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日米共同開発の極超音速兵器迎撃ミサイルGPIはノースロップのコンセプト採用で決定 日本担当の部位は?

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
日米が共同開発する「滑空段階迎撃用誘導弾」(GPI)のイメージ図(ノースロップ)

防衛省は9月26日、極超音速兵器を迎撃する新型ミサイル「滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)」の日米共同開発について、米防衛大手ノースロップ・グラマンが提案した開発コンセプトを採用すると発表した。

米国防総省傘下のミサイル防衛庁(MDA)は2021年にGPIの開発を開始、翌2022年からはノースロップとRTX(旧レイセオン・テクノロジーズ)の2社と契約の上、両社の案を競合させてコンセプトの選定を進めてきた。

●4つの評価ポイント

日米は2023年8月、GPIの共同開発の開始を決定した。2社が提案したコンセプトの性能、コスト、スケジュール、リスクの4つのポイントを日米両国がそれぞれの立場から総合的に評価した結果、ノースロップのコンセプトを採用することで一致した。

防衛省担当者は「契約の仕組みもあり、両社のコンセプトの詳細は述べられない」と説明した。ただし、ノースロップのコンセプトの特徴としては、①3段式ロケットモーターによって加速すること、➁弾頭部分のキルビークルによって目標を破壊すること、③イージス艦のミサイル垂直発射装置(VLS)から発射されることーーの3点を挙げた。その一方、採用されなかったRTXのコンセプトについては「RTXの今後の活動に差し障りがあり得るので一切申し上げられない」と述べた。

日米共同開発の「滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)」コンセプト決定についての防衛省の説明資料(筆者が接写)
日米共同開発の「滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)」コンセプト決定についての防衛省の説明資料(筆者が接写)

●かなりの前倒しとなったコンセプト決定時期

防衛省は今年5月に行ったGPIの日米共同開発に関する記者ブリーフィングで、GPI開発段階において2つのコンセプトから1つを決定するのは2030年ごろと説明していたが、実に5年以上の前倒しとなった。なぜか。

その理由について、防衛省担当者は「コンセプトが具体化して、性能、コスト、スケジュール、リスクに関する検討結果が揃った。コンセプトを選択するのに必要な情報が揃った」と説明、「あわせて日米がそれぞれ独自に総合的に評価し、意見が一致したこともあり、この段階でコンセプトを決定した」と述べた。

●今後のスケジュール

今後のスケジュールについて、防衛省担当者は、ノースロップのコンセプトに基づき、日米が向こう5年程度、基本的な設計と検証を積み重ねて設計データや知見を蓄積する必要があると説明。今回2社のコンセプトから1つを決定したものの、こうした作業は依然として必要だと述べた。そして、2030年ごろに実際に装備品を作っていく製品開発段階に移行し、2030年代の開発完了を目指していると説明した。

日米が共同開発する「滑空段階迎撃用誘導弾」(GPI)のイメージ図(ノースロップ)
日米が共同開発する「滑空段階迎撃用誘導弾」(GPI)のイメージ図(ノースロップ)

●日米が開発を担当するGPIの部位

日米のワークシェア(作業分担比率)に関連し、日本が開発を担当するGPIの部位について、防衛省担当者は、2段目のロケットモーター、2段目の操舵装置、キルビークルと呼ばれるミサイルの先頭部位の推進装置と操舵装置の開発が主となる予定と述べた。

一方、米国は3段目のロケットモーターを担当する。また、全体のインテグレーション(システム統合)も米国が担当する。

1段目のロケットモーターについては、迎撃ミサイルのSM-3ブロック2Aなどで使われている既存のMk(マーク)72ブースターを使用する。

防衛省担当者は「(3段式のGPIは)1段目で最初の加速を行い、2段目で相手の方に向かって飛行する。そして、切り離されて3段目が最終方向に向かっていく」と分かりやすく説明した。

日米共同開発のGPIのコンセプト決定についての防衛省の説明資料。日米はイージス艦やイージス・システム搭載艦でのGPIの運用を予定している。イージス・システムを通じてコントロールされる(筆者が接写)
日米共同開発のGPIのコンセプト決定についての防衛省の説明資料。日米はイージス艦やイージス・システム搭載艦でのGPIの運用を予定している。イージス・システムを通じてコントロールされる(筆者が接写)

艦載型のGPIは海上自衛隊のイージス艦と将来のイージス・システム搭載艦(ASEV)への搭載が予定されている。

同じように日米共同開発されたSM-3ブロック2Aは、大気圏外でキルビークルが目標物に対処する。

SM-3ブロック2Aの日米の開発分担(平成29年度版防衛白書より)
SM-3ブロック2Aの日米の開発分担(平成29年度版防衛白書より)

これに対し、GPIに翼となる操舵装置が付いているのは、目標物となる極超音速滑空兵器(HGV)が速く、その滑空高度も弾道ミサイルよりも低いため、大気圏内をうまく機動制御して滑空するために必要になるからだ。

日米共同開発の「滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)」コンセプト決定についての防衛省の発表文(筆者が接写)
日米共同開発の「滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)」コンセプト決定についての防衛省の発表文(筆者が接写)

●開発経費

開発経費について、防衛省担当者は「開発コンセプトが1つに決定できたことから、速やかに金額の精査を進めていく。今回2つのコンセプトが具体化する過程で、米国企業より開発経費の見積もりについても提案を受けたが、今後予定している国内企業との契約なども踏まえ、日本政府としての見積もりについて速やかに金額の精査を進めていく流れになっている。現時点で契約も済んでいないことから、トータルでいくらかかるかとはお答えできないことをご理解いただきたい」と述べた。

一方、米国防総省はGPIの共同開発にかかる総費用が30億ドル(約4340億円)を超えると推計したこのうち、日本は10億ドルを拠出すると伝えられている。

これについて、防衛省担当者は、令和6(2024)年度予算で757億円の開発費を計上したことを説明。「実際のミサイルの開発経費については、その時点で改めて検討することになるため、今の時点で日本側で確定的に総経費がいくらになるかとはお答えできない」と繰り返した。

防衛省は現在、日本企業と契約手続き中で、年内に正式契約する予定だ。

北朝鮮や中国、ロシアが開発・実戦配備を進めている極超音速兵器は、音速の5倍(マッハ5)以上で低空を変則軌道で飛行するため、通常の弾道ミサイルと比べて探知や迎撃が難しいとされる。岸田首相とバイデン米大統領が2023年8月の首脳会談でGPIの共同開発で合意していた。

GPIは日本の統合防空ミサイル防衛能力と日米同盟の抑止力・対応力を向上させることが目的となっている。これからの日本にとって甚大な脅威となる極超音速ミサイルに対処するもので、日本防衛の鍵となりうる新たな盾になる技術と言える。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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