前人未到のキャリアを突き進むFW植木理子。U-20女子W杯優勝を経て、見据える次のステージ
【期待を背負ったストライカー】
美しく、粘り強いサッカーで観客を魅了し、U-20女子W杯で世界の頂に立ったヤングなでしこ(U-20日本女子代表)。
15得点3失点と得点力が光ったが、その内訳をみると、5ゴールずつを決めたFW植木理子とFW宝田沙織の決定力が際立っていた。
得点王は6ゴールを決めたスペインとイングランドの選手だったが、宝田はブロンズブーツ(得点王第3位)を獲得。一方、植木は出場時間の関係で個人賞には届かなかったものの、表彰台で見る表情は実に晴れ晴れとしていた。
植木は大会前から、日本のキープレーヤーとして注目を集めていた。2016年のU-17女子W杯は、6試合4ゴールの活躍で準優勝に貢献。2017年のU-20女子W杯アジア予選の決勝では、鮮やかな決勝ゴールを決めて日本を優勝に導いた。
年代別代表だけでなく、国内リーグで確かな実績を残してきたことも、期待を高めた一因だろう。
快足を生かしたドリブル、巧みなフェイントとスピードの緩急、そして冷静なフィニッシューー特に縦へのスピードは、国内ではぶっちぎりの速さを誇る。
植木が所属する日テレ・ベレーザ(ベレーザ)は、なでしこジャパンの選手がスタメンのほとんどを占め、現在、国内リーグを3連覇中の強豪だ。そのベレーザの下部組織で育った植木は、2016年にトップチームに昇格。厳しい競争の中で揉まれながら結果を残し続け、3シーズン目にしてチームの得点力を支えるFWの一人になった。
そして、今年1月にはなでしこジャパンの国内キャンプに初招集されている。シーズン開幕後は、4月から7月にかけてリーグ戦と並行して行われたリーグカップで得点王に輝き、タイトル獲得の原動力になった。
心身ともに充実した中で迎えたU-20女子W杯。植木は大会前、自分を奮い立たせるように言った。
「(U-20女子W杯では)大事な試合で点を取りたいです。去年のアジア予選の決勝で、大きな舞台の決勝で初めて点を取れたことが自信につながりました。あれが偶然で終わらないように、W杯の舞台でチームを勝利に導きたいです」(6月/イングランド遠征)
U-17やU-19の大会とは異なり、20歳になると、ライバル国の選手たちの身体能力や駆け引きのレベルもA代表にグッと近づく。国内リーグとは異なるリーチの長さやパワーを持った相手に、自分のストロングポイントがそう簡単には通用しないかもしれないーーそんなイメージを抱きながらも、植木は楽しみにしていた。
「“よーいドン”の(単純な)スピードでは勝てないかもしれませんが、スピードに乗ったドリブルの切り返しなどで、勝てる部分があると思います。そういう形でゴールを決めたいですね」(初戦・アメリカ戦前日)
初戦のアメリカ戦(◯1-0)は植木自身も守備に回る時間が多く、虎視眈々と裏のスペースを狙う動き出しを見せていたものの、良い形で勝負することはできなかった。
第2戦のスペイン戦(●0-1)では、後半途中出場で流れを変えた。ピッチに立った1分後に、ペナルティエリアのライン手前で相手をドリブルで振り切り、倒されてフリーキックを獲得。その後も、エリア内で相手のボールを奪って強烈なシュートを見舞うなど存在感を見せたが、ゴールには結びつかなかった。
はっきりと口には出さずとも、2試合無得点の状況は植木にとっても辛かったはずだ。
事態が好転したのは、グループステージ(GS)第3戦のパラグアイ戦だ。宝田の2ゴールで2点をリードして迎えた44分、宝田のクロスに合わせて豪快なダイビングヘッドで3点目を決めた。その瞬間、植木の表情に吹っ切れたような笑顔が浮かんだ。
この後、植木は2ゴールを追加。自力での決勝トーナメント(決勝T)進出には4点差以上の勝利が求められる中、宝田とともにWハットトリックを達成してストライカーとしての責任を果たし、チームを勢いづけた。
【歴史を塗り替えたイングランド戦のゴール】
植木が大会を通じて決めた5ゴールのうち、最も印象に残ったゴールを挙げるなら、やはり準決勝・イングランド戦の1点目だろう。それは、日本がこれまでのU-20女子W杯で越えられなかった準決勝の壁を打ち破るための、重要なゴールだった。そして、植木らしさが凝縮されたゴールでもあった。
前半22分。エリア内で相手DFを背負いながらMF遠藤純のパスを受けると、俊敏な動きで左に反転。そこからゴールに並行するようにドリブルでマーカーを置き去りにし、ゴール中央から鋭角に右足を振り抜く。ファーストタッチからシュートまでは、3秒かかっていない。「自分の得意な形に持っていけた」という言葉通り、体に染み付いたイメージ通りの形だった。その後は守備でも献身的に走り、2-0の勝利に大きく貢献した。
