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まもなく8000話の「サザエさん」 制作した老舗アニメ会社 半世紀超の歴史

河村鳴紘サブカル専門ライター

 世界で最も長く放送されているテレビアニメとしてギネス世界記録を持つ「サザエさん」を半世紀以上にもわたって制作しているアニメ制作会社のエイケン(東京都荒川区)。「鉄人28号」や「ガラスの仮面」「ぼのぼの」など数多くの作品を世に送り出しています。アニメ業界の歴史ともいえる同社の活動を振り返ってみます。

◇最初はアニメ会社ではなく…

 エイケンの歴史は1952年に自動車輸入のヤナセが設立した日本テレビジョン。テレビ受像機の輸入販売をしながら、将来的な需要を見越して1953年からCM制作事業に着手、同時にテレビCM用のアニメも手掛けていきます。サントリーの「トリスウイスキー」や、桃屋の「のり平」シリーズなど多くの作品を世に送り出します。

 そして1963年、同社初の連続テレビアニメ「仙人部落」をスタートし、同年に「鉄人28号」や「エイトマン」も展開。当時は白黒テレビでしたが、1968年にはカラーアニメ「サスケ」を世に送り出します。そして1969年から「サザエさん」が始まるのです。

アニメ「エイトマン」(c)平井和正・桑田二郎/TBS
アニメ「エイトマン」(c)平井和正・桑田二郎/TBS

 同年、日本テレビジョンは社名をティー・シー・ジェーに変更、同社の映画部が新会社「TCJ動画センター」として独立し、映画部の部長だった村田英憲さんが新社長になります。そして1973年、TCJ動画センターは社名を変更。村田さんの名前「英憲」を音読みした「エイケン」にして現在に至ります。

── 社名の由来を聞かせてください。

 創業者の村田英憲の名前からです。もともと愛称で「エイケン」と呼ばれていて、そのまま社名に使ったそうです。

ぎりぎりまで手づくりにこだわったアニメ「サザエさん」の制作姿勢に、エイケン50年の歴史を垣間見る(アキバ総研)

◇「サザエさん」 長期放送の苦労は

 エイケンの看板アニメとも言える「サザエさん」は、長谷川町子の四コママンガが原作です。アニメは毎週3話の作品を放送しながも、1話の作品の中に必ず1点以上の原作を使用しているそうです。放送が半世紀にも及ぶと、電話など人が使うツールが時代に応じて変わるわけで、そこに違和感を持たせないようにしています。長期放送作品ならではの苦労もありつつも、隅々まで配慮して制作しているのですね。家電やテレビなどを意識してみると、面白いのではないでしょうか。

 さらにアニメ「サザエさん」の初期はタッチが違いますので、今見ると新鮮に思えるところもポイントです。

アニメ「サザエさん」 (c)長谷川町子美術館
アニメ「サザエさん」 (c)長谷川町子美術館

 なお、おなじみの全国を巡るオープニングは、1974年1月に放送された石川県金沢市の兼六園が最初。都道府県も半年ごとに変更し、季節に合わせて年4パターン放送しているそうです。上記でも述べた通り、原則1日につき3話放送なので、まもなく8000話に届きそうとのこと。半世紀以上という歴史の重みを感じます。

 余談ですが以前に同社を取材したとき、朝に訪れたにもかかわらず多くの社員が出社していました。当時は他のアニメ制作会社に行くと、昼ごろに取材に訪れても深夜まで仕事をするため、ほぼ人がいない光景に見慣れていたので違和感があって質問をしました。すると「ファミリー向けアニメを作るためには、制作する人が普通の社会人と同じ生活をしないといけない。だから休みも取り、徹夜も避ける。そうでないと、長く制作できない」と聞かされたことを覚えています。

◇広島県福山市で特別展開催中

 TCJ動画センターの設立から50年となる2019年からエイケンは、全国で自社の「50周年記念展」を企画しています。新型コロナウイルスの感染拡大に巻き込まれたものの、コロナ対策をしながら粘り強く展開中で、現在は、山陽新幹線の福山駅そばにある広島県福山市のふくやま美術館で開催しています。なお広島県は、創業者の村田さんの出身地だそうです。

 特別展「アニメサザエさんとともに50年」(主催・ふくやま芸術文化財団、ふくやま美術館、福山市、テレビ新広島)では、「サザエさん」を中心に、「エイトマン」「鉄人28号」「ガラスの仮面」「ぼのぼの」など1960年代から現在まで約400点の原画、セル画などを展示しています。ふくやま美術館は「年輩の方や家族連れが訪れて楽しんでいます」と話しています。

 特別展は27日まで。入場料は大人1000円、高校生以下は無料です。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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