運動の際、ネット上の冗談から始まった「不買運動」は少しだけ雰囲気が違った。「今の日本」に繋がるものだったのだ。しかし、いつしかその雰囲気は消えた。2021年秋にはユニクロのロングコート発売時に長蛇の列ができ、ECサイト上ではSENKA「パーフェクトホイップ」が横綱級の売れ行きだ。ほかでもない、運動が共感を得なかったからだ。
この5年間は「はじけた」時代でもあった
2017年3月10日、朴槿恵大統領罷免の日を現地で取材した。事実上、左派の時代が始まった日だ。
韓国ではデモで用いたグッズを引用して「ロウソク革命」とも言われるが、それはまさに「革命」の雰囲気だった。社会が劇的に変わる瞬間。10年間右派に政権を譲ってきた時を取り戻す時が来た。それも相手をクビにして。現場には達成感のような空気が漂った。
ただし、実際には”はじけすぎ”て、理論に酔いしれた面は否めなかった。筆者が見聞きするなかにおいては、韓国の左派の反日とはこういったものだ。
- 文在寅大統領自身もかつて関わった、1970年代、80年代の民主化市民運動がルーツ。
- 自分たち市民こそが主体、という考えが強い。
- 既得権益や帝国主義を忌み嫌う。長らく自国を支配してきた「保守」がまずは大きな敵。
- その背後にいる「日本」も然り。
ただし、日本でも多く報じられた通り、9日の選挙は得票率1%以内の超激戦だった。国のリーダーが変わるいっぽうで「およそ50%」の左派が韓国から消えるわけではないわけで、このスタイルの”反日”は確実に社会に残るだろうが。
韓国極右とのインタビュー「日本はかつてカッコよかった」
では韓国での新政権を担う、右派の反日とはどういうものか。
”極端な本音”を聞き出したことがある。
2014年、産経新聞の加藤達也支局長(当時)が韓国から出国禁止となった際、支局長を名誉棄損で訴えた「極右系市民団体」のトップにインタビューをしたことがある。想像よりもはるかにスポーティーな恰好をして、サングラスをかけた40代の男性だった。
右派にとって「偶像」、朴正煕元大統領の娘たる朴槿恵氏をコラムで侮辱したとは許せん、というのが彼の言い分だった。
インタビューの本筋以外の話として慰安婦問題について聞くと、こんな答えが返ってきた。
「明治維新以降、韓国を統治したころまでの日本を男に例えたとしたら…正直なところめちゃくちゃカッコいいと思う。頭が良くて、強くて、お金がある。女だったら惚れるな」
でも、と彼は続けた。
「だからこそ、なんで今、おばあちゃんたち(元慰安婦)の多くが亡くなろうとしているのに謝罪して、彼女たちのしっかりとしたケアが出来ないんだ? あんなにカッコよかった日本が」
これはホント「極端なぶん分かりやすい」という意味で貴重なコメントだった。数多くの韓国人と話してきて”日帝時代の日本をカッコいい”とまで言った人はこの人だけだが、でなくとも韓国の右派の人たちには侍精神や明治維新のマインドなどに共感を覚えている人も多い。同じ右派としてのシンパシー、というと言い過ぎか。また70年代、80年代の日本による経済協力への感謝も聞いたことがある。
ただ口の悪いご高齢の紳士が多い、という傾向もあってなかなか厄介なのだが。「おまえたち、期待してんのになんなんだよ」という感じであれこれ言われる。竹島問題に最も敏感な印象。これは左右ともに関わってくるものだ。いっぽう慰安婦問題、徴用工問題は左派が強く主張するものだ。
言い換えるならば、右派はちょっとカラっとしている。左派よりは。2015年前後に韓国の極左、極右双方とインタビューをしたが、右のほうがまだ話がしやすかった。筆者が25年来韓国の人たちと直接言葉を交わしてきて感じる印象だ。
理屈上はこうなのだが、実際には右派の李明博政権時代の「ボス自ら竹島訪問」のようなスゴい出来事が起きて、ひっくり返ってしまうのも韓国の反日の難しさなのだが。国内外の状況に応じて温度が変わってしまうのだ。
岸田サン、ぜひともまずは韓国に意見を言い返してください。諸般の裁判結果について「国内での対応を求める」と突っぱねるばかりでなく。徴用工問題での韓国内の裁判で「日本側がずっとスルー」という韓国メディアの情報に触れるにつれ、ちょっとカッコ悪くも感じてしまいました。ちょっと思考が止まってるんじゃないかと。「何か基準が変わりました?」くらい言い返したらいいのに。
期待しています。