83分に交代でピッチを去る植木に、スタンドから大きな拍手が沸き起こった。それは、サッカー大国の目の肥えたファンたちから若きストライカーに対する、最大の賞賛だったのだろう。
【好パフォーマンスを支えた声かけ】
「試合前は、緊張するタイプなんです」。
初戦の前日に、植木が少し照れ臭そうに漏らした一言が忘れられない。そして、その緊張をほぐすため、キックオフの笛が鳴る前にセンターサークル付近で「2回ジャンプしてから深呼吸をする」というルーティンをこなしていることを教えてくれた。植木のそんな性格を、チームメートが理解していたのも大きかった。
ハットトリックを決めたパラグアイ戦の後、植木はある選手に感謝を伝えている。
「チャンスを決めきれなくて、焦りもあったのですが……大先輩にああいう言葉をかけてもらえて幸せです。その分も自分が頑張らなきゃいけないなと思わせてくれる、大きな言葉でした」
それは、「植木、大丈夫だよ!」という、試合中のさりげない一言だった。声をかけたのは、ベンチにいたFW児野楓香。植木にとっては2学年上で、2014年U-17女子W杯優勝を経験したサッカー人生の先輩でもある。気持ちを奮い立たせるには十分だった。
児野本人はこの言葉について、
「試合前、(植木が)結構ガチガチになっちゃっていたので。声をかけて、楽に(プレー)できるようにしてあげたいと思った」(児野)
と振り返っている。一度しかない大舞台だからこそ緊張するけれど、肩の力を抜いて自分らしくプレーしてほしいーー児野には植木の気持ちが理解できたのだろう。
その後、決勝Tに進んでからの植木は、ゴールへの執念が前面に表れていた。
味方の動きを見ながらボールを引き出す動きを繰り返し、隙あらば自分で仕掛ける。ミスをしても下を向くことはなく、その積極性が相手ディフェンダーの注意を引きつけて味方をフリーにし、ゴールへの伏線にもなった。
史上初の決勝進出を決めたイングランド戦の後、植木はこんな風に話している。
「『理子はどんどんシュートを打って、ミスしてもいいから自分らしくやれ』と言ってくれる先輩がたくさんいる。ミスをしても仲間が助けてくれると思えることが、すごく力強いです」(植木)
大会直前に19歳の誕生日を迎えた植木にとっては、チームの半数以上が先輩にあたる。そんな仲間たちのサポートも、植木のパフォーマンスを引き出した大きな要素だった。
【次のステップへ】
なでしこジャパンの選手は、兄弟や姉妹の影響などで、小学校に入る前からサッカーを始めたという選手も多い。そんな中、植木がサッカーを本格的に始めたのは2011年、小学校5年生の時だったというから驚く。
そして、翌年には、日テレ・メニーナ・セリアスのセレクションに合格している。中学生年代の強化を目的に、メニーナと並行して2012年3月に創設された、日テレ・ベレーザのもう一つの下部組織だ。
そこで特別な才能を見出された植木は、その後、2015にメニーナに昇格。翌年にはトップのベレーザの試合に出場し、デビュー戦から4試合連続ゴールの活躍で注目を集めている。そして、その後も代表選手たちの中で日々研鑽を積み、今年から正式にベレーザに昇格した。一見順調すぎるほどに見えるそのキャリアの陰に、植木自身の血の滲むような努力があることは容易に想像がつく。
植木がサッカーを始めた2011年は、なでしこジャパンが初めて世界一になった年でもある。植木は、その影響も多分に受けたのだろう。そこに、運命のいたずらを感じずにはいられない。
当時の彼女は想像できただろうか。わずか7年後に、自分がフランスの地でカップを掲げることをーー。
ベレーザのチームメートで、なでしこジャパンの常連メンバーでもあるDF有吉佐織が、昨年末に語っていた言葉を思い出す。
「理子が入るとチームに勢いがつくし、もう一回(点を獲りに)行けるぞ、と。結果を残してくれるし、厳しい試合状況でも何かしてくれるんじゃないかと期待できる。“飛び道具”じゃないですけど、去年(2016年)のベレーザにはなかった新しい強みだと思います」(有吉/2017年11月皇后杯3回戦)
その有吉をはじめ、代表選手たちのプレーを日々間近に見ている植木にとって、なでしこジャパンはもはや遠い存在ではないはずだ。だが、同時にそのレベルの高さも肌で感じて知っているだろう。
現在のなでしこジャパンには、それぞれに異なる特長を持ったFWが揃っている。そして、植木の特長は、おそらくどのFWとも被っていないと思われるだけに、チャンスをしっかりと生かすことができれば、自ずと道は開けるはず。
だからこそ、今は持てる武器を最大限に研ぎ澄ましーーその時が来るのを待つだけだ。