北欧の報道機関は中道左派寄り・極右嫌い ノルウェー・スウェーデンの調査結果
「もし、報道機関の編集長や記者だけが、総選挙で投票する権利を持っていたら、国会の構図はどうなる?」
このような調査は毎年ノルウェーで開催されている。日本でいうと、NHK、大手の新聞社・テレビ局・ラジオ局の編集長・ディレクター・記者が回答していることになる。
- ニュース配信者が「中道左派寄り」
- 極右(右翼ポピュリスト)の支持者はほとんどゼロ
- 中道左派、もしくは左派・極左とされている政党の議席が大幅に増える
- 小政党が議席数を伸ばす
- 労働党がリーダーの中道左派・連立政権となる
- 一般市民と報道関係者との政治思考には、明らかに違いがある
これは驚きのデータではなく、以前からこのような状況だった。なぜ、極右の支持者がSNSやニューメディアに流れるかは、不思議な現象ではないだろう。
デンマーク、ノルウェー、スウェーデンの報道機関が大集合する「北欧メディア祭」が5月に開催され、今年はノルウェーとスウェーデンが重点的に比較調査された。
さて、今年のデータはどうなっただろう?
ノルウェー版「もし、総選挙が明日あるとすれば、どこの政党に投票する?」
上から順番に、極左・左派・中道左派・中道右派・右派・極右と政党が並ぶ
「赤党」(極左)
・ジャーナリスト 12%
・視聴者・読者 5%
「左派社会党」(左派)
・ジャーナリスト 21.1%
・視聴者・読者 9.1%
「労働党」(左派ブロックに政権交代が起きると、首相を出し、リーダーとなる政党)
・ジャーナリスト 22.3%
・視聴者・読者 26.7%
「中央党」(中道左派)
・ジャーナリスト 7.1%
・視聴者・読者 11%
・・・・・・
「自由党」(中道右派)
・ジャーナリスト 5.7%
・視聴者・読者 4.2%
「キリスト教民主党」(中道右派)
・ジャーナリスト 2.5%
・視聴者・読者 4.2%
「保守党」(現在のソールバルグ首相の党、中道右派)
・ジャーナリスト 13.3%
・視聴者・読者 26.3%
「進歩党」(極右)
・ジャーナリスト 1.8%
・視聴者・読者 9%
「緑の環境党」(右派か左派ブロックか表明せずに、「環境政策を重要視する側と連立する」としている。実際には、筆者にとっては中道左派・左派寄りといえる)
・ジャーナリスト 13.3%
・視聴者・読者 3.7%
コメント:
数字をみてもわかるように、もしニュースを作る側だけに投票する権利があったら、国会は明らかに中道左派政権となる。
ノルウェー版の極右「進歩党」の議席数は、ジャーナリストたちが有権者だった場合は0議席、視聴者・読者側が有権者だった場合は14議席となる。
報道機関が、時に右翼ポピュリスト現象の理解に頭を抱えているのは、驚きだろうか?
ノルウェーは石油・天然ガスの産出国だが、「緑の環境党」は油田・ガス田の掘削に最も否定的だ。
しかし、オイルマネーがなくなることに不安を覚える人は多い。「緑の環境党」支持者が、市民側の4倍も記者側に多いのは注目に値する。
スウェーデン版「もし、総選挙が明日あるとすれば、どこの政党に投票する?」
※上から順番に、極左・左派・中道左派・中道右派・右派・極右と政党が並ぶ
「左翼党」(極左)
・ジャーナリスト 32%
・視聴者・読者 16.5%
「社会民主労働党」(現在のロベーン首相の政党)
・ジャーナリスト 24%
・視聴者・読者 24.4%
「中央党」(中道)
・ジャーナリスト 9.3%
・視聴者・読者 6.6%
「自由党」(中道)
・ジャーナリスト 5.3%
・視聴者・読者 5.1%
「キリスト教民主党」(中道右派)
・ジャーナリスト 3.3%
・視聴者・読者 7.3%
「穏健党」(中道右派、右派ブロックに政権交代が起きると、リーダーとなる政党)
・ジャーナリスト 4%
・視聴者・読者 16.8%
「スウェーデン民主党」(極右)
・ジャーナリスト 2.7%
・視聴者・読者 15%
環境党(ノルウェーの環境党と同じく、右派左派ブロックの表明はしないが、実際には中道左派との連立が多い)
・ジャーナリスト 14.7%
・視聴者・読者 5.9%
コメント:
ノルウェーと同じように、スウェーデンのニュース配信側には中道左派・緑の党の支持者が多く、極右政党を好まない。
ノルウェーよりもスウェーデンのほうが中道左派の傾向がより強い。
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日本では「中立的」という言葉が、北欧よりも頻繁に求められている気がする。
ノルウェーやスウェーデンでは、「中立的」よりも、報道陣は「批判的」であるべきという表現がより使われる。
中立的でバランスをとろうとするよりも、相手の言葉をうのみにせず、批判的な目線を持つ。
北欧では、政治に無関心よりも、政治に関心のある国を民主的とする。そのため、人々や報道陣側の政治的思考が偏っていても、悪いとは限らない。
とはいえ、報道陣側の極右嫌いは顕著。「夢を見ている理想家たちだ」と、一部の市民はバカにする「緑の党」をより支持している。
権力者と市民の距離が近いことを「北欧モデル」とするならば、ニュース配信側と受け取る側の認識に食い違いありすぎるのは、問題ではないか。
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「現地報道によると……」という文字を、日本の北欧に関するニュースで見ることもあるだろう。
その現地ニュースを作っている人たちには、こういう思考の傾向がある。知っておくと、ニュースの裏をさらに深読みできるかもしれない。
Photo&Text: Asaki Abumi