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日本海側の雷は冬が主 53年前には冬季雷による金沢での自衛隊機墜落

饒村曜気象予報士
雷(写真:アフロ)

雷の発生

 雷は、空気中での音と光を伴う放電現象で、強い上昇気流がある積乱雲で生じます。

 積乱雲の中には氷の結晶やひょう、あられが混在し、激しい上昇気流によって衝突を繰り返します。

 あられは、雲の中で過冷却した微小な水滴が、雪の結晶などに次々と衝突し、凍りついてできたもので、大きさが5ミリ以上のものをひょうと呼んでいます。

 従って、あられやひょうは、雪の結晶よりも大きく重たいものです。

 衝突した氷の粒子は摩擦力によって静電気が生じ、小さい粒は正電荷、大きい粒は負電荷を帯びる性質がありますので、大きくて重たいあられやひょうは負電荷を帯びて雲の下部に集まります。

 一方、小さくて軽い氷の結晶は正電荷を帯びて雲の上部に集まります。

 こうして雲の上下に正負の電気が蓄えられ、一定以上になると、雲と雲、雲と地面の間に放電が起きるのです。

 これが雷で、多くの雷は雲の下部の負電荷からのものです。

 夏の太平洋側の雷雲の高さは1万メートルを超えますが、冬の日本海側の雷雲の高さは5000メートル程度と低いため、雲の雲頂付近の正電荷からの落雷もあります(図1)。

図1 雷の摸式図
図1 雷の摸式図

雷の多い地方

 日本で雷が多いのは、東北から北陸地方にかけての日本海沿岸の観測点で、金沢の45.1日が最多です(図2)。

図2 全国各地の気象台や測候所の目視観測に基づく雷日数(雷を観測した日の合計)の平年値(平成3年(1991)~令和2年(2020年)までの30年間の平均)
図2 全国各地の気象台や測候所の目視観測に基づく雷日数(雷を観測した日の合計)の平年値(平成3年(1991)~令和2年(2020年)までの30年間の平均)

 20年以上前、全国に約100か所あった測候所の目視観測に基づく雷日数の分布では、図2より詳しく、北関東、九州日田・国分地方、秋田から敦賀に及ぶ日本海沿岸が多くなっています。

 その図2のような雷日数の分布も、今後は得られなくなります。

 というのは、気象庁では令和2年(2020年)2月3日までに、新潟、名古屋、広島、高松、鹿児島を除く各地方気象台及び測候所は自動化したからです。

 従って、図2にある中の金沢、高知、宇都宮の平年値は、自動化以前の観測値(期間は地点により異なる)から求めた参考値です。

 そして、令和13年(2031年)以降用いる平年値では、現在、参考値となっている雷日数はなくなります。

 目視観測に基づく月別の雷日数は、宇都宮のような内陸部では夏に多く、金沢のような日本海側の地方では冬に多くなっています(図3)。

図3 月別の雷日数(左は宇都宮、右は金沢)
図3 月別の雷日数(左は宇都宮、右は金沢)

 日本海側の地方で雷日数が多いのは、夏だけでなく冬も雷の発生数が多いためです。

 数が多いだけでなく、日本海側の雷は、夏の太平洋側の雷の場合の半分以下の、背の低い積乱雲でも発生しますが、その威力は太平洋側とそん色がありません。

 むしろ強いという人もいます。

 このため、日本海側の地方では、冬の雷によって多くの被害が発生しています。

 今から53年前にも、冬季の雷によって大惨事が発生しています。

自衛隊機墜落

 今から53年前、昭和44年(1969年)2月8日11時59分ごろ、金沢市の住宅に航空自衛隊小松基地のF-104J戦闘機が墜落し、市民4人が死亡し、民家16戸が全半焼するという自衛隊初の大惨事となる事故が発生しています。

 戦闘機は、茨城県の百里基地から小松基地に向かう途中で、金沢市上空1,000メートルで雷の直撃を受けたことによる墜落でした。

 当時、本州の南岸を前線を伴った低気圧が東進し、日本海には上空に強い寒気が入っていることを示す小さな低気圧がありました。

 日本海の低気圧から天気図には記入されない弱い寒冷前線が南西にのびており、大気は広い範囲で不安定でした(図4)。

図4 昭和44年(1969年)2月8日9時の地上天気図
図4 昭和44年(1969年)2月8日9時の地上天気図

 事実、能登半島先端の輪島の上空約5500メートルでは、強い寒気の目安である氷点下30度を下回る氷点下32.1度を観測しています。

 また、レーダー観測によると、高さが4000メートルくらいの積乱雲が海上から陸上に移動していました。

 金沢地方気象台では、早朝からみぞれや雪あられを観測しており、11時58分に強い雷電(一声のみ)を観測しています。

 そして、その約1分後に自衛隊機墜落の衝撃音を聞いています。

 冬の日本海側の地方では、昔から冬の大荒れの天気に伴う雷を「雪おこし」として恐れてきました。

 この現象は今も同じです。

 冬の日本海側の地方では、いまでも雷が鳴ったら、要警戒です。

図1の出典:饒村曜(平成26年(2014年))、天気と気象100、オーム社。

図2、図3の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:気象庁資料をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